獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち (イースト新書)

著者 :
  • イースト・プレス
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784781651279

作品紹介・あらすじ

「住処を奪われている」のは、人間の方だった。

食害、人身被害、生態系の破壊、そして感染症……
「動物愛護」だけでは解決しない、日本の緊急事態に迫る!

・鳥獣被害額は年間1000億円以上?
・列島全域が「奈良公園」状態
・寝たふりできないクマの激増ぶり
・レジ袋片手に冷蔵庫を荒らすサル
・ネコは猛獣。野生化ペットが殺す自然
・食べて減らす? 誤解だらけのジビエ振興
・獣害が生んだ新型コロナウイルス

近年、街中にシカやイノシシ、クマが出没して、よく騒ぎになっている。ニュースなどでよく目にする場面だが、そうした野生動物による「獣害」の深刻な実態を知る者は少ない。
駆除数はシカとイノシシだけで年間100万頭を優に超え、農林水産業被害の総額は、報告されていないものを含めれば年間1000憶を超えるといわれている。
「人間は動物の住処を奪っている」と思っている人は多いが、現在の日本においてはむしろ「動物が人間の住処を奪っている」のだ。
本書では、これまで様々な媒体で動物とヒト、そして森の関係を取り上げてきた森林ジャーナリスト・田中淳夫氏が「なぜ野生動物はこれほどまでに増えたのか?」「共存の道はあるのか?」といった難問に挑む。
動物愛護の精神だけでは解決しない「日本の大問題・獣害」について、偏見を捨て、改善に向けて現状を認識するための必読書。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルを見て、勝手に、「外来種による被害」を想像してしまったのですが、とくに外来種にスポットを当てた内容ではなく、主に在来種であるシカやイノシシ、クマ、サルなどによる被害について述べられた本でした。

    本当のところは、ちゃんと調べないとわからないのですが、この本の主旨は、日本の緑は復活していて、その影響で、野生動物が増え、結果として、野生動物による被害が増えている、というところになると思います。
    また、もともとペットとして飼われていた動物の野生化による危険性にも触れられています。

    我々は何となく、都市開発が進み、緑が減り、棲むところを追われた動物が人に被害を及ぼしている、と思いがちな気がしますが、それはどうやら正しくないようです。

    それから、この本では、獣害(とくにシカやイノシシ)の軽減方法として期待されているジビエについて、ジビエでの解決は難しい、と主張しています。
    ジビエに要求される捕獲方法や、ジビエに適した捕獲時期、効果のある狩猟方法と、狩猟する側のやりやすさや手間、メリットが、なかなか合致しない、というのは、なかなか興味深い視点でした。
    似たようなことは、あちこちで起こっていると思われるだけに、示唆に富んだ内容だと思います。

    全体的に、丁寧に取材して書かれた印象を受ける本でしたし、今、日本に起こっている問題の把握として、多くの人に読んでもらいたい一冊です。

  • シカや猪が明らかに増えている実感がある。山でとれる餌が不足しているから人家の近くに現れるのだという理屈はよく耳にするが、実際はそうでは無いらしいことを実地調査で推測している。とかく感情的な反応が現れやすい話だが、科学的にものを見極めようとの姿勢に好感が持てる。

  • 私は狩猟をやっているので、この本の題名「獣害列島」に興味を持って読んでみた。
    昨今、住宅街に熊が出る、鹿や猪が畑や森を荒らす、猿が民家にまで入ってくる等、獣害のニュースを頻繁に聞くようになった。
    これには人間が獣の棲家を開発で奪い、そのため餌を求めて山から下りてくるのだ、という論調が支配的である。
    しかし、この論調には科学的な裏付けが乏しく、実際には「動物が可哀そう」「殺さないで」とエモーショナルに語られる部分が多いように感じる。
    この本では、獣害が増加しているのは何故なのかを多角的な方向から考察し、実際には一般的な論調の真逆な光景が進行しており、思いもしなかった意外な現状を知る事になる。
    我々の常識がいかに同調意識より作られた非科学的なものかを思い知らされる。

  •  森林ジャーナリストの著者が、日本国内でシカやイノシシ、サルなどの獣害が増えている実情とその原因を探っていく。獣害対策として最近にわかに注目されている、各地の猟友会やジビエ料理などについても、その裏側の実態や負の側面もしっかり書かれており、新たな発見があった。

     著者の調査によると最近になって急に獣害が増えている訳ではなく、戦中戦後の伐採や毛皮などの需要増によって一時的に落ち込んだものが、今になって元に戻っているだけだという。実際、江戸時代には相当数の獣害があったことが記録に残っていた。
     戦後の急速な植林と現代の放置された山林が野生動物の増加につながっているという考察は、日頃から森林に足を運び、社会や人の営みと森林がどう関わってきたかを見つめ続けてきた著者ならではの視点だと思った。

     害獣というと、シカやイノシシ、サルなどを思い浮かべるが、天然記念物として保護されているトキやタンチョウヅル、ヤンバルクイナも個体数が増えてきて、今や農作物を荒らす”害獣”とみなされているケースもあることは意外だった。また『ネコ・かわいい殺し屋』の内容を紹介しているように、ネコの獰猛ぶりと病原菌は本当に恐ろしいと思っており、飼いネコといえども無闇に近づきたくない。害獣と呼ばれる野生動物だけでなく、家畜やペットとどう関わっていくかも考えさせられた。

  • 人間が自然を破壊し動物の棲家や食べ物を奪ってしまったから街中に現れるのだ、という考え方では解決しないんだと思った。人間の食べ物の味を野生動物に覚えさせてはいけないんだなと。動物だってうまいもの食べたいよね。

  • 野生動物との関わり方の歴史、現状、課題等分かりやすくまとまっている。自分や地域に何ができるかを考えることは、同じ地域の構成員として重要。

  • 仕事の都合で熊野の山奥にひと月だけ滞在したことがあるが、地元を愛して細々と農家をやっている老人たちの小さな喜びを獣害が奪っているのを目の当たりにした。
    熊野古道もマイナーな道はことごとくがイノシシに掘り返され荒れていた。

    いまだに町にクマがだたといったニュースについて、人間のために住処を追われているとかコメントしてる自称専門家がいるが、そうした根拠不明な論調に感じていた違和感が丁寧に説明され、大変納得できた。
    国土の7割以上が森である日本に住むということをもう一度考え直す必要があると思う。
    難しい問題に努めて冷静に向き合って丁寧にまとめられた優れた本であると思う。

  • 【目次】

    ▼第一章 日本列島は野生動物の楽園?
    ・身近な野生動物、イヌとネコ
    ・列島全域が「奈良公園」状態
    ・コンビニ前にたむろするイノシシ
    ・寝たふりできないクマの激増ぶり
    ・レジ袋片手に冷蔵庫を荒らすサル
    ・ラスカルは暴れん坊! 外来動物の脅威

    ▼第二章 破壊される自然と人間社会
    ・鳥獣被害額は一〇〇〇億円以上?
    ・森林を草原にする知られざる破壊力
    ・檻と化した集落に閉じ込められた人々
    ・ネコは猛獣! 野生化ペットが殺す自然
    ・コロナ禍は獣害! 人獣共通感染症の恐怖

    ▼第三章 野生動物が増えた「真っ当な」理由
    ・国が野生動物を保護した時代
    ・仮説1 地球温暖化で冬を越しやすくなった?
    ・仮説2 ハンターの減少で駆除数できない?
    ・仮説3 天敵のニホンオオカミが絶滅した?
    ・飽食の時代を迎えた野生動物たち

    ▼第四章 食べて減らす? 迷走する獣害対策
    ・害獣駆除で生じる「もったいない」
    ・期待される猟友会の危うい現実
    ・野生動物がジビエになるまでの関門
    ・シカ肉がビジネスになりにくい理由
    ・野生動物の資源化と駆除の担い手
    ・獣害対策は防護と予防にあり

    ▼第五章 獣害列島の行く末
    ・トキは害鳥!苛烈な江戸時代の真実
    ・獣害が少なかった時代の謎解き
    ・戦後に激変した日本列島の自然
    ・撤退する人間社会と狙われる都会
    ・「カワイイ」動物はなぜ生まれる?
    ・築けるか、人と野生の共生社会

  • 題名期待買いしてしまいました。日本はヒトも獣も生息密度が高すぎると思っております。

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著者プロフィール

1959年大阪生まれ。静岡大学農学部を卒業後、出版社、新聞社等を経て、フリーの森林ジャーナリストに。森と人の関係をテーマに執筆活動を続けている。主な著作に『虚構の森』『絶望の林業』『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』 (イースト新書)、『森林異変』『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『樹木葬という選択』『鹿と日本人―野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』(ごきげんビジネス出版・電子書籍)など多数。ほかに監訳書『フィンランド 虚像の森』(新泉社)がある。

「2023年 『山林王』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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