森崎和江詩集 (現代詩文庫 第 217)

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  • 思潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (158ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784783709954

作品紹介・あらすじ

朝鮮から日本へ、日本から朝鮮へ-戦争と引き揚げの経験のなかで、つねにすべての活動の中心に「詩」のこころを持ち、日本とは何か、女とは何か、私とは何かを問い続けた著者の単行詩集から全作品を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 森崎和江さんが2022年6月15日、95歳で亡くなった。
    岩波文庫「まっくら――女坑夫からの聞き書き――」の「はじめに」の「みだらな野菜をすてて/炭塵をかむった女らが降りていった/なぜ男は羽根かざりに似るの」という一節に雷を撃たれた思いがしたので、詩集に手を伸ばしてみた。
    購入前に検索していると、斎藤真理子さんが、藤本和子が寄せた解説文「まるのままへの渇き・そして欠落の意識化へ」がいい! とtwitterで報告していたが、それは1984年の日本現代詩文庫12。
    本書は2015年の現代詩文庫217「森崎和江詩集」だった。
    でもよかった。

    まとめられたあとがきに、これら詩作のモチベーションがはっきりと名言されている。
    ・朝鮮植民地出身ゆえの原罪意識。
    ・引き上げ後の、日本との対峙。風土への嫌悪。
    ・モノローグを脱してダイアローグへ。
    ・エロス。
    ・自殺した弟。別れた夫。谷川雁。孫。
    ・北九州の炭坑。
    どれもひどく切実で、本書前半のアジテーションにも似た詩句を生むのはわかるが、本書後半の伸びやかな、生きてあることのエロスの喜びのような詩は、背骨に罪悪感を秘めながらも、自然や人の温もりの喜びに満ちていて、凄い。

    ◇詩集〈さわやかな欠如〉から
    ◇詩集〈かりうどの朝〉から
    ・17p 菜の花/ひばりはやさしいね
    ・31p めいめいが/めいめいの空間の中にとり残した/あの死者に/手をふれる/めまいする 荒寥とした時間
    ・38p てのひらに/ひさかな錘をのせたまえ/くぼみのなかでころがしたまえ
    ・40p 血祭り紀行
    ・43p なにをかければよい・おまえの破滅/なにを捨てればよい・おまえのパン/ひとりの浮浪児を抱くために
    ・45p みだらな野菜をすてて
    ・46p ながれていく舌はほろびよ/しもやけの鋼を筋肉ふかく/巻きこむときに//対話とともに死んでいたモノローグ/モノローグのなかに悶絶していた対話が/脱穀機のようにけいれんする
    ・48p 遠賀川はまっくろ/ままのばかたれ あまえんぼう
    ・49p 炭坑(やま)はつぶれて/後家のしごとは無うなった/人の股ぐらのぞいているのが似おうとろう
    ・55p まだ人間にみえていないところに/おれは穴のなかで/なにもないまっくらをみてきた/それがどんんなにかたくうつくしいもんか/おれにできたのはどこまでたい
    ・57p うまず女はこわいよう こわくって生んでしまうよう
    ・66p 親の罰 そらをおおい/かげは祈りふして地を抱き/ごめんね おまえごめんね
    ◇詩集〈風〉から
    ・69p こころぼそくて/にんげんにもどれない
    ◇詩集〈地球の祈り〉から
    ・71p おはよう!/おはようと夜明けの空がこたえた/うれしくてからだがふるえたの/でもその空/にほんが攻めこんだくにの空でした
    ・81p 聞こえますか 潮の時間
    ◇詩集〈ささ笛ひとつ〉全篇
    ・125 登録するのはごめんです/リボンも名もいりません/ささ笛ひとつ
    ◇未完詩篇
    ◆散文
    ◇あとがき
    ◇いのちの明日へと インタビュー
    ◆作品論・詩人論
    ◇現代日本をこえる物の見方=鶴見俊輔
    ◇響きあういのちのきずな=姜信子
    ◇いまごろになって=岸田将幸
    ◇森崎さんの短歌と詩心/本書の作品について=井上洋子



    全詩的営為を収める

    ながれていく舌はほろびよ
    しもやけの鋼を筋肉ふかく
    巻きこむときに
    (「シンボルとしての対話を拒絶する」)

    「敗戦のとき、もうどんなできあいのことばにも寄りかからない、と決めて以来、いのちを絞るようにことばを産み出すのが森崎さんの闘いになった。そしてそのことばの、おもいがけず、平明で明るいこと!」(上野千鶴子)。朝鮮から日本へ、日本から朝鮮へ――戦争と引き揚げの経験のなかで、つねにすべての活動の中心に「詩」のこころを持ち、日本とは何か、女とは何か、私とは何かを問い続けた著者の単行詩集から全作品を収録。解説=鶴見俊輔、井上洋子、姜信子、岸田将幸

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著者プロフィール

森崎和江(もりさき・かずえ) 1927年朝鮮大邱生まれ。福岡県立女子専門学校(現・福岡女子大学)卒。詩人・作家。谷川雁・上野英信・石牟礼道子などと「サークル村」をおこし、文化運動・大正炭坑闘争を闘う。執筆活動・テレビなどで活躍した。主な著書に、『まっくら』『奈落物語』『からゆきさん』『荒野の郷』『悲しすぎて笑う』『大人の童話・死の話』『第三の性』『慶州は母の呼び声』など多数。詩集に『かりうどの朝』『森崎和江詩集』など。2022年、95歳で死去。

「2024年 『買春王国の女たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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