作品紹介・あらすじ
本書は、人間の認知と情動を科学的に理解することが製品のデザインにどのような影響を与えるか、という著者の研究の成果を書いたものである。
感想・レビュー・書評
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ネガティブな感情:狭い思考=細部へのこだわり, 過度な不安は「トンネルビジョン」を引き起こす
ポジティブな感情:広い思考
脳機能の3つの異なるレベルが存在する
・本能レベル
・行動レベル
・内省レベル
デザインはこの3つのレベルに深く関わる
ex)原子力プラントの制御室
①問題にすぐ対応できるように、覚醒状態を維持させたい
→中立的か僅かにネガティブな感情を持てるデザイン
②問題発生時、直面する課題へ集中させたい
→ネガティブな感情にさせる:ブザー音のデザイン
情動は行動を短期間で変える
本能レベルは世界中どこでも同じ
行動レベルと内省レベルは、経験・訓練・教育に左右される
成功するデザインは全ての面で優れていないといけない
・本能レベル:前意識, 前思考 → 見掛け
・行動レベル:製品の仕様, 経験 → 機能, 性能, 使い勝手
・内省レベル:感情, 情動, 認知 → 長期の関係, 所有
製品の重要な次元として、「状況設定の適切さ」がある
:ある状況で好まれるものも、別の状況下では好まれない。
ex)工場に適する工業的なデザインは、家庭の台所や居間にはふさわしくない
ニーズとウォンツ
・ニーズ:人々の活動に本当に必要な物←タスクで決まる
・ウォンツ:人々が欲しがるもの←文化, 宣伝, 考え方, 自己イメージ → ニーズより時として強力
真に長く残る情動的な感覚は持続的なインタラクションにより作られる
→見掛けや有用性ではなく、想い出・記憶・インタラクションの歴史
ex)キッチュ ←モノとしてではなく、象徴や想い出の連想の源泉として
愛着を持つのは、モノが示す関係・意味やフィーリングに対して
情動は個人的な経験・連想・想い出を反映
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■本能的デザイン:自然が作り上げる
人間は環境から強烈な情動信号を受け取る、無意識に判断する
ex)人間は左右対称な顔を好む
本能的デザインは、広告・民芸・工芸・子ども用品などに見られる
本能的には否定されるが、内省的には肯定されるものもある
「獲得性嗜好」ex)コーヒー(苦味は本能的に嫌われるものであるが)
本能レベルでは、見た目、手触り、音といった物理的な特徴が支配をする
第一印象に訴えるものなので、人をデザインの前に連れ反応を見ることで調べることができる
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■行動的デザイン
良い行動的デザインの4要素
・機能
・わかりやすさ:理解
・使いやすさ
・物理的な感触
大抵の行動デザインにおいて、機能が最優先課題であり、全て
まだ誰も知らないニーズを見つける←これが製品のブレイクスルーポイント
一連の行為と最終的なゴールに注目する必要がある
デザイナーの概念モデル→システムイメージ→ユーザーのメンタルモデル
:デザイナーは製品のイメージを通じてしかユーザーとコミュニケーションを取れない
理解にはフィードバックが重要
ex)ブレーキを踏むと速度が落ちる(good!!!)パソコンの待ち時間を示す砂時計(Bad!!!)
人間中心デザインの適用で効果を得るのは、行動レベル
ユニバーサルデザインも行動レベルのデザイン
「触知性」はユーザーの行動レベル評価に影響→現実のインタラクション
※Haptic Designはこの行動レベルのデザイン。おそらく何だか気になるとかは、内省レベルへ影響しているからかと
コンピューターは、現実のインタラクションという喜びを排除している
=物理的なものは情動を伴う
デザイナーや技術者が自分で毎日良く使うもののデザインは良いものが多い
行動的な観点から見て、今日ベストの製品は、身体を使う作業やスポーツや工業製品が多い
→コミュニケーションのプロが使っているものは???
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■内省的デザイン:対象範囲が広い=個人的な想い出から自己イメージ、製品が伝えるメッセージなど
製品の真の価値は、人々の情動的なニーズを満たすことで、最も重要なニーズは自己イメージと世界における立ち位置を確認すること
製品の全体的なインパクトは、過去の経験を振り返ったり、再評価するなどの内省からくる
ex)ザッポスがいい例?
人間中心ではないが、効果を発揮しているデザインも中にはある
ex)ディーゼルの店舗:激しい音楽
混乱状態にアプローチして、情動を利用。顧客に提案されたものがニーズであると考えさせる。
人間中心アプローチは、行動的デザインに対しては良いが、本能的、あるいは内省的な側面には適切ではない。
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テクノロジーは単に仕事の効率を改善するだけではなく、それ以上のものを我々の生活にもたらすべきだ。
美しさ、楽しさ、好みが一体となり、喜びを生む。
ポジティブな情動は人々の思考と活動の範囲を広げ、新しい考え方や新しい行動の仕方を見つける
パトリック・ジョーダンによる「喜びの4種類」/ Jordan, P. W. (2000). Designing pleasurable products.
・生理学的な:身体の喜び、五感
・社会的な :他者とのインタラクションから生まれる
・心理的な :ユーザーの反応と心理的な状況
・理念的な :経験への内省、環境への配慮、美しさ
しかし、楽しみや喜びは捉えどころのない概念である….
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■魅惑:プロセス。人を惹きつけ、経験を生み、持続させる
誘惑、関係、充足という3ステップにわけることができる
・注意を向けさせることによる誘惑
・驚くような新しさを感じさせる
・自明なニーズや期待を超えている
・本能的な反応をもたらす
・個人的なゴールの価値やつながりを共有する
ex)日常的行為を特別な経験にする
・それらのゴールを満たすという約束
:平凡な行為を非凡にする
・何気なく見た人に対し、それを使う経験について何か深いものを発見させる
・これらの約束を果たす
:それを使うたびに、ユーザーにデザインのされ方とその気品を思い起こさせる。
・生き物であろうとなかろうと、何にでも情動的な反応を読み取ろうとする傾向がある。
=人間は社会的な生き物:インタラクションの性質は、相手の気分を読み取る能力に大きく依存している
ex)SONYのAIBO
インタラクションする人や機器に社会性を感じるには、次の5つの手掛かりがある。
・身体的 :顔・目・動き
・心理的 :好み・共感
・言語 :話し言葉
・社会的力学:協力・賞賛・相互関係
・社会的役割:チームメイト・競争相手
仲間を信用するのは人間の特性
:信頼=協調的な人間同士のインタラクションに欠かせない
成功する可能性が高い製品カテゴリーは「社会的インタラクション」
→コミュニケーションの重要度はいつも必需品の上位に
頻繁なメッセージのエッセンスは、情報交換ではなく情動的なつながり
テキストメッセージの利点は、何か他のことをしている最中でも使える
現代のコミュニケーションの問題は、人間の注意力の制限
意識的な注意の制限は難しい、、、
=2つの異なる空間(物理的, 心理的)があるから
ex)電話
テクノロジーはメンタルスペースの分離を引き起こしたが、人間はそれに対応できていなかったりする
「絶えず分割された注意」/リンダ・ストーン
社会的なコミュニケーションの受け止め方の変化
=インタラクションするために、自分のスペースに入ってきても気にしない。
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今更こんな若輩者が言うまでもないと思うのだけれど,明らかに名著.日本で少しでも工業デザインに携わる人は,全員読むべき.教科書としての利用にも耐える説得力と示唆に満ちた,しかも一貫性がある一冊だと思います.
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理だけでは製品を買ってもらえない、「とにかく面白い」ものが売れるということも知っておこう。でも、この本で言うところの「面白い」は、日本人が言うところの「カワイイ」ではないのだろうか?
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機能の使いやすさだけでなく、人の情動に響くデザインの必要性を訴えている。方法論は、まだ少ないけど、カスタム化ではなくパーソナル化など。しばらくしたら、もう一度読んでみよう。
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1988年の名著『誰のためのデザイン?』の筆者による、2004年に新たな視点で書かれた本。
前作で強調された、認知心理学の視点からのデザインとは違った、人間の情動をテーマにデザインを読み解く。
ドナルド・A.ノーマンの作品