〈高卒当然社会〉の戦後史

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784788513952

感想・レビュー・書評

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  •  日本の高校全入はどのように達成されたのか。

     戦後すぐは高校進学率は今では考えられないくらい低かった。そこから高校を増やし、二度のベビーブームに対応する中で日本は高校全入時代を迎えたわけだが、そこには公立と私立という公と民間が複雑に絡み、各県によって様々な様相を見せている。

     高校全入は当たり前のものではない。少子化の中、不登校対策等で通信制高校が存在感を増し、全高校生の1割になった今、高校というものは劇的にその意味を変えるかもしれない。そんな現在に戦後の高校史を振り返る意味は大きく、この本は今後の高校教育を考える上で貴重な資料だと思う。

  •  〈高卒〉(の意味)に着目した日本教育史。

    【版元】
    著者:香川めい・児玉英靖・相澤真一
    装丁:難波園子
    カバー写真:中京商業高等学校(愛知県)の1967年度卒業記念写真より授業風景。(学校法人梅村学園中京大学附属中京高等学校提供) [※カバー折り返しから説明を転載しました。]

    四六判上製240頁
    定価:本体2300円+税
    発売日:2014.7.22
    ISBN:978-4-7885-1395-2

    ◆あなたの母校が無くなる!?
    「誰でも高校に通える社会」がゆらいでいます。高校は、準義務教育的学校であり、事情がなければ皆進学します。しかし近年、経済的理由や学校再編により、遠方の高校や望まない中退率の高い高校への通学を強いられる生徒が増加するなど、制度のほころびが見え始めてきています。同世代の子どもの半数以下しか進学しなかった時代から、わずか20年で高卒が当たり前の社会となった日本。この大改革は、どのように実行され、何をもたらしてきたのでしょうか。都道府県ごとに異なる高校教育拡大の歴史を跡付け、少子化時代を迎えた「誰でも高校に通える社会」の未来を見通す実証分析の労作です。
    https://www.shin-yo-sha.co.jp/mokuroku/books/978-4-7885-1395-2.htm

    【抜き書き】
    □pp. 12-14
    ――――――
      本書は、筆者三人がこうした問題意識のもとで二〇一三年にまとめた教育社会学の研究報告書が基となっている。教育社会学とは、教育という営みを対象領域として、社会学の方法論による分析を行う学問である。社会学は、一見個人的なこととして捉えられていることや当たり前に思えることが実はそうではないこと、そしてその背後に何らかのしくみやカラクリがあることを明らかにする。「高校に通うことが当たり前」となった社会――本書では〈高卒当然社会〉と呼ぶ――は、いつどのようにしてでき上がったのだろうか。そして、その結果どんなことが起きたのだろうか。
      また、教育社会学とは、教育という営みを通して、私たちが暮らす社会の姿を描き出すと同時に教育という営みの意味について、社会との関係において考察する学問である。本書は、「高校に通う」と営みを、戦後日本社会との関連で考察している。日本社会が変化することによって、高校に通うということの意味が変化する。そしてその変化が、ふたたび日本社会を変化させるという、高校という制度と日本社会の相互作用に注目する。
      言葉を換えれば、次のようにもなる。「高校に通いたい」「子どもを高校に通わせたい」という国民の強い思いが、どのように高校という制度をつくったのか、そしてそうして拡大した高校が戦後日本社会をどのようにつくってきたのか、「高校に通う」という営みを安定的に可能とする生徒受け入れのあり方(高校教育機会の提供構造)がどのようにしてできあがり、それによって社会はどのように変化したのか、さらにそこから、これから進行する生徒減少という社会の変化は高校をどう変えていくのだろうか。こうして、私たちが暮らす社会の姿の一端を描写していこうというのが、本書のねらいである。
      以下、各章の概略を述べていきたい。
      まず第1章では、戦後日本における高校教育機会の提供構造を考察するにあたり、その出発点である新制高校の発足時点にさかのぼって、その特徴について検証する。高等学校は全国一律の制度である。しかしながら、そこには、地域的多様性を内包し、かつ公立高校と私立高校という異なる設置主体の関係性によって特徴づけられる提供構造が存在することを明らかにする。そして、日本の高校の歴史的·制度的性格と、高校教育機会の提供構造の基本的特徴について確認する。
      続く第2章では、一九六〇年代を中心に、高校教育拡大期に日本の高校に何が起きたのか、そのインパクトについて検証する。そして、高校生急増期を経たことによって、高卒学歴の意味の変化と、公立高校と私立高校の比率の変化が起こったことを確認し、この時代がターニングポイントとなったことを明らにする。
      第3章では、高校教育機会の提供構造の地域性を検証するにあたって、類型化の可能性について考える。本書ではクラスター分析という手法を用いて、四六都道府県を四つの類型に分けた。その類型をもとに、一〇の府県を抽出し、ケーススタディを行なったのが第4章から第7章である。このケーススタディを通して、高校教育拡大期への対応の多様性が、それぞれの地域でのその後の高校教育機会提供のあり方を決定づけたことが示される。
      そして第8章では、拡大期に定着した構造が、生徒減少期にどのように変容しているのか、マクロデータに基づく分析と、二つの県のケーススタディを織り交ぜて考察する。最後に、高校教育機会の提供構造がこれからどうなっていくのか、その近未来像について考察し、まとめに代えて提示する。
    ――――――――――


    【誤植】
    ・ p.188 小見出し。二倍ダッシュの後の部分
    ×「公立高校の「威信回復」がもたらしたもの――全日制高校のへの進学率の低下」
    ○「公立高校の「威信回復」がもたらしたもの――全日制高校への進学率の低下」


    【目次】
    はじめに 「高校に通えることが当たり前の社会」の成り立ち――高校教育機会の提供構造とは(著者を代表して 児玉英靖) [i-iv]
    目次 [v-ix]

    序章 今、なぜ「誰でも通える社会」について考えるのか 001
      「成人学力世界一」の日本
      「十五の春」に泣いた頃
      高校教育を受ける機会の保障は今こそ議論されるべきである
      ナショナル・ミニマムとしての高校教育をどう提供するか?
      高校教育機会の提供をデザインし直すために
    〈高卒当然社会〉の成立 012
    本書の学術研究上の意義について 014
      (1) 日本全国にあるローカル・コミュニティの構造の理解に向けて
      (2) 日本の教育における平等観の再検討
      (3) 日本におけるプライバタイゼーション(privatization)の読み直し
      本書で用いるデータ
    注 019

    第1章 新制高等学校黎明期から見る高校教育機会の提供構造 025
    1 全国一律の「高校」という制度 026
      新制高等学校の発足
      地方に任された「高校三原則」の実施
    2 高校教育提供構造の地域性 028
      縮小していく都道府県別高校進学率の格差
      「全入状態」へと高校収容能力を変化させた第一次ベビーブーマー
      見逃せない私立高校の役割
      高校教育機会の提供構造とは比率の構造である 
    3 高校教育における教育機会の平等とは――学区制の議論から 033
      高校の学区制に込められた後期中等教育の平等観
      学区制の「弊害」に対する批判
      「学区制」批判の背後にあった当時の大きな進学率の格差  
    第1章のまとめ 038
    注 038


    第2章 一九六〇年代の高校教育拡大は何をもたらしたのか 041
    1 第一次ベビーブーマーの高校進学が与えたインパクト 042
      一九六〇年代の高校進学は厳しかった
      高校生急増対策への国の関与
      第一次ベビーブーム世代の高校への入学 
    2 高校進学率の上昇は、高卒学歴の持つ意味をどう変えたのか?――高卒学歴に人々が期待していたものとその裏切り 045
      世代ごとの高卒学歴の見え方
      高まる教育への希望
      裏切られた高卒学歴
      高卒学歴取得者にその後の巻き返しはあったのか?
      「行けば得するところ」から「行かないと損するところ」へ
    3 「誰でも高校に通える社会」はなぜ可能となったのか?――私立高校が引き起こした高校教育拡大のスパイラル 054
      定員を大きく上回っていた一九六〇年代当時の高等学校
      もし私立高校がなかったならば
      「安上がりの教育拡大」    
    第2章のまとめと地域性への問いの展開 059
    注 060

    第3章 高校教育機会の提供構造の地域的布置と類型化 063
    1 地域によって異なる私立高校依存度 064
    2 都道府県の類型化 067
      どのように都道府県を類型化するのか
      四つのクラスターの特徴
      中庸型クラスター
      公立拡張型クラスター
      私立拡張型クラスター
      大都市型クラスター
    3 各類型の特徴と高校の威信構造における地域性 074
      各類型と高校教育の威信構造の関連
      どのような高校に誰が入学したのか――高校の威信構造の変化
      「受け皿」か「ブライト・フライト」  
    第3章のまとめ 082
    注 083

    第4章 各都道府県のケーススタディ(1)中庸型――静岡県・香川県・兵庫県 085
    はじめに――第4章から第7章のケーススタディについて 085
      各章のケースを見る視点 
    中庸型の三県(静岡県・香川県・兵庫県)の検討 088
    1 静岡県――日本の社会経済システムの「縮図」における教育拡大 088
      静岡県に見る全国の教育拡大の特徴
      高校教育拡大によって強化されてきた静岡県の独自性
    2 香川県――大規模化した公立高校とバッファーとしての私立高校で数年を乗り切る 095
      見逃せない私立高校の役割
      伝統校の意向が支える地域の構造
    3 兵庫県――大都市圏と広大な中山間地域の併存がもたらした県内の多様性 101
      歴史的に「私学優位」となってきた神戸・阪神地域
      急増期に顕著となる地域性
    中庸型クラスターのケーススタディのまとめ 107
    注 108

    コラム 大学附属高校と高校教育拡大 111

    第5章 各都道府県のケーススタディ(2)公立拡張型――徳島県・愛知県 113
    1 徳島県――山地の多い地域で「平均並み」を求める取り組みと私立高校への低い信頼感 113
      山地の多い地域と低かった高校進学率
      強い私立不信の下での公立高校増設
      徳島県で私立高校が拡大しなかった理由――私立不信と県内における起業家精神の弱さ? 
    2 愛知県――比率による高校教育機会の提供構造によって拡大した進学率 120
      高校進学率の低かった愛知県
      厳しい「ジョンソン旋風」の下での高校三原則の実施とその後の転換
      第一次ベビーブーマー通過時における公私協同体制の構築  
    公立拡張型クラスターのケーススタディのまとめ 127
    注 128

    第6章 各都道府県のケーススタディ(3)私立拡張型――宮崎県・山形県・群馬県 129
    1 宮崎県――全国最低の進学率から「平均」への取り組み 130
      全国最低の高校進学率をめぐる中央と地元の認識
      「平均に持っていく」宮崎県の高校増設過程
      私立高校の拡大を支えた地元のアントレプレナーシップとその後の経営難 
    2 山形県――新設された私立高校による公立高校不足の補完 138
      戦後に行われた着実な公立高校の整備
      見積もりの低かった公立高校急増対策と相次いだ私立高校の開校
    3 群馬県――男女別学を前提とした高校教育機会の拡大 143
      占領期の政策によって形成された男女別学体制
      男女別学を強化した生徒急増期の対処
    私立拡張型クラスターのケーススタディのまとめ 147
    注 149

    コラム 甲子園(一) 151

    第7章 各都道府県のケーススタディ(4)大都市型――大阪府・神奈川県 153
    1 大阪府――マンモス私立高校による高校進学希望者の収容とその結末 154
      安上がりの教育拡大
      安上がりの教育拡大が遺した問題
    2 神奈川県――急激な人口増に対応した公立高校の増設と二極化した私立高校の対応 161
      当初より高かった進学率と私学率
      対応の分かれた私立高校とそのゆくえ
      伝統的に威信の高い公立高校と私立高校の形成と併存 
    ケーススタディによる四つのクラスターの検討のまとめ 168
    注 170

    コラム 東京(一) 173
    コラム 東京(二) 174


    第8章 拡大した高校教育のその後――生徒減少期における高校教育機会の近未来像 175
    はじめに――生徒減少期における高校教育機会提供構造の変容 175
      生徒減少期における問題の所在
    1 生徒減少期における私学率の規定要因の変化 177
      ジェームズとベンジャミンによる先行研究
      一九九〇年代以降の私学率を規定する要因の変化
      生徒減少とともに人口の多いところに私学は集中する  
    2 特徴的な県の検討(1)――神奈川県の事例から 183
      公立高校百校増設とその後の計画的再編がもたらしたもの
      見込まれていた生徒減少期の対応
      高校百校新設計画達成後の神奈川県立高校の評価の変化
      生徒減少期における公立高校の計画的統廃合の進展
      公立高校の「威信回復」がもたらしたもの――全日制高校への進学率の低下
      公立高校の威信回復と私立高校・定時制高校へと締め出される生徒たち
    3 特徴的な県の検討(2)――徳島県の事例から 192
      公立高校の計画的再編と競争と淘汰による私立高校の再編
      三分の一まで減少し続ける生徒数
      再編される公立高校と消えゆく私立高校
    第8章のまとめ 197
    注 199
    コラム 甲子園(二) 203

    終章 人口減少期における〈高卒当然社会〉のゆくえ 205
    高校教育機会の提供構造の将来像 205
      公立高校改革の「意図せざる結果」と高校進学をめぐる「自己責任論」への回帰
      私学の生き残り競争と「特権的な私学」への転換
      教育バウチャーと「公立高校の私学化」の加速
      今、高校教育機会の保障について議論するということ
    注 211

    あとがき(著者を代表して 相澤真一) [213-219]
    初出一覧 [vii]
    索引 [ii-vi]
    著者紹介 [i]

  • 東2法経図・6F開架 376.4A/Ka17k//K

  • 高校はもう義務教育にすればいい。

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著者プロフィール

1976年、香川県生まれ。東京大学社会科学研究所特任助教。専攻は教育社会学、学校から職業への移行。共著に『大卒就職の社会学』(東京大学出版会)、『〈高卒当然社会〉の戦後史』(新曜社)、近刊共編著にHigh School for All in East Asia(Routledge)など。

「2017年 『文化・階級・卓越化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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