おぱらばん

著者 :
  • 青土社
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本棚登録 : 139
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791756513

感想・レビュー・書評

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  • 随筆のような小説のような不思議な味わい。
    フランス暮らしもしくは日本での暮らしの中で想起される作品が挿し込まれて思考が展開していく。
    私のような知識がない者には少々難解。

    「ボトルシップを燃やす」が一番好き。燃える様が甘美。
    「貯水池のステンドグラス」「洋梨を盗んだ少女」「クウェートの夕暮れ」「珈琲と馬鈴薯」も良かった。

  • ずっと前に買って「おぱらばん」という単語が出てくるところで挫折していた。今回も読みはじめてやはり、私が今までに読んだいくつかの他の堀江敏幸の作品よりも堅く、冗長気味であると感じ、この調子で「おぱらばん」をどのように生かして行くのか気にしながら、しかしやはり少し退屈だったので二度に分けて、この表題作を読んだのだけれど、「そう、おぱらばんに!」と語り手がこたえた辺りからどんどんアブラが効きはじめて回転数が滅茶苦茶に上がり、勢いが凄まじい。最後の2ページくらいには猛烈すぎて涙が出そうになった。
    「おぱらばん」的な出来事、つまり個人的に体験している限りでは胸に残るエピソードなのだけれど、いざ言葉に起こしてみるとなると凡庸になりがちである出来事を、をここまで書ききれるというのは、他のレビューでも言っていることのほとんど繰り返しになるけれども、ウウム!と唸らざるを得ない。

  • 骨太の文体。短い短編。仏文学の知識があれば、もう少し、頭に入ってきたかも。

  • 再読。久しぶりに読む堀江敏幸でしたが、(いい意味で)偏屈な人だな‥という印象でした。確固たる美意識を持っているけどそれが案外狭い。登戸をまるでパリであるかのような空気で包んでしまうのですから。眉に唾つけてふんばりましたが、まんまとまるめこまれてしまいました。なかなか頑固なエトランゼですね。どれもがリリカルに構築された秀逸なストーリーですが、視覚的な幻想感をもたらす「貯水池のステンドグラス」に魅せられました。エッセイの仮面を借りているけれど歴とした小説です。

  • エッセイという言葉がモンテーニュの『エセー』から来ているのは誰でも知っている。しかし、この国で専ら気ままに書き散らされた雑文を意味するエッセイと、モンテーニュの「エセー」がまったく別種のものであることは案外知られていないのではないだろうか。「エセー」とは「試み」という意味である。若くして隠遁を決め込んだモンテーニュは、城館に閉じこもり万巻の書物を読むことを日課とした。読書中に気になった言葉があると書き写し、それに自分なりの考えを摺り合わせ、自分の考えの妥当性を試してみた。その結果を書きとめたものが『エセー』である。

    読書を好む者が、欄外や行間に注解などを書き込むのは、古くから行われてきた習慣である。しかし、書き込みの方が長くなれば、それはもう立派な本人の作品と言わねばなるまい。「エセー」とは、自分の生理や心理、思考と接点を持つ言葉を手掛かりに、自分独自の考察を試みるものだとするなら、堀江敏幸の作品こそは、「エセー」そのものと言えるだろう。

    三島賞を受賞した『おぱらばん』も、短編小説の体裁を整えてはいるが、基本的には「エセー」の趣を強く漂わせている。すべての作品は、(ある時は、タブローであったり、絵葉書であったりもするが)何かの書物や言葉から始まる。そして、その言葉(書物)が、人物を引き寄せる磁場となり、「私」は、言葉(書物)を介して他者と遭遇することになる。モンテーニュの「エセー」が、思考力や判断力を「試みる」場となっているのだとすれば、堀江敏幸のそれは、共同体を離れた一個の他者が、異郷にあって別個の他者と新たな関係性を持つという営みに関する「試み」と言えよう。

    モンテーニュが、円形の塔の三階に閉じ籠もったように、堀江は、パリ郊外を自分のテリトリーと定め、中国人や、ユダヤ系ロシア人、リトアニア人といった異郷の人々との触れあいを通して何かを「試み」ようとしている。「私」が他者との間に開く通路はいつも過去に向かって開かれている。それは、死者の記憶であったり、廃屋であったり、忘れ去られた詩人であったりする。一歩誤ればノスタルジーに堕してしまいそうなきわどい地点を堀江敏幸はあえて歩こうとしているかのようだ。彼をそこから救っているのは、美しかった過去を偏愛するのでなく、今、滅びようとするものに向けられた視線の穏やかさにあるのかも知れない。

  • 今日の読書会は、堀江敏幸「おぱらばん」。私小説の体裁なので昔の作家と思っていたら、意外に最近でした。心象風景小説(そんなのないけど)。使いたい現実のエピソードがまずあって、偶然性を意識して創作したのかな?オースターやエルヴェギベールも出てきて、読んでて楽しかったです #dks

    わたしは予備知識なしで読み始めたので完全にフィクション/私小説として読んでいました。フィクション?と現実エピソード?とエッセイとの境目がとても曖昧で、新鮮で面白かったです #dks

    実と記憶/知識の間を行き来していて、不思議な本でした。あと、わりと重苦しい話の中に真面目な顔で冗談が差し込まれていたり。こういう人が現実にいたら、わたしけっこう好きなタイプです笑(告白してどうする笑) #dks

    「おぱらばん」一作だけ読んだら、完全に小説として読めるかも。他の作品があって、エッセイの顔立ちになるような気がします。後半に行くほど、論考色がつよくなって。 #dks

    床屋とコーヒー豆の話は、たしかに、やや明るめのトーンが漂っていますよね。ほかは、わりと、別れ、喪失、行き違い、不条理、とか重い。ひとつの文が長いから尚更に密度が濃くて笑。でも飄々と した雰囲気も、同時にあって… #dks

    #dks 「留守番電話の詩人」は河馬の絵葉書を探す話だけれど、たまたま出会ったカードの中の河馬に執着して、河馬の人生?の謎を日付つきで読み解く。。。動物園にやってきた日、結婚、離婚/死別、はたまた病気療養の可能性まで。。。すごいオタクだなと。(でもけっこう好き、こういうの笑)

  • 茂木さんの本に出てきた作者だったので、借りて読んだ。静かな文章で寝る前に読んだり、気持ちを落ち着かせるのにいい。一文がびっくりするくらい長い。

  • これは帰国したらまた読みたいと思います。ちょっと急いで読み過ぎて消化しきれなかった。そんなことしたら、もったいないもったいない。ちなみに、帰国のフライト用の最後の一冊は奇しくも「河岸忘日抄」です。ずっとこの帰りのために取っておいた一冊。再読だけどね。(08/9/1)

  • 「おぱらばん」


    なんともいい響きだ。
    理由は特にないがお気に入りの一つ。

  • 一節を読むごとに風景や空気感まで立ち上っていく随筆集です。いつものことながら文章の旨さが際立っています。行った事がないフランスに堀江さんの文章と一緒に旅しているような錯覚にとらわれます。すごいことだと思います。幻想的な『貯水池のステンドグラス』に興味をそそられました。『のぼりとのスナフキン』も登戸をちょっと知っているわたしにとって、興味深いものがありました。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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