アマリアの別荘

  • 青土社
4.06
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本棚登録 : 89
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (369ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791765485

作品紹介・あらすじ

夫の浮気を知ったアンは、決然とすべての生活を"処分"して、新たな人生を始めるための旅に出る。さまざまな出逢いが交錯し、思いがけない事態が迫りくる。彼女は安らぎの場所を見いだせるのか?…現代フランスを代表する作家の集大成にして傑作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • ★★★
    変わった女だった。
    極端に受身なのだ。内に篭るといってもいい。だがこの見かけの消極性には独自の積極性が含まれていた。彼女は芯から物静かだった。穏やかなところのまったくない静けさ、ひたすら頑固で内向きの静けさ。
    ★★★

    恋人の浮気を知った女が、自分の全てを消し去り新しい生活を始める。
    多面性を持ち安定しない女を掘り下げた小説。

  •  2006年作。
     札幌のジュンク堂で、このパスカル・キニョールという未知の作家の小説本が沢山並んでいた。「現代フランスを代表する作家」等と帯に書いてあり、私が知らないだけで結構注目されている小説家なのだろうか、と思い、とりあえず1冊買ってみた。
     とにかく知らない作家で予備知識もないので、読んでいて勝手が掴めなかった。夫の不倫を知ったことをきっかけに、家を売却し、「過去をすべて捨てて」旅に出る女主人公アン(作曲家)の物語。過去を捨てて転生しようとする辺りから、文章はいよいよ詩的になり、短い断章が積み上げられてゆく。こうした文章は、どこか多和田葉子さんの文体と似ているように感じられた。
     しかし、作者の意図したところがやはりどうにも掴めない。結局主人公は「過去を捨て」きることができず、母の逝去に駆けつけ、幼い頃に出奔した父親と再開する。結局は「過去」の延長上以外の場所に、彼女はいないのだ。
     ただ、この物語が多くの人物の死によって彩られていることだけは分かったが、その先に作家により構想されたフォルムはよく分からないままだった。
     そんなに悪くない作品だとは思ったが、もう少しこの作家のものを読んでみないと、作品の立ち位置がはっきりしないようである。

  • ここ数年読んだ本では徹夜で読んだのってこれくらい。キニャール作品としては随一の疾走感

  • 同著者の散文『さまよえる影』では、言葉が鋭い刃となってぐさぐさと胸に突き刺してきた。この痛みこそを読書に求めている。本書は主人公の現代音楽家の体に一層具現化している。ところが私はこの女性が嫌いだ。彼女は己に本能的に忠実でいながら狡猾だ。私の意識は彼女に関わり振り払われた人々の弱さに呼応する。周囲が崩れゆく中、潔く孤高を貫く彼女に果てない虚空が広がる。現実の風景と交錯した寂寥感の描写が美しい。アンチヒロイン的な読み方は著者の埒外かもしれないけど、この嫌悪感が裏返しとなって穿ってくる。隙のない筆力に感服した。

  • 小川洋子「博士の本棚」

  • 夫の不倫をきっかけに、ピアニストの女は自分の居場所をもとめ、さまよう。

    夫に悟られずに家を売り、家具を売り、ピアノを売り…。
    そして、男友達をフランスの地に残したまま、彼女はイタリアに旅立つ。
    そして、逗留先のホテル、火山の近くにひっそりとただずむ、家に恋をして…。

    安らぎの地を見出すために駆けぬけた、彼女の人生は報われたといえるのだろうか?

    読後には、もの悲しくも美しいノスタルジーを感じた、たびたび読み返したい良作だった。

  • 彼女は、恐れ、迷いながらも過去を捨てようとした。
    孤独は恐れなかった。
    その孤独が破られるのも厭わなかった。
    愛を拒まなかった。
    そして、音楽が、彼女とともに常にあった。


    Villa Amalia by Pascal Quignard

  • 2010/07/11 - スルメをかじるように、何回も読み返せる本。1回読んで片付けるのはもったいない。よくわからないセリフとか行動とかたくさんあるんだけれど、時間をおいて読んだらまた違うかもしれないな、という気がする。

    主人公の強さと無愛想が度を越しているように感じるんだけれど、それはフランス女の標準からもずれているのかは分からない。そういう説明はない。ほかの登場人物も、話し合いや折り合いをつけるということはしない。説明せずに自分の決めたとおりに行動して、舞台から去ってしまう。もったいないことをするなあ、と思う。強気だけれど、成熟した大人のしなやかさがないから、人間関係がぶつ切りになってしまうんじゃないのって思う。なまじっか経済的に独立していると、独りになるのってものすごく簡単だ。

    結末の寂寥感からは、譲歩しない/できない代償の孤独がずっしりと伝わってくる。主人公は後悔なんかしないだろう。でも、自分を貫き通してこんな風に寒々しくなる必要ってあるだろうか。今の日本で、下手をするともっと辛気臭いさびしい老婆になりかねない不安を持つ者としては、もうほとんど他山の石のような物語だ。

    このように最後はさみしいのだけれど、全体としては胸のすくような会話やうっとりするシーンがたくさんある。浮気男をやっつけるシーンは容赦なく、まぶしいイタリアの島の描写が魅力的。そういう設定なんだろうけれど、個性的で生命力にあふれている女性陣に対して、男性陣は魅力も存在感も薄い。あまりにぱっとしないので、「ぶっちゃけ男運が悪かった」っていう話にくくれそうなほどなのが、哀しいような可笑しいような。

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著者プロフィール

1948年、ノルマンディー地方ユール県に生まれる。父方は代々オルガン奏者の家系で、母方は文法学者の家系。レヴィナスのもとで哲学を学び、ガリマール社に勤務したのち、作家業に専心。古代と現代を縦横無尽に往来し、時空を超えたエクリチュールへ読者を誘う作品を精力的に発表しつづけている。

「2022年 『楽園のおもかげ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

パスカル・キニャールの作品

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