稀代の本屋 蔦屋重三郎

著者 :
  • 草思社
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本棚登録 : 71
感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794222480

作品紹介・あらすじ

山東京伝や恋川春町らの黄表紙で江戸を沸かせ、天才・歌麿の才能を磨き上げ、怪物・写楽を産み出した江戸後期の稀代のベストセラー仕掛け人・蔦屋重三郎を主人公に、時代を見事に活写した傑作評伝小説。現在の出版界に通じる先鋭な発想、創造に賭ける情熱が全篇に溢れる。

感想・レビュー・書評

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  • 再来年の大河ドラマの予習として。

    蔦屋重三郎の名前は以前からなんとなくは知っていたけれど、この時代の名だたる戯作者や絵師たちとこんなにも深く関わりを持っていたとは驚いた。

    「蔦が絡まるのは自然の道理。江戸中を蔦屋の本で覆いつくしてしまいたい」

    江戸一の本屋、と名高い蔦屋。
    本屋といってもただ本を売るだけでなく、常に時代の流行に目を配り、時に流行を仕掛け発信して、江戸文化を創り上げていたといっても過言ではない。

    「私が扱う本や絵からは、粋っていう名の霊気がほとばしる」

    数多ある戯作者・絵師たちの中から、これぞと見込んだ才のある者を見抜き育てる辣腕プロデューサー。現代で言う秋元康さんのような感じ?
    嫉妬渦巻く同業者など敵も多かったことだろう。
    財と愛情をこれでもか、と注ぎ込んだ戯作者・絵師たちからは恩を仇で返されることもしばしば。

    「たった一度の人生だからこそ粋に生きなきゃ。なるたけ愉しく、おもしろく」

    "江戸っ子の粋"にこだわり続けた男・蔦屋重三郎。
    為政者の弾圧なんてもろともせず、常に初志貫徹な男の生き様は、もはや天晴としか言いようがない。

    喜多川歌麿、山東京伝、恋川春町、北尾重政、葛飾北斎、曲亭馬琴、十返舎一九、そして写楽。
    江戸文化に欠かせないこれらの戯作者・絵師たちを誰が演ずるのか、再来年の大河ドラマが今から楽しみで仕方ない。

  • 話が一本調子で、せっかく面白い題材なのに残念。

  • 2023.5.3市立図書館
    2025年の大河ドラマが森下佳子脚本「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」と決まり(期待大)、主役の蔦屋重三郎とその時代についていまのうちに予習しておくべしと思ってひとまず一冊目は小説仕立て。おかげですいすい読んで時代と人に親しむことができた。

    18世紀後半の江戸に生き、1冊あればそれを何人もが読み話題にもする「本」というメディアの可能性に目をつけて、さまざまな草双紙(絵入り読みもの)や画文集をてがけた主人公。アイデアとセンスはいくらでもあるけれど、抜きん出た文才や画才が自身にあるわけでなく、才能のある人をみつけては面倒を見て育てて売り出していくプロデューサー肌。現代で言えば福音館書店の松居直さんのような人だろうか。とはいえ現代の絵本の世界は世間に気兼ねする必要はない一方で、江戸の吉原をゆりかごとする艶本の世界は世間(お上)への反骨精神や攻防もあってそこは宮武外骨や戦時下の出版と重なる。
    周辺の人物についても、キャラ設定や肉付けのしかたはまた違うのだろうけれど、朋誠堂喜三二と恋川春町に山東京伝、喜多川歌麿に謎多き東洲斎写楽そしてかけだしの葛飾北斎、曲亭馬琴に十返舎一九と個性派の戯作者や絵師が揃っている。多くが文と絵の二刀流ということにはおどろく。「善玉/悪玉」の考案者のような雑学ネタや浮世絵の製作工程の描写もおもしろかった。そして終盤のクライマックスは絵師との心身消耗する格闘の末に謎多き写楽の一連の作品がうまれるところ。読んでいる方まで息が切れそうだった。

    この作品では懇意の遊女紫野と妻女以外には女性がほとんど登場しなかったが、森下さんはこの世界をどうふくらませ料理するのだろうと楽しみが増してきた。

    まだまる一年以上あるし、『蔦屋重三郎 江戸芸術の演出者』(講談社学術文庫)あたりも読もう。「別冊太陽」で浮世絵にお近づきになって、タイトルしか知らない黄表紙や井上ひさしの「手鎖心中」あたりも読んどくといいのかな…(巻末の参考文献からいろいろメモしとこう)

  • 伊達に分厚くない。吉原の貸本屋から身を起こした蔦屋重三郎の人生を描く。
    彼と関わった多くの戯作者・狂歌師・画工が登場するが、一際印象的だったのは、温厚で優面で大酒呑みの恋川春町。小禄ながら武士の端くれだった彼は、松平忠信の治世下で追い詰められ、自死を選ばざるを得なかった。

  • 2019/5/15
    最近なんだか北斎が気になって。
    北斎好きの小学生の影響なんですけどね。
    この本、一人に本名・ペンネーム・狂歌の時の名前とかいっぱい別名があって誰だかわかりにくくて往生しました。
    でもおかげさまで北斎だけじゃなく歌麿とか写楽の知識が付いた。
    ありがたい。
    芸術家、みんなめんどくさいんだ。
    そしてそのめんどくさいのが魅力的なんだよね。

  • おもしろかった。
    本というものに書いてあること以上の価値をもたせた人のこと。
    なるほど、今の本屋に必要なことそのまんまだなあっと。
    本を売ってるだけじゃない。それを読んだ人がどう思うか、どう動くか、いや、どう動かすか、そこまでよんで売る
    うーーん、どんんだけ世の中にアンテナはってないといかんのだー、タイヘンじゃー。とてもじゃないが、できそうにないわー泣

    歌麿やら北斎やらきいたことのある名前がチラチラでてきて興味深い。白河の白き流れに住みかねて、自刃された方は非常に心に残った。

    次世代にも読み継がれるもの。
    その時代で消費仕切られるもの。読み物にも色々。
    でもどっちもきっと私たちには必要なんだろう。

  • 東2法経図・開架 913.6A/Ma66k//K

  • 内容は詳細。でもどうもほかの小説群に比べて、蔦重の人物像が気に入らない。山東京伝も歌麿も。いいのは喜三次くらいか。
    それゆえに読み進まない。本当はどういう人かわからないが、蔦重の人物造形だけでいえば、例えば「蔦重の教え」の蔦重のほうが好み。

  • 痛快でせつないピカレスク・ロマンだった。
    江戸の出版界の大立者、蔦屋重三郎の評伝小説。

    でも、これは群像小説かな。

    彼の見出した才能。

    恋川春町
    山東京伝
    喜多川歌麿
    東洲斎写楽
    そして狂歌の四方赤良

    まるで綺羅星。

    役者と吉原と、様々な浮世絵と、流行の本。

    それらは今になっても人々に愛されている。
    どんなふうに彼らが絢爛たる江戸文化を
    花咲かせたか。

    その刹那の輝きと、時代が爛熟して砕け散る
    直前の怖さ、寂しさを存分に書いている本。

    ベタベタとした時代小説の感じじゃなく、
    まるでビジネス小説で、人物は活写してるけど
    蔦屋重三郎という男が駆け上がっていくさまを
    一気呵成に読ませる。

    上昇気流に乗る、野心ある男たちの勢いを
    読むのが、すごくよかった。

    皆激しい野心と才能を烈火と燃やして。
    ある時は肩を寄せ、ある時は孤高に。
    ある時は激突して離反して…。

    ただの人には出来ないことを演ったものたちが
    時代を渡ってゆく。

    上記の人物たちも、日本史や国語の文化史で
    覚えたら、暗記にすごく苦労したのに
    この本で読んだら、どの人物もいきいきして
    すんなり頭に入ってくる。

    あまつさえ、彼らの作品に触れたくなるのだから
    不思議。やっぱり興味が先にたつと理解が早い。

    流行りのものは儚く淡い。
    夢と砕けた時の寂寥はひとしおだけど
    重三郎が選んだ才能は一流だった。

    見よ。作中で山東京伝がそれについて慨嘆を
    きかせるが、本物が熱狂された故に、私達の
    時代でも、きらきら輝いて残っている。

    重三郎のすごさ。

    それは、一流のものを、市民に気軽な懐銭で
    享受できるようにしたこと。

    手の届かない物でさえ、憧れさえ支払えば
    気軽に万華鏡でも見るよううに覗かせてしまうこと。

    本物は感動させる。
    流行りは若々しい風が運んでくる。

    それを惜しげなく開陳するから、
    ひとはお金を落として熱狂する。

    流行するものが粗悪だったら、あとまで残らない。

    本物を手渡す眼力の、鋭さ格好良さ。
    悪辣なことは何も書かれてないのに
    爽快な一代記だった。

    まだ、誰も見ていないものを見せてやる。
    ここでは終わらない。

    その気概が格好良かったのだ。

    ピカレスク・ロマンと私が評したのは
    このような所以なのだ。

  • わたしの中の蔦屋重三郎は、写楽の映画のフランキー堺。
    写楽から始まって写楽で終わるこの小説、そのあいまにあったできごと
    キラ星のごとく並ぶなまえ、北斎、十返舎一九、

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著者プロフィール

増田 晶文(ますだ・まさふみ)
作家。1960年大阪生まれ。同志社大学法学部卒業。人間の「果てなき渇望」を通底テーマに、さまざまなモチーフの作品を発表している。文芸作品に『稀代の本屋 蔦屋重三郎』(草思社文庫)、『S.O.P.大阪遷都プロジェクト――七人のけったいな仲間たち』(ヨシモトブックス)、『ジョーの夢』(講談社)、『エデュケーション』(新潮社)など。デビュー作『果てなき渇望』で文藝春秋ナンバー・スポーツノンフィクション新人賞および文春ベスト・スポーツノンフィクション第1位を獲得、『フィリピデスの懊悩』(『速すぎたランナー』に改題)で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。日本酒の神髄を描いた『うまい日本酒はどこにある?』『増補版・うまい日本酒をつくる人たち』(ともに草思社文庫)も話題に。

「2021年 『文庫 絵師の魂 渓斎英泉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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