21世紀の啓蒙 下: 理性、科学、ヒューマニズム、進歩

  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (509ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794224224

作品紹介・あらすじ

わたしたちは、今、史上最良の時代を生きている――。
過去を理想化して進歩を否定、未来は衰退に向かうと主張する反啓蒙主義の
嘘・誤りを、データにより明らかにする。

世界の状況を正しく評価するにはどうしたらいいのだろうか。
答えは「数えること」である。今生きている人が何人で、
そのなかの何人が暴力の犠牲になっているのか。
何人が病気にかかり、何人が飢えていて、何人が貧困にあえぎ、
何人が抑圧されていて、何人が読み書きができず、何人が不幸なのか。
……これは実は道義的にも賢明な方法だといえる。
なぜなら、身近な人を優先するわけでも、テレビ受けする人を
特別扱いするわけでもなく、一人ひとりの価値を平等に扱う取り組みだからだ。
――本書より

ポピュリズムの隆盛により、民主主義の死はもはや決定づけられた。
世界人口の増加により、今世紀中の食糧危機の到来は間違いない。
地球温暖化も核兵器拡散も、解決の糸口はまるでつかめていない。
……というのは本当だろうか。
若い人はポピュリズムを支持しておらず、世代交代とともに衰退する可能性が高い。
世界人口が増加しても、農業の進歩により飢餓に苦しむ人の数は大きく減少している。
温暖化も核兵器も現実の脅威だが、GDPあたりの二酸化炭素排出量は減少しており、
また世界の核兵器の数は近年減少し続けている。決して解決できない問題ではない。
データを用いて、無根拠な「衰退の予言」の欠陥を指摘し、
啓蒙の理念による進歩の重要さを説く。
世界をよりよいものにする意志に満ちた、世界的ベストセラー。


第一六章 知識を得て人間は賢くなっている
第一七章 生活の質と選択の自由
第一八章 幸福感が豊かさに比例しない理由
第一九章 存亡に関わる脅威を考える
第二〇章 進歩は続くと期待できる
第三部 理性、科学、ヒューマニズム
第二一章 理性を失わずに議論する方法
第二二章 科学軽視の横行
第二三章 ヒューマニズムを改めて擁護する

感想・レビュー・書評

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  • 上巻より抽象度が高まった感じがしたのは、下巻は宗教や哲学、ヒューマニズムを論じるテーマを取り扱っているからだろう。人類の知性と幸福、啓蒙について考察する。知能指数は世界のあらゆる地域で、10年ごとに3ポイントのペースで上昇し続けているとする(フリン効果)。この要因は、栄養と健康、学校教育や日常における学術的概念の普及だと考えられる。頭が良くなっていると言えるのだろうか。

    過去の偉人たちが現代の技術、数学的な理解が出来ていなかったからといって、知能が低かった訳ではない。旧約聖書の神は、何百万人の無辜の民を殺し、古代イスラエル人に集団強姦や虐殺を命じた。神への冒涜、偶像崇拝、同性愛、姦通、親への口答え、安息日の労働には死罪を宣告しながら、奴隷制度や強姦、拷問、手足の切断、虐殺を特に悪とはしていなかった。これは青銅器・鉄器時代に普通に行われていたことだからだ。つまり、宗教も科学も、その時代の価値観や技術の蓄積といった制約条件の中で成立している。

    国連開発計画は毎年、「人間開発指数」を発表している。これは経済学者のマブーブルハックとアマルティアセンが考案したもので「平均寿命、一人当たりのGDP、教育水準」と言う人間開発における3つの主要要素で構成されている。幸福度を示す指標として見ることができるのだという。

    労働時間は減り、家事の時間も減り、明かりを1時間確保するための対価も減り、余暇時間は増えた。あらゆる数値が向上しているのに、人間は幸せになっていない。

    変化に慣れてしまう。社会的比較理論からの説明で周囲と比較してしまう。そのため、寿命が伸び、健康が増進し、知識や余暇が増え、様々な体験ができ、平和で安全に暮らせ、民主主義が広まり、数々の権利を獲得できていても、幸せを感じるどころか、ただ孤独にさいなまれ、自殺が増加したり、心の病が蔓延する。

    本当にそうなのか。
    実は、人は幸せになっていないという命題自体が誤りであった事が証明されているようだ。裕福な人ほど幸せを感じているし、豊かな国の人々はそうでな国の人々より幸せを感じていると言うデータがある。SNSによって自らを相対的に不幸だと感じてしまうと言う現象は、社会評論家が作ったヒステリックな誤解だという訳だ。実際にはSNSを利用する人間の方が幸福を感じるか、そうじゃない人と同等レベルであることがわかっている。自殺率も実際には低下傾向にある。

    ただし。
    意義深い人生を送ることと、楽に欲求を満たすこととは異なる。楽をする人生に日々の達成感があるかというと別だ。幸福と充実は異なる。怠惰は安寧で幸福だが、充実ではないのだろう。仕事に挑戦する事、自らの成長を感じる充実感は、時に過度なストレスを伴う。

    ヒューマニズムを紐解き、その源をたどれば枢軸時代に遡る信念体系の中にも見つかるかもしれない。それが理性と啓蒙の時代に注目され、イギリスの権利の宣言1689年、アメリカのバージニア権利章典、1776年、フランスの人及び市民の権利の宣言1789年を生み、さらに第二次世界大戦後に国際連合を世界人権宣言1948年、その他の協力の枠組みへつながった。枢軸時代とは、世界同時多発的に戒律的、善的思想が体系化された時代の事だ。青銅器時代の価値観の上での説法だが、重要だった。

    そして今、人は、自分が数多くの重なり合った部族に属していると感じている。部族、内集団、提携といった認知カテゴリーは、抽象的かつ多次元的なものである。国だけではなく、故郷、母国、宗教、民族に限らず、母校、クラブ、会社、スポーツチーム、社会団体。適用範囲の中で、利害を共にし、幸福を分かち合う、そのためにパーパスとルールを共有する事。多様化しながら、境界線が重なり合うコアな部分に、普遍的価値観としての平和や充実した幸福が浮かぶ事を願う。

  • 非常に興味深く読めた本だった。

    著者の『暴力の人類史』の続編といった趣き。

    著者の言いたいことは、
    『マスコミや今、目に見える現象に囚われず、歴史的事実や統計的な数字をしっかりと認識して正確な情報を自ら得よ』
    ということである。

    本書は、トランプ大統領が就任した直後に書かれたものであるが、当時の雰囲気が非常に思い出される。
    「アメリカ・ファースト」
    という合言葉でトランプ大統領は大統領選を戦った。
    そして彼が使ったのが、
      アメリカはこのままでは没落する
    という恐怖に満ちた将来観だった。

    しかしながら、今振り返った見ると、それはかなり大げさに誇張され、人々を扇動するものであった。

    また、本書は現在のコロナ禍については当然触れられていないが、今の世界の現象を予告している、というかマスコミや恐怖論に踊らされる人々のありようを警告しているのだ。
    この部分だけとっても本書が非常に優れているといえる。

    例えば、ニュースの在り方について。
    ニュースは、何もなくても放送しなければならない。
      『本日はニュースのネタがありませんでしたので、放送しません』
    とは言えないのだ。
    また、良いことよりも悪いことを基本的に放送するのがニュースだ。
      『今日の東京はいつものように平和でした』
    というようなニュースはありえない。
    たとえほんの些細な10年前なら地方のローカルニュースにしかならないような話題を、さも大げさに書き立てて全国ニュースとして発表する。

    まさにありがちな話である。

    しかしながら、マスコミとは本来そういうものなのであるから、マスコミに非はないのかもしれない。
    非があるとすれば、自分で何の判断も勉強もせず、その発表をうのみにして、右往左往する視聴者なのだろう。

    まさに耳の痛い話である。

  • やっと一読終了、きつかった
    下巻は、第2部途中から、知識を得て人間は賢くなっている から、スタート
    教育がひろまり、男女格差も縮小している、幸福感、リスク、核の脅威の縮小、そして今後とも進歩は続いていくが、第2部の結論
    第3部 理性、科学、ヒューマニズム
    ・理性を失わず合理的に議論しよう
    ・科学を養護しよう、自然科学と人文科学を融合しよう
    ヒューマニズムは、人類を進歩させる新しい神話であり、人類全体の物語である、が最後に語られる

  • 理性、科学の価値を再発見できた。
    これからの世界のあり方について、深い安堵を抱くことができ、いくつかの事柄に希望が持てた。
    宗教とニーチェについて容赦がない。

  • 下巻の前半は、上巻から続く「第二部 進歩」のつづき。
    橘玲氏は本書の書評で第三部を「いちばんの読みどころ」と高く評価しているが、私は第二部こそ圧巻だと思った。

    下巻では、教育がどれほど世界を改善してきたか(16章)、生活の質がいかに改善されてきたか(17章)……などが俎上に載る。

    第二部は、各章が甲乙つけ難い面白さ、中身の濃さ。各章とも、少し水増しすれば優に一冊の新書になりそうな内容なのだ。

    たとえば、第18章「幸福感が豊かさに比例しない理由」は、「イースタリン・パラドックス」(「所得の上昇は必ずしも人々の幸福度の上昇につながらない」というパラドックス)が真実ではないことを論証する内容で、読み応えがある。「豊かさと幸福」について関心のある向きは必読だ。

    本書はユヴァル・ノア・ハラリ『21Lessons』の類書といってよい。が、ハラリの本の気が滅入る陰鬱さとは対照的に、本書は一貫して楽観的で明るい。〝人類は間違いなく進歩している〟という確信が根底にあるからだろう。

    第二部は「七◯を超えるグラフを通し、世界がいかに改善したかを数値化することにより、進歩への期待の正しさを論証」(189ページ)した内容であり、読者も著者の希望を共有して明るい気持ちになることができる。

    この第二部は、理性・科学・ヒューマニズムを主な原動力として人類が進歩してきた「成果」を列挙したものといえる。

    それに対し、最後の第三部は「わたしの啓蒙主義擁護論のまとめ」(229ページ)だと、著者は位置づける。
    近年、理性・科学・ヒューマニズムをそれぞれ否定する「反啓蒙主義」的言説が世にはびこっており、著者は「啓蒙主義を擁護しなければならない」との使命感にかられたという。

    そのため、第三部を構成する3つの章は、それぞれ理性批判への反論・科学軽視の横行に対する批判・ヒューマニズムの擁護に充てられている。

    近年の「反啓蒙主義」的風潮といえば、トランプ大統領を生んだポピュリズム旋風と、そこから派生したフェイクニュースの横行がまず思い浮かぶ。
    著者が米国のオピニオンリーダーの一人であるだけに、本書の最大の仮想敵も「トランピズム」であり、第二部末尾にはトランプを名指しして批判したくだりもある。

    《二◯一◯年代には、このポピュリズム、正確には権威主義的ポピュリズムと呼ばれる反啓蒙主義運動が活発化した》(203ページ)

    第三部の3つの「啓蒙主義擁護論」も、〝トランプ大統領的なるもの〟に抗する言葉のつぶてともいうべき内容だ。ニーチェからトランプに至る反啓蒙主義の歴史的流れをふまえたうえでの、根源的批判である。

    この第三部においても、著者は一貫して楽観的だ。
    「人口動態から考えても、ポピュリズムの運動に未来はない」(「ポピュリズムは老人の政治運動であり、いずれ衰退する」という意味/415ページ)とし、啓蒙主義は今後も世界を改善に導いていくだろう、と結論づけているのだ。

    「知の巨人が綴る 事実に基づいた希望の書。」という帯の惹句どおりの名著。

  • 下巻は上巻と変わってヒトの内面についての記述多めだが、引き続き科学的な知見でデータに基づいた意思決定を行なうことが大事という内容。
    上巻の感想で保守だのリベラルだの書いたが、下巻でピンカー先生がどっちも否定してて笑った。トランプ全盛期でアメリカ独特の空気感が伝わってきた。
    現在は経済発展の視点では沈んでいるイスラムだが、かつて科学技術で名を馳せたように将来復権できるかも楽しみ。

  • ピンカー氏の流麗な語りは読んでいて楽しい。知性を信じてやまない氏の姿勢は私は好きだ(また本書の読者層もおそらく好むだろう)が、おそらく好みが分かれるところだろう。多くの人の支持を受けている宗教を理性の下位互換とするなど、受け入れがたい層も多いだろう。知性と理性を尊重するあまり、知性の外にあるものへの無意識な軽蔑がそこはかとなく透けて見える。そしてこれは日本を含め多くの社会で見られる構図だ。とても学びが深いし興味深い。
    一部アラブ社会の経済成長の遅れが聖職者の干渉によるものというのは誤解が含まれるように思う。アラブ世界を対象とした研究結果を見る限り、他の要素の影響が大きいため、その二者が因果関係にあるとはいえない。

  • 下巻に至って啓蒙主義の理念に基づき、世界中の我々自身が普遍的な共通理解として持つべきだなと確信させてくれる内容でした。「暴力の人類史」を20世紀の啓蒙とすれば、本書はまさに現代人と近未来人に向けた「21世紀の啓蒙」です。間違いなくお金を出して時間をかけて読むに値する名著だし、全ての人に読んでもらいたい。そんな感動的な読後感でした。

  • VUCAの時代などと言われ、ポピュリズムの台頭や社会の二極化が進む中で、ともすれば不安を煽る悲観論が蔓延しがちな今日だからこそ、信仰よりも理性を、国家や民族よりも全人類のためのヒューマニズムを重視し、科学による進歩を肯定的に捉える「啓蒙主義の理念」の必要性が高まっており、これまでの人類の進歩を裏付ける実証データを併せて示すことで、悲観よりも希望を持つべきと訴える啓発書。

    人類は、何もしなければエントロピーの法則に従って無秩序へと向かう自然に抗い、エネルギーをより効率的・効果的に確保することに成功した生物であり、そのために脳の進化に伴う認知革命や農業革命、産業革命等によって各種の情報を活用してきた。その過程で人類は啓蒙主義の理念により、呪術的世界観を克服したにも関わらず、近年、反科学主義や衰退主義が台頭している風潮に対し、著者は世界の平均寿命や健康状態、さらには平和や安全にいたる多くの指標において、科学がいかに人類を繁栄に導いたのかを膨大なデータを用いて明らかにするとともに、今後も啓蒙主義の理念が、困難な課題も解決し未来の希望を引き寄せるための石杖になると主張する。

    人間が陥りがちな各種の認知バイアスに囚われず、ファクトに基づいて観察すれば世界は良くなっていることがわかるという観点では、ハンス・ロスリングの「ファクトフルネス」と同様の趣旨であり、また宗教や民族主義に陥ることなく、人類共通的な倫理観や合理的手法による真実の追求の必要性を説くユヴァル・ノア・ハラリの思想にも通底している部分がある。情報過多の時代に本当に重要なことは何かを見通すための一つの物差しとして、時間をかけてでも読む価値のある名著。

  • 我々の未来は思っているよりも暗いものではなく、むしろ一歩ずつ着実に進歩しているー口にすれば極めて陳腐なフレーズではあるが、現代の我々はこのテーゼを最早信用しきれなくなっている。なぜならニュースを見れば、格差の問題、テロリズム、ドナルド・トラソプに代表されるポピュリズムなど、暗い話題が続く。

    本書は様々な種類の長期的な統計データに基づき、いかに人類が諸問題を克服して進歩してきたかを明らかにし、未来について悲観的になる必要などないということを看破する。サブタイトルにあるようにそのキーとなるのは、「理性・科学・ヒューマニズム」である。例えば科学でいえば、我々は新たなパラダイムを打ち立てた偉大な科学者たちについては、その固有名を認識している。一方、現代において最も多くの人々を救った水の浄化技術についてはどうだろうか?ペストをはじめとして多くの疾病が水質の悪さにあった、というのは自明であり、その水質を改善するために、様々な技術者が介在することで、人類は様々な疾病を克服することができた。我々が安全な生活ができているのは、こうした名もなき技術者たちのおかげであるが、我々はこうした科学技術への感謝を忘れている。

    安心・安全な生活、というのは先進国に暮らす人間にとっては当たり前すぎるが、それは100年前を振り返れば決して当たり前ではなかった。こうした人類の進歩を振り返れば、未来について決して悲観的になる必要などない。むしろ、ポピュリストたちの多くが我々を悲観視させ、我々の諦念に付け込もうとしている今、正しい時代認識を持つことの重要性は高まっている。

    ピンカーは『暴力の人類史』も大変素晴らしかったが、こちらはそれ以上の出来。現代最高の知識人を一人選べと言われれば、私は間違いなくピンカーを選ぶ。

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著者プロフィール

スティーブン・ピンカー(Steven Pinker)
ハーバード大学心理学教授。スタンフォード大学とマサチューセッツ工科大学でも教鞭をとっている。認知科学者、実験心理学者として視覚認知、心理言語学、人間関係について研究している。進化心理学の第一人者。主著に『言語を生みだす本能』、『心の仕組み』、『人間の本性を考える』、『思考する言語』(以上NHKブックス)、『暴力の人類史』(青土社)、『人はどこまで合理的か』(草思社)などがある。その研究と教育の業績、ならびに著書により、数々の受賞歴がある。米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」、フォーリンポリシー誌の「知識人トップ100人」、ヒューマニスト・オブ・ザ・イヤーにも選ばれた。米国科学アカデミー会員。

「2023年 『文庫 21世紀の啓蒙 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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