屈服しない人々

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  • Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794811035

作品紹介・あらすじ

かつて遠い時代に「聖人伝」という種類の書物が存在した。神を求めて、求道的な人生を送った人々の人生を、彼らの過ちにも触れつつその道程を示すことによって、迷える衆生に神へと至る道、聖なるものへと達する道を示すことが、そうした書物の役割であった。
 神なき時代において聖なるものはあるのだろうか。抽象的な思考によって聖なるものへたどりつくことは、そもそも信仰など最初から持ち合わせない人間にとっては至難のことだろう。しかし、芸術作品に接して、そこに何か聖なるもの、何か尊いもの、何か超越的なものを感じるという体験は現代人にとっても失われたものではなく、むしろ人々がそうしたものへ向かう大きな動機となっていると言ってよいだろう。そして、ある人々の人生もまた、そのような賛嘆の念を多くの人間に抱かせる。そうした人々の人生自体が一個の作品としてみごとなものであり、尊いものであることが、それに接した人々によって感得されるのである。
本書で取り上げられるのは、戦争、全体主義、人種差別といった20世紀に人類史上最大規模の厄災となった事象に直面させられつつ、そのような賛嘆を誘う人生を生きた人々、たとえば旧支配者である少数派の白人と、彼らから長年にわたって差別を受けてきた多数派の黒人のあいだに内戦が起こっても不思議はなかった南アフリカにおいて、その両者への深い理解と共感によって、同国を和解の地へと変化させたネルソン・マンデラの人生である。彼らは、絶望に陥りかねない道程を歩みながら、自らの外部からやってくるさまざまな困難に立ち向かうとともに、そうした困難をもたらすと思われた「敵」に対する憎しみのような、自らの内部に巣くう「悪霊」にも屈しない術を知った人々であった。(おの・うしお 近代フランス文学)

感想・レビュー・書評

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  • この本は題名に惹かれて手に取りました。屈服しない人々、とは困難な状況でも自分の信念を失わずその目標を貫徹したことだろうと、と漠然と思っていました。

    しかし哲学者である著者トドロフは、本書での「屈服しない人々」を、自身の内面での葛藤を克服した人々、と捉えているような気がしました。

    ナチスの収容所を経験したエティ・ヒレスムとジェルメーヌ・ティヨン(ともに女性)。二人が収容所内での極限状況の中でも愛や笑いを忘れなかったというエピソードに、精神の強靭さ(レジリエンス)を感じました。

    ソ連共産主義体制下に生きた作家として、ボリス・パステルナークとアレクサンドル・ソルジェニーツインの二人を取り上げた章では、国際的評価と祖国の軋轢の中での心理的葛藤が良く描写されていました。

    そして、ネルソン・マンデラとマルコムX。黒人に対する人種差別主義との闘いの中、差別的体制は憎むものの、同じ人間である白人に対する復讐心にとらわれてしまう誘惑を拒否する態度に、魂の高潔さが窺い知れました。

    現代に生きる人物として、アメリカの国家的情報収集活動を暴露し亡命したエドワード・スノーデンや、ユダヤ人でありながら、イスラエルでのパレスチナ人迫害に対する反対運動を展開するダヴィッド・シュルマンが取り上げられています。自身の人生の安寧を打ち捨てて、大義を全うする生き方に強烈な印象を受けました。

    トドロフが締めくくりで、取り上げられた8人について、その人間存在に対する愛、そして真実に対する愛に賛嘆の念を抱く、と記しています。

  • 【版元】
    タイトル 屈服しない人々
    著者:Tzvetan TODOROV(1939-2017)
    訳者:小野潮
    発行年月日 2019年 10月 1日
    定価 2,916円
    ISBN 978-4-7948-1103-5 C0023
    判型 四六判並製
    頁数 324ページ
    http://www.shinhyoron.co.jp/978-4-7948-1103-5.html

    【簡易目次】
    第1章 エティ・ヒレスム
    第2章 ジェルメーヌ・ティヨン
    第3章 ボリス・パステルナーク
    第4章 アレクサンドル・ソルジェニーツィン
    第5章 ネルソン・マンデラとマルコムX
    第6章 現代のふたりの屈服しない人物――ダヴィッド・シュルマンとエドワード・スノーデン

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著者プロフィール

Tzvetan TODOROV(1939-2017) ブルガリア出身のフランスの文芸理論家、思想史家。当初は構造主義的文学理論を代表する論者として知られたが、世界の中の人間を直接的に論じる著述を、他者論、民主主義論、絵画論といった幅広い領域をフィールドとして次々と発表し、過去と対話しつつ現代を思考する姿を見せる。

「2021年 『善のはかなさ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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