たんぽぽのお酒 (文学のおくりもの 1)

  • 晶文社
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794917614

感想・レビュー・書評

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  • 20数年前に一度読んでいて、先日、夏が終わり秋になるとこの本の中の一節「おばあちゃんはアイス・ティーにかわってホット・コーヒーを口にしはじめていた。」を思い出すというどなたかの書かれたものを目にして、はてそんな場面があったかなと再読。

    夏休みが始まった一日目に感じるあの素敵な感覚がこんなに鮮烈に描かれていたのかとページをくる手が止まらなくなった。なんとまあ素敵なんだろう。

    夏休みの始まりには、自分をどこまでも疲れることなく連れて行ってくれる新しいテニスシューズが必要なこと。
    どんなに芝生の管理が大変でも、おじいさんは伸びない芝生を植えるなんて考えられないこと。
    ぐちゃぐちゃで整理されていない台所と書かれていないレシピからしか生まれない極上の美味しいもの。
    若い新聞記者と各地を旅した往年の美女のかけがえのない語らいの時間。ミント・バニラ・アイス。
    タロット占いをする機械の中にいる蝋人形。

    「生きていること」ではち切れんばかりに元気だったダグラスが、次第に自分もいつかは死ななくてはならないのだと気づく。1928年の夏の物語。

  • 津村の読み直し世界文学の1冊である。ほとんどが会話で話が進行している。挿絵も豊富ではあるが、その挿絵と内容が合致しているかがすこしわからない。米国文学の特徴として、内容が淡々と進んでいき、あまり哲学が感じられないことがいいのかわるいのかよくわからない。

  • 『たんぽぽのお酒』 レイ・ブラッドベリ (晶文社)


    これは名作ですねぇ。

    しかしながら、翻訳ものというのは、主語と述語の間がやたら長く、何のことを言っているのか途中で分からなくなってしまったりして、読むのには結構根性がいる。

    特にブラッドベリは“イメージの魔術師”と呼ばれているだけあって、その文章は、しっかりとしがみついていないと振り落とされてしまいそうな、縦横無尽にイメージ世界を駆け巡る躍動感に満ちている。

    この作品はジュニア向けに書かれた少年小説だそうだが、人生の悲哀がたっぷりで、なかなかに深い。
    大人におすすめ。

    主人公は、ダグラス・スポールディング、12歳。
    イリノイ州グリーンタウンで、1928年の夏に彼が経験した出来事のすべてが、この物語にぎゅっと詰まっている。
    夏の初めに仕込まれる“たんぽぽのお酒”の一瓶一瓶にひと夏の思い出が詰められ、夏が終わっても、たんぽぽのお酒を飲むたびに夏を思い出すのだ。

    ここに出てくる大人たちは、常識的ないわゆる“大人”な人は誰もいなくて、笑って泣いてわめいて、格好悪く必死に生きている人たちばかりだ。

    ダグラスと弟のトムは、12歳と10歳の目でしっかりと真実を見、彼らなりの解釈をしていく。

    フリーリー大佐の最期が何だか悲しくて心に残った。
    病床で彼は、電話で繋がった思い出の南の国の街角の喧騒を聞き、体は動けないけれど、心で彼の地を夢見ながら一人で死んでいったのだった。
    フリーリー大佐は幸せだったか?
    私は幸せだったと思うな。
    いや、どうかな…
    んー……本当はどうなのかな。

    幸福マシンを発明したレオ・アウフマンは、仮想の夢よりも、現実の幸福の方が尊いことに気付き、ベントレー夫人は、小生意気な女の子たちのおかげで、過去にしがみつかずに今を生きることが大事だと分かった。
    屑屋のジョウナスさんも素晴らしい。
    ダグラスがジョウナスさんから受けた親切を、次の人に回そうと考えるところが感動します。

    物はいつか壊れるし、人はいつか死ぬ。
    ダグラスは、この夏の経験をそう手帳に書き記した。
    生きる喜びと死への恐怖が、焼け付くような真夏の街の風景とリンクして、読む者の心に深く刻まれる。
    夏は特別な季節なのだ。

    開け放たれた窓、庭のブランコ、じりじりと照りつける太陽。
    夜のポーチで夕涼み。アイスクリームやレモネード。

    夏が終わる寂しさがもうほんとによく分かる。
    私もいつもそう思うから。

    次の年、夏はまたやってくるけれど、彼にとって12歳の夏は生涯一度きりで、さらさらと流れて容赦なく消えてしまう記憶の断片が入っているたんぽぽのお酒が、物語の終わりにキラリと輝く。

    ブラッドベリの作品に共通して感じるものは、“失くしてしまったものへの郷愁”。

    子供の頃、自分はどんな夏を過ごしていたのだろう。
    消えてしまった記憶の断片は、私のどこかに今でも残っているのだろうか。

  • 本自体は12歳の男の子の視点でまとめられた長編だが、そこに挟まれるお年寄りとの話一つ一つが独立した一編の感がある。感傷的で詩的。
    自分の若い頃の思い出の品々を女の子にみんなあげてしまう、年取ったベントレー夫人の話が好き。

  • なんとなく今まで手を着けていなかったブラッドベリさんの本。
    図書館で見かけ、SFではないものも書いているのだと興味を持ったので読んで見ました。
    なんだろう。池澤夏樹?ガルシア=マルケス?星新一?みたいな本。伝わらない??

    じんわりと来る読後感が好きでした。
    自分の本棚にコレクションしたいなと思える本です。そのうちまた読みたくなりそうだから。
    でも、図書館の表紙の版はもう無いらしく。本屋では、新装のなんだか字の大きい、余白の多い本にされていました。
    あの手の文字組は本の内容まで密度が低そうで嫌なんだよなあ。
    古本屋で探そうと思います。

  • 6月に訃報を聞き、夏になったらいちばん好きなこの本を読み返し追悼すると決めた。夏がきた。言葉をひとつひとつ噛み締めて読む。風の音や夏の光と匂いが満ち満ちてくる。生が横柄に闊歩する。やがて夜の闇が押し寄せ死への恐怖が迫りくる。少年の孤独。ここの描写はブラッドベリならではのダークファンタジー。込み上げてくる。死の誘いに打ち勝ち少年の夏は終わる。素晴らしい読後感。ノスタルジックだけど中枢の哲学はまったく古びていない。何度読み返しても新しい発見がある。ブラッドベリに出会えてよかった。私の大事な一冊。永遠に。

  • 子ども時代の夏は特別な季節だった。
    失われた物がもう二度とかえってこない事など知らなかったはずなのに、なぜあんなに悲しかったのか。
    中学生くらいのときにブラッドベリにはまっていろいろ読んだけど、これは大人になってから読んで良かった。

  • 10代でブラッドベリに出会えたのは幸せでした。(★の数は当時の感想)
    大人になって再読した時、ときめき感が薄れていてショックでしたがファンタジー小説にはまるきっかけになった大事な1冊。

  • 物は壊れる、人は死ぬ 三つ数えて、目をつぶれ。そんな、昔あった歌の題名を思い出しました。全てに永遠はなく、どんなに美しく強い存在だったとしても時が経てば、いつしか朽ちていきます。形を失ったもの、もう感じる事はできない感触や感覚よりも、今、目の前にある物。それだけが重要なのかもしれません。けれど、人間には思い出があります。それはどんなに美しくても触れることはできないし、誰かに見せる事はできないけど、とても大事なもの。美しい思い出を残すためには日々、色々と感じて生きる事が大切。この物語に触れてそう感じました。

  • ブラッドベリの「SF」は何の略なんだろうと思う。
    通常ならば「サイエンス・フィクション」である。

    しかし、藤子Fのように「すこし、不思議」なのか、「サイエンス・ファンタジー」なのか、「スペース・ファンタジー」、「スペース・フィクション」…いくらでも形容する言葉が入るようで、それらはすべて何かが欠落しているような物足りなさを感じる。
    むしろ包括されているのだろうと思う。

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著者プロフィール

1920年、アメリカ、イリノイ州生まれ。少年時代から魔術や芝居、コミックの世界に夢中になる。のちに、SFや幻想的手法をつかった短篇を次々に発表し、世界中の読者を魅了する。米国ナショナルブックアウォード(2000年)ほか多くの栄誉ある文芸賞を受賞。2012年他界。主な作品に『火星年代記』『華氏451度』『たんぽぽのお酒』『何かが道をやってくる』など。

「2015年 『たんぽぽのお酒 戯曲版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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