アフガニスタンの風

  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794927743

感想・レビュー・書評

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  • ソ連によるアフガニスタン侵攻(1978-89)を、著者ドリス自身が実際に現地に行って見聞きした経験をもとに、彼女の言葉で語られる。

    ソ連によって大量に殺されたアフガン人、ソ連に拷問され、抵抗運動の関係者を吐くよう肉体的苦痛を課せられた人たち。ドリスの語りを通じてアフガン人の勇敢さ、美しさが伝わってくる。

    一方で、今ここでも私が「大量に殺された」と表現したのと同様に、我々は戦争の想像を絶する死者数のせいで感覚がおかしくなってしまっている。

    つまり、ある新聞では「およそ数十万人の死者数と推定され〜」と表現し、あるテレビ番組では「専門家によると200万人の死者数と推定され〜」と非常に規模の大きい誤差が生じているにも関わらず我々は疑問に思わない。本当なら、人が亡くなっているのに、1人か2人か間違えるべきではないし、100万人の死者と200万人の死者では雲泥の差であるはずなのに、堂々とこれらの数を単に「大量」と一単語で簡単に表現してしまっている。

    ドリスが2007年、ノーベル文学賞を受賞できたのは、女性目線による力強さだけでなく、西アジアや南方アフリカにバックグラウンドを持つ彼女の広い視野によるものなのだろうと感じた。

  • アフガニスタン戦争については報道系の本があるだろうが、ドレス・レッシングだからこれを読んだ。大作家らしい端正な文書ながら力強い。しかし古い(1988年)く当然9.11以前だが、歴史の惨事が今の悲劇に結びついていると知る。

  • レッシングと似たような問題を共有しているので、身につまされながら読んだ。今後、イスラム世界、戦争、災難などをめぐる報道に触れるたび、この本のことを思い出すだろう。人間の偏見や無関心がどれほど根強く、恐ろしいかについても考えさせられた。

  • (2010.11.11読了)(2010.11.01入手)
    アフガニスタン略史
    1919年、対英戦争に勝利し独立達成
    1973年、クーデターにより国王追放、共和国に
    1978年、クーデターにより、社会主義政権に
    1979年、ソ連軍による軍事介入開始
    1989年、ソ連軍撤退完了
    1996年、タリバーン政権
    2001年10月、アメリカ軍空爆開始
    2001年12月、暫定政権発足
    2004年1月、新憲法制定
    2004年10月、大統領選挙実施、カルザイ氏当選

    2007年にドリス・レッシングが、ノーベル文学賞を受賞した後、神さんが購入してきて積んでおいたのを拝借して読んでみました。1986年に著者はアフガニスタンを訪れ、ソ連軍に祖国を追われた人たちやソ連軍と戦う人たちを取材した様子を書き記したものです。
    表面的様子だけでなく、もっと突っ込んだ実態を知りたかったようですが、なかなか思うようには行かなかったようです。それでも、女性であるために、女性に取材することができたようです。イスラム圏では、男性が女性に話を聞いたり、女性の生活空間に入り込むことは困難ですので。
    レッシングが会った抵抗勢力の指導者たちは、なぜ欧米の人たちは、われわれをもっと援助してくれないのか、と口をそろえたように言っています。欧米の人たちが援助物資を送っても、多分彼らのところまでは届かないのでしょう。
    受け取りの窓口になっている人たちが、自分が貰ったものとして、自分の好きなように処分しているのでしょう。
    アフガニスタンで、支配が及ぶのは都市部だけの話で、谷間に点在している部族には、支配が及ばないのは、25年前も今も変わらないようです。
    谷間に点在している部族のそれぞれの生活が成り立つように、一つ一つ仕組みを作って行くしかないでしょう。アメリカも早くそれに気がついて、やり方を変えないといけないと思うのですが。オバマさんしっかりしてください。

    第1章は、文学的序章という感じです。カッサンドラの物語?が綴られています。
    ●オーストラリア(17頁)
    空を覆うイナゴの大群に見えたのは、ほこりだった。何千という農場から来る土ぼこりが、シドニーに寄せる風に吹きあげられ、海に流れ込んでいたのだ。木が伐採されているため、何百万トンもの表土が永久に海中に沈んでいく。オーストラリアはすでに森林の3分の1を伐採した。言うまでもなく、それが砂漠化の原因となることを承知の上で。
    ●アフガニスタンの戦闘(40頁)
    現代でも最も得意な戦争のいくつかが、最新の戦車部隊と、ぼろをまとい手製の手榴弾やパチンコや石や旧式のライフルを持った男、女、子供たちとの間で戦われてきた。アフガン人は凧に結び付けた手榴弾でヘリコプターを落としたことさえある。
    アフガニスタンの美しい場所は砂漠と化してしまった。貴重な美術品が豊富にあった古都も爆撃ですべてが失われた。アフガン人の三人に一人がすでに死んだか亡命したかあるいは難民キャンプに入っている。しかも、世界はほとんど無関心のままだ。
    ●ペシャワル(51頁) パキスタン
    混乱と騒音と混雑を極めるペシャワルに、わたしは唖然とした。秩序のかけらもない雑然とした場所。だが、インド通の友人に言わせれば、パキスタンの都市のほうがきれいで裕福できちんとしているという。乞食もあまり見かけないし、目に付く貧困もなければ路上で暮らす人たちもいない。
    ●アメリカの援助(63頁)
    戦争が始まって七年経った今も、ムジャヒディンは武器の大半をソ連軍から盗んでいる。アメリカからの援助は送られてきているが、送られてくるもののうち、ほんのわずかしか届かない。
    ●ソ連のおもちゃ(66頁)
    腕時計やペンや子供の玩具に見せかけた爆弾をわれわれが歩きそうな所に仕掛けるんだ。キャンプ内の病院は、手足をもぎ取られた子供たちであふれている。こういうおもちゃを前に手を出さずにいられないからだ。
    ●アフガニスタンの支配(71頁)
    アフガニスタンは80パーセントをムジャヒディンに、残りの20パーセントをロシア人に支配されていると言われる。
    ●女性解放(86頁)
    「ソ連はアフガニスタンの女性を解放したと主張していますね」
    「ソ連侵攻以前だって女性は自由になりつつあった。自分が望めばベールをかぶることができたし、そうする女たちもいた。さもなければジーンズとセーターでもよかった。農村部の女たちはほとんどベールをかぶっていなかった。」
    ●学校と病院(99頁)
    ソ連はいつだって学校や病院を爆破するのだ。論理は通っている。教育のある人口が増えては困るし、負傷したムジャヒディンが回復されても困るのだ。

    アフガニスタンは、援助を必要としている。一方で、援助を必要としている人たちの元に、援助物資は届かないという。

    ☆ドリス・レッシングの本(既読)
    「破壊者ベンの誕生」ドリス・レッシング著、新潮文庫、1994.09.01
    (2010年11月15日・記)

  • 読むのが遅すぎた本。わかっていた、報道という分野が視聴者の興味ある部分しか写さないことはわかっているつもりではいたのだが・・・。かのwikiでさえも表面をなぞる事柄しか書かれていなかったことに、驚いた。考える前に、「読むのが遅すぎた」と感じた本です。

    けど、年配の人は結構この本に書かれている事柄は当時においては周知のごとくらしく・・・僕は情報社会に踊らされている若者なのだと再認識したおっさんです。

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