男子劣化社会

  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794969682

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  • 日本で草食系男子などと言われて久しいが、実は世界的な潮流であると知って驚いた。正確に言えば、ネットインフラが充足している先進国共通の課題ということであろうか。同様に、引きこもりも日本だけの問題ではない。

    原因は、テクノロジーが進化することによって、脳がテクノロジーに適応しすぎてしまい、現実とのギャップを埋めきれず、人とのコミュニケーション能力が低下していることにあるということだ。今後、人工知能がさらに我々の活動に入り込んで、日常生活が便利になっていく一方で、失われていくものもあることもあることに気づき、その対策を立てることが、テクノロジー社会を構築していく我々の責務であると言える。

    「テクノロジーの魔法と興奮依存症」の章には、以下の記述がある。
    ”多くの情報が即座に注意を向けさせようとする資格的刺激の強い環境にのめりこんでいる時には、その認知的負荷が私たちのワーキングメモリには大きすぎて、すべてが長期記憶には移行しなくなる。また、認知的負荷が大きくなると注意力は散漫になり、頭は適切なデータとそうでないデータを選り分けるのが困難になる。”

    つまり、刺激が強いパソコン画面にばかり向き合っていると、脊髄反射的に反応をしてしまい、深く考え判断しなくなってしまうということだ。この一例として、オンラインポルノの弊害を本書では指摘している。
    オンライポルノを提供する側は、より多くの収入を得るために、どんどん過激な内容になっていく。若くしてオンラインポルノに触れると非現実な過激表現を現実と混同してしまうことになる。実際には巧妙に編集されているにもかかわらず、AV男優の身体的特徴と信じられない持続力を見て、若者は自信を喪失しセックスに踏み出せなくなるらしい。さらには、AV女優が演じる女性像と現実の女性との区別がつかなくなり、女性の方が男性よりもセックスが好きであると勘違いし、そしてAVの中でのプレイを当然のことの様に要求する様になる。女性を人間としてではなく、モノとして見てしまい、生身の女性との良好な関係を築くことができなくなる。

    本書で最も印象的だったのが、現在のデジタルワールドとマズローの「欲求五段階説」を対比して論じているところだ。五段階の内ボトムに位置する”生理的欲求”と”安全欲求”は、現代でも物理的な現実の世界で満たされなくてはならない。しかし、その上に位置する”社会的欲求”、”尊厳欲求”、”自己実現欲求”については、デジタルワールドでは、段階を踏むことなく満たすことが可能であるかもしれないと説いている。
    しかも、デジタルワールドでは、結果に対するリクスを追うことなく、それらの欲求が満たされる場合があるため、現実世界との折り合いの付け方を間違える可能性がある。実際に、オンラインゲーマーがデジタルワールドと現実世界との区別がつかなくなり犯罪への発展した例は枚挙に遑がない。

    では、どうすべきか。これについては終章で提言にとどめているが、一言で言ってしまえば、小さなことからコツコツと行い、コミュニケーションを大切にしていくに尽きると提案している。しかし、今はそのコミュニケーションがLINEなどのSNSが主となってしまい、課題解決の困難さのスパイラルに容易に陥ってしまう。
    本書はキャッチーな題名で面白いことに着目させてくれたので、どうあるべきかの提案も引き続き上梓されることを期待したい。

  • ここ数十年で身の回りで見られる、無気力で絶望感に満ち、短期的快楽だけを追い求める男性について、改めて今の社会が作っている厳しい現状を直視することができた。インターネットという急激な変化をもたらすテクノロジーは間違いなく、伝統的な社会に歪みをもたらしている。世界はある意味豊かになりすぎたのかもしれないが、今向かっている方向は、本当に私たちが望んでいる方向性なのか、力をつけた女性たちや、自分達を弱くする魅力的なものに溢れた今の環境を、もう一度見つめ直し、男女がそれぞれ輝ける社会を作るための議論を止めてはいけないと感じた。

著者プロフィール

スタンフォード大学心理学名誉教授。エール大学、ニューヨーク大学、コロンビア大学でも教鞭をとる。米国心理学会会長、スタンフォード対テロリズム総合政策教育研究センター所長を歴任。『ルシファー・エフェクト』(2015年、海と月社、ウィリアム・ジェイムズ・ブック賞)、『迷いの晴れる時間術』(2009年、ポプラ社)などがある。

「2017年 『男子劣化社会』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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