つけびの村  噂が5人を殺したのか?

  • 晶文社
3.06
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感想 : 228
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794971555

感想・レビュー・書評

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  • もと傍聴マニアグループだった人が,山口の連続殺人事件を取材したルポルタージュ。
    思わせぶりな記載があるが結局謎は謎のままというもの。情報量としてはとても少ない。佐野真一の出来の悪いルポを読んで持った感想と同じ(佐野真一ほど攻撃的ではないのが救いか)。
    SNS等で評価する人がいたことと,晶文社の本でもあり,少し期待して,買って読んでみたが,時間と金の無駄だった。ルポルタージュって,そもそもこういう分野なのかなあ。編集者はもっと突っ込んだりして内容を練らないのかな。

  • 話題作だけどレビューを読むと否定的な感想も多かったので読むかどうか迷っていた本。
    でも読んでみるとブログで火がついてトントン拍子に書籍化が決まったのもわかるような気がした。
    あとがきでわざわざ事件の性質からノンフィクションの定石が打てなかったと弁明しているが、書けなかったのだと思う。
    村の暮らしぶりなど本来であれば合間に適宜触れていくものを、聞き取った話を混合し半ば創作してまるまる一章分そのまま載せている所もそう。
    だけど、そういう素人くさい、なんちゃってルポライターの体当たり的な所が間口を開いていて読みやすい。

    取材には肩書きが必要だと繰り返し、前半部はそれを当て込んだのか賞に応募し落選。
    出版社にも原稿の掲載を断られ続け、半ばやけくそで記事をブログに掲載する。
    多くの人は事件記者にはない書きぶりに共感を寄せたのだと思う。
    何の当てもなく取材に応じてくれるだろうかとビクビクしながら侘しい金峰地区を一人歩くところの描写や、近くにコンビニも何もないのでトイレと飲み物などの買い込みを済ませ万全で臨んだはずなのに、急に腹痛に襲われ、真相を聞く前にトイレを借りる所など、いい意味で力が抜けている。

    獄中の犯人からも「ルポライター気分ではダメです、事件記者として来るように」と釘を刺されているのを心外だと語る所などおかしかったし、ガードの固い神主夫妻に近づくため、事件の取材ではなく神社マニアですと偽って近づいて行く所など、記者ならやらないだろうなぁと思う点を正直に書いているので、嫌みがない。
    むしろ、読んでいる間に金峰地区を「かなみね」と間違え、その都度「みたけ」だと脳内で訂正していたら、だんだんこの地域の歴史に興味がわき、最後は神社の来歴をもっと掘り下げて終わるのもアリなんじゃないかと思ってしまった。

    著者は本書の中で、「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」という張り紙は、犯行の直接の引き金ではなく、裁判では妄想と片付けられている中傷を含む「うわさ」も、現に取材によって明らかになったと繰り返し強調しているが、事件の実態や真相にどれだけ肉薄しているかと言ったら心もとない。
    犯行の様子も、当時の新聞記事の域を出ず、状況証拠や聴取などから詳しく肉付けされることもないし、いくら犯人が妄想を募らせていたとはいえ、なぜ2013年7月21日に決行され、数年前に被害者から刺されたという事件がキッカケにならなかったかなど疑問も多い。

  • ある村人が10年後に話すといった“真相”について、ほんまに横溝正史やん!とぞくぞくした。
    裁判傍聴のことや書籍化に至った経緯、レンタルさん登場など、事件以外のことも興味深く読んだ。

  • 2013年山口の集落で起きた5人放火殺害事件。逮捕された男の家には「つけびして 煙り喜ぶ
    田舎者」という謎の張り紙が。村での取材、被疑者への取材から分かった真実を記すルポルタージュ。

    面白かった。けど事件の謎を解く部分よりも、限界集落の歴史を描くパートの方が多く、また真実が期待していたものとは違うのが難点。しかし現実を「意外なものに」期待してしまうのはミステリー読みの悪い癖。

  • (01)
    村が生きているとはどのような状態をさすのか.それは村の仮死や死をどのように認識するかという問題も含んでいるし,村に住んでいる生きた人間の生態や精神の状態,また人間どうしが関係する状態とも照らして考えることができる.
    本書の主な舞台となる周南市の金峰(みたけ)やそのうちの郷(ご,ごう)という村にも,その生と死は措いても,現在の状態があり,著者はその状態に向かい,記述を試みている.
    著者が感じる村の状態の多くは,ノイズのようでもある.羽虫がいる,雑草が繁る,村人やワタル(*02)の理解しがたい言葉がある,厄介な雑多や雑音に対し,著者は出版テキストにおける整音を目指さずに,意図してノイズを持ち込んでいる.その真摯な取材と記事化の姿勢には共感や同調を誘うものがある.
    ノイズの言語化には噂や妄想の契機がある.「つけびの村」とされる本書が舞台とした村では,いまだ言語化していない/されまいとするノイズの砂嵐(*03)が吹き荒れているようにも思われる.

    (02)
    村の状態と並行して,主人公の個人史が当然ながら描かれる.厄介な家柄に生まれ育ったワタル,上京してジムに住み込み,内外装に関わる職に携わったワタル,帰省後にUターンハイと村おこしの挫折を味わったワタル,公判中に外部と歪なコミュニケーションをとろうとするワタルなど,氏の半生への興味は尽きない.
    特に村では,自然環境や人為的な風土に身を晒し,環境や風土に自らを調節することが求められる.それが都市と違うのは,都市が匿名性や単位をもった個人が生きられるべく成立しているのに対し,村落では,家や顕名性が半ば強制される点にある.その場所の固有性に根ざしローカライズされた風土と環境でもある.
    村への適応障害はどのように現れるのか.犬,猫,羽虫,アブ,カラオケの大音量,噂の小音量,除草剤,刃物,薪,棒,酒,椎茸,防犯カメラ,ポエム,杉の苗,お祓いなど,村を構成する各要素が,それぞれ敵味方として,時に増幅され,時にミュートされ,幻想的でもあるが現実的な村が,近代的な個人に対して現れる.
    生きられた村がそこにはある.

    (03)
    歴史や物語はどのように働いているのか.歴史化や物語化といった,まだ柔らかいプロセスがこの村にも見えている.この過程には,さまざまな過去や未来への可能性を含んだ噂が渦巻いている.
    集落の構成,特異な地名からは流動的な業や民の存在がうかがわれる.須々万や金峰,菅蔵,広瀬など近隣の地名の語感や草山の風景からは,製鉄(非鉄金属の可能性もある)や焼畑といった非定住に彩られた中世史が示唆されているようにも思う.貧困や暴力,近代の一過的な人口増減などの症状と,この「火」が暗示される村の歴史過程はおそらく絡まっている.

  • ルポルタージュなんだろうけれど、遺族や周辺住民の方の名誉を守るための配慮や内容的な落とし処が合わさって、異世界ものの様に感じてしまった。

  • 「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」。2013年に集落人口12名の山口県の農村で5名の村人が殺害された放火殺人事件。

    冒頭の川柳は、犯人の自宅の窓に貼られたものであり、事件当時、大変話題になった。次第に事件の全容が明らかになるにつれて、この川柳は、村人たちから”村八分”にあった犯人が、殺害を示唆するものと世間では喧伝されるようになり、私自身もそう思い込んでいた。しかし、その実態は異なっていた。

    本書は、裁判の傍聴記等を得意とする一人の女性ライターがnoteに連載していたルポルタージュの書籍版である。noteの連載は一時期、SNS上でかなりバズっており、その内容に追加取材を行って、本書はまとめあげられている。

    著者は事件の舞台となった農村に何度も足を運び、遺族や関係者らへの徹底した取材を行う。その中で浮かびあがってきたのは、「噂が噂を呼ぶ閉鎖的なコミュニティ」の姿である。誰もが誰かを噂する、そしてその噂の内容は当然、誰かを悪しざまに言うものになる。

    罪なき5名を殺害した犯人に情状酌量の余地はない。それでも本書を読むと、犯人が逮捕直前に、自らが唯一心を寄せることができていた2匹の愛犬に残したメッセージに悲しさを覚えてしまうのも事実である。

  • 丁寧な調査と説明でとても面白かった。白黒パキッと分かりやすい物語は疑ったほうがいいのだなと学んだ。

  • 著者の取材の過程が綴られてるだけで、何か大きな事実が明らかになるわけではないけど、限界集落の気味悪さがリアルに伝わってくる。多かれ少なかれ、田舎だけではなく限られたコミュニティってこういう気味悪さがあるなあと。こっちの言ってる常識が伝わらない、自分たちの常識の中で生きてるって感じ。一体誰の言っていることが本当なのか、、モヤモヤした気分になりながらも、携帯も繋がらない、夜になると真っ暗になる限界集落に、著者である女性が何度も一人で訪れる描写にゾクゾクしながら読み進めてしまう。
    犯罪もののノンフィクションというより、閉鎖された田舎の怖さに関するちょっと特殊なルポって感じ。
    あとがきが良かった。「うわさ」というものに対する著者の思いも納得できたし、本書の構成の意図について綴られていて、ちょっとモヤモヤがすっきりした。

  • ✓現実を噛み締めたい方にオススメ

    連続放火事件を淡々と調査しまとめたルポ。
    事件自体はショッキングな始まりだが、
    劇的な結末はなく、これが現実。
    私たちはそんな現実に生きていて、
    雁字搦めになっても、もがくしかない。

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著者プロフィール

高橋 ユキ (たかはし ゆき)
1974年生まれ、福岡県出身。
2005年、女性4人で構成された裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成。現在はフリーライターとして、裁判傍聴のほか、様々なメディアで活躍中。

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