NHKスペシャル 生活保護3兆円の衝撃

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  • 宝島社
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784796697132

感想・レビュー・書評

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  • NHKスペシャルをもとにした、「働く世代の生活保護受給者」に焦点を当てた本。
    若い世代の生活保護受給者に対する厳しい見方に貫かれており、少し偏見も入っているのではないかと感じる部分もあったが、生活保護という制度自体が、受給者の働く意欲を奪っているという側面がよくわかる内容になっている。また、生活保護受給者を食い物にする貧困ビジネス業者の酷い実態も知ることができた。
    生活保護の改革案として指摘されている、「生活保護から抜け出すインセンティブを付与する」という方向性、期限とプログラム強制の実施、凍結預金口座の設置といった具体案も納得できた。ただ、それだけで根本的に問題が解決できるかは微妙なところだと思うが。

  • 「この国の底が抜けた」という1文で始まる。
    日本という問題先送り思考停止のツケの結果が底から確実に来ている。
    …というか、この現象(働く世代を生活保護で受け止めることを決めた)、きっかけは厚生労働省の一課長の「通知」であったことというのが、なんというか。
    それほどに簡単に決められたなら、修正することも簡単に動いてみやがれと言いたくなるがそうならないところが…、何ともため息しか出ない。
    サクっと1日で読める。

  • 貧困ビジネスはそのうち1兆円ビジネスになり、そのすべてが反社会的組織に流れる予感。もちろん1兆円の原資は全て税金。そこへさらに、就業可能層の非就業手当がのしかかる。いずれも、数年前の就業可能者への生活保護拡大の影響。

  • 去年の5月以降とくに生活保護に関するネガティブな報道が相次いで、これでは生活保護に本当に救われている人への偏見をも生みかねない、と危惧していたけれど、実状としてやはり制度にも大きな問題があることがよく分かった。すごく分かり易かった。
    ある記者が「5円玉の穴を通して社会を見るのが記者の仕事」と言っていたが(それにはすごく共感したわけだけど)、まさにこの本の中の生活保護での取材活動も同様だった。ただし、やはり5円玉の穴を通して社会の全体を見るのは無理なわけで、報道にはやはり多面的に、かつバランスのとれたものが求められるだろうな。そう考えると、マスメディアの組織力というのはとても重要。
    まあ多面的に捉えたとして、あくまでパーソナルなアプローチの蓄積だからそれが問題の全容かと言えば分からない、だから継続的にアプローチかけなきゃいけないんだろうな、記者の仕事というのは。

    この本の中では、とくに「就労支援が成功しそうな事例」を取り上げていたのが重要だったと思う。若く就労意欲があるにもかかわらず、就労にたどり着かない。これがこの問題にある普遍性をもたせたとおもう。つまり金銭的支援ではどうにもならない、また現行(この取材当時)の就労支援は実効性が希薄ということ。

    研究、理論の追究は「かすみを掴むようなもの」と研究者志望の友人がいっていたが、現場から社会をみるというのもほとんどそれと同じな気がするんだよな。本当の社会の姿なんて全然見えてこないでしょうに。アカデミズムとジャーナリズムの不可分性を感じました。

  • コレを読んで思ったのは、ベーシックインカムは、やるべきではないという結論。人間は働かずに済むと、当初の働く意欲の有無にかかわらず、殆どの人が働く意欲をなくすという事実。

    この事実を知るだけで、この本を読んで良かったと思う。こと生活保護の問題については、不正受給が話題に上がるが、むしろそのことよりも、人間の本性として生活保護というある意味「ベーシックインカム政策」は、その人の労働する意欲(生きる意欲と言い換えてもいい)を蝕んでいくという事実だ。

    このことに関して本書で紹介されているケースワーカーは「受給者が生活保護から抜け出せるかどうかは半年間が勝負。半年を過ぎると殆どの人は生活保護から抜け出せない」という。そしてその裏付けとなるデータもある。

    派遣切りが話題になる前の、働ける世代への受給の実質的禁止、をしないと、ますます労働意欲をなくしてしまう若者が増えてしまうという恐怖を、この本によって知り得た、非常に興味深い本だ。

  • 働く力がありながら、働いていない人たち。
    稼働世代でありながら生活保護を受給し、その期間が長引くほど自立ができなくなる。
    働いても、働かなくても、同じような金額を手にすることになるからだ。生活保護担当の職員は、働く意欲のない受給者へ、就労指導・支援を行っている。やり場のない徒労感を抱える現場の声に胸がつまる。

    年越し派遣村の後、日本の稼働世代は「最低賃金で働くか、生活保護か?」というとんでもない状況に向かって突き進んできた。

    一刻も早く社会保障政策の建て直しを図らなければならない。

    生活保護にかかる諸問題の根源となっている現金支給や医療費無料などの見直しは当然だ。
    しかもそれは生活保護受給者だけでなく、一般市民を対象とする社会保障政策全体「働いて稼いだら得をする」という当たり前でシンプルな構造にすべきであると私は考える。

    様々な公的サービスに所得による無料や減免などの処置が取られているが、それこそが労働収入を頭打ちにし、意欲や義務を減退させているのではないか。

    国民健康保険や国民年金など、どこから見ても制度疲弊で破綻している。批判を恐れ、いつまでも基本理念の再構築から目を背けていてはいけない。

  • 政治家の作る政策と、実際の現場との乖離がよくわかります。
    生活保護にかかる3兆円の財源を政治家はどのように考えていのでしょうか?

  • NHK取材のこの手の本は、記者の個人的な思い込みや狭い正義感が先走ってしまって、上滑りしてしまう結果になることも多いのですが、この本は読ませました。
    様々な制度の歪みを見るに、不正受給者や貧困ビジネス業者は、インセンティブ(行政からの給付)に極めて合理的に反応する、ということに、行政など制度設計を作る方は気付いていないのかな、とも感じます。
    人間はどうして生き、働くのか、という問題への洞察無しに生活保護制度の改革は難しいのかもしれません。
    この本が出版された後、給付の絞り込みなどの方向性も見受けられます。
    どう動いていくのか、注視したいと思います。

  • 生活保護受給者数が多い大阪市でのドキュメンタリー。
    総額3億円という値もさることながら、受給者数は205万人以上で戦争直後をも越えたということに衝撃。
    職業柄、福祉事業や行政について少しは知識があるつもりだったが、生活保護の実態については本書で学んだ事が多かった。
    2009年のリーマンショック後に大きく制度(方針?)が変わったことも知らなかった。

    「生活保護を受けたことによって、働く意欲がなくなってしまう」というのには、少し身が痛い思いだった…

    働きたいのに働けない人、働けるのに働かない人・・・
    行政の仕組みを利用して、私利私欲をこやそうと悪徳なビジネスを次から次へと続ける業者。
    理不尽な世の中だと嘆きたくなるが、政治だけのせいではないだろう。現代人のなにが変わってしまったのだろうか。。

    『税と社会保障の一体改革』
    仕事上、その動向をかなり気にしていたが、今やニュースでちらっと聞いてへーって程度になってしまった。しかし、やはりこの国の今後を左右できるかもしれないもの。期待したい。。

    大阪市は積極的にゼロゼロ物件など不正受給の追求に施策を打ち出しているよう。
    数ヶ月前ワイドショーを騒がせ、この本を読むきっかけにもなった芸人Kの母親の不正受給問題、岡山市だしなるほどと思ってしまった。

  • 【読書その97】2011年9月に放送された「NHKスペシャル生活保護3兆円の衝撃」の取材をもとに再構築した書籍。
    本書を通じて貧困ビジネスの実態を学んだ。自分自身の生活保護のケースワーカー経験では、新潟という土地柄もあり、貧困ビジネスは目にしたことがなかった。主に都市部で発生している貧困ビジネスは、ホームレスなど、居住をめぐる厳しい状況を反映したものであった。
    思うに、住居をめぐる問題(特に非正規労働者)は全国共通。自分が経験した時期はリーマンショック前だったが、当時でも、仕事と住居がセットとなり、仕事を失った途端に一気に住居を失い、一気に路上に追い出されてしまう人の相談を多く受けた。無一文で住む場所ない人に、市役所の持つ市営住宅を即時に用意することは難しく、急増する受給者への対応で特定の受給者のために居住の場を確保するのも正直難しい。貧困ビジネスは、そうした受給者をめぐる厳しい居住状況に漬け込み、甘い声で住居を提供すると言って囲い込み、保護費を強制的に徴収していく。さらに事業者の中には、生活保護自給者の深層心理を悪用して、携帯電話の不正購入や薬の転売など、さらに受給者自身を犯罪の道へ巻き込む。
    こうした貧困ビジネスは、ケースワーカーを経験した人間にとっては本当に許せないものである。断固たる態度で臨む必要がある。

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