冤罪の恐怖 人生を狂わせる「でっちあげ」のカラクリ

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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797363524

作品紹介・あらすじ

ある日突然、犯罪者の濡れ衣を着せられる冤罪。人生が狂い、被害者とその親族を不幸のどん底へと陥れる国家権力の暴走は、なぜこうも続くのか。そこには、司法に巣食う病巣ともいえる"でっちあげのカラクリ"が存在する。事件記者として40年以上現場を追ってきた著者が、この国の司法が危機的状況に至った原因を検証し、冤罪事件の具体的な防止策を示す。冤罪被害者たちの肉声も収録。

感想・レビュー・書評

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  • 冤罪の問題を取り上げたノンフィクションである。足利事件や布川事件などの具体的な冤罪事件を解説する。後半は取り調べの全面可視化など冤罪をなくすための提言を書く。

    冤罪は国家による犯罪である。冤罪により刑罰を受けた人は、国家権力によって人権を侵害される(『冤罪白書』編集委員会『冤罪白書 2019』燦燈出版、2019年)。見込み捜査によって今までの人生は台無しにされる。市民の幸福を盗み、名誉を踏みにじり、自らは点数稼ぎをする。名誉回復の仕組みは十分ではない。これからの人生も台無しにされる。

    冤罪が生まれやすくなる背景として法律の恣意的な運用がある。欧米の共通の制度として罪刑法定主義がある。違法か違法ではないかを明確に定める。ところが、日本では警察官や検察官の裁量が大きい。法律の恣意的な運用は日本の行政のあらゆる場面に見られる悪癖である。一貫した理由の説明はアカウンタビリティの観点から当然に求められる。

    「法律の恣意的な運用をやめてください。収容する時も、仮放免の許可を出さない時も、次回の仮放免期間あるいは仮放免申請時に参考にすることができる一貫した理由を、個別ケースに応じて明らかにしてください。」(「入管庁は、非正規移民の長期・無期限収容をやめてください。ハンストを無視せず、恣意的な収容行政をやめてください」)

    「警察・検察による自白強要、それを鵜呑みにする裁判官。真実は何処に。はっきりしています。警察・検察が、ちゃんと手持ちの証拠を全面開示すれば一目瞭然です」(「傍聴席」救援新聞、日本国民救援会東京都本部、2020年1月25日)

    組織内での初動対応によってその後の被害が大きく変わってくる。多くの事例では警察の捜査に問題があっても、外部から指摘を受けるまで問題化することはない。自組織で自発的に行うべき見直しがなされていない。情報公開がなされず、実態を正確に把握できなければ、警察不祥事の対応も困難になる。風化はしない。むしろ問題は拡大する。

    「海外では、真実究明を目的とした再審請求調査部門を検察庁に置いたり、独立した調査委員会が誤った判決の原因を調べたりする事例もある。冤罪をなくすために、こうした制度の整備を急ぐべきだ」(「元看護助手無罪 供述弱者守る仕組みを」秋田魁新報2020年4月3日)

    本書は警察の中でも神奈川県警や埼玉県警、兵庫県警という東京や大阪に隣接する警察組織の質という構造的な問題を指摘する。「首都圏や関西圏の警察が、地方のあちこちの県警と共同で1次試験を行い、2次試験は地方に出かけて行ってやる「共同試験」という仕組みもある。受験者は地元警察を第1志望とし、首都圏や関西圏の警察を第2志望にするパターンが多いという」(120頁)

    実際、これらの警察では警察不祥事が目立つ。埼玉県警の桶川ストーカー殺人事件は警察の体質批判の先鞭となった。近時の警察不祥事では警察官が職務を騙って犯罪を行う警察詐欺・警察犯罪が目に付く。これも埼玉県警が先鞭である。草加署巡査(22)は死体検案名目で遺族から現金82万円をだまし取った。川越署巡査(25)は遺族に遺体の防腐処置費用として現金50万円をだまし取ろうとした。

  • ほんと冤罪は恐ろしい。捜査の可視化とか、検察にも手を入れるとか、冤罪を防ぐための対策も書かれているところがいい。

  •  先日、某大学の学生が冤罪で逮捕され、いたたまれなくなり大学を辞めてしまったという記事を読み、冤罪の恐怖を知るために手に取った本。郵便割引制度をめぐる偽証明書発行事件(郵便不正事件)、足利事件、布川事件、志布志事件、高知白バイ衝突死事故を取り扱っている。

     序章では、偽証明書発行事件から発生するであろう影響の一つに、裁判員制度で検察官によるでっち上げのために、死刑を含めた厳しい判決を出すのをためらう恐れがあると指摘している。また、尖閣諸島でのビデオが海上保安官によって公開されたことにも触れ、捜査のプロであるはずの人間に証拠の重要性についての認識が欠けている、つまり検察・海保・警察という捜査機関の情報管理体制がぐらついていることを指摘している。

     第一章では、郵便不正事件からみる検察の問題である。事件の捜査に「筋読み」は(マスコミの取材においても)不可欠である事を肯定した上で、何の裏付けも無い極めてずさんなストーリーを描き、脅し・誘導(逆らうと勾留期間が長くなる)を用いて嘘の供述調書を作成(検事の興味のあることしかメモしない。裁判では作成された供述調書43通中34通が採用されなかった)、証拠であるフロッピーディスクの改ざんという許されざる行為に手を染めた検察を批判している。
     この背景には、以前は政治から距離を置いていたはずの検察が、小沢一郎によって検察人事に立ち入られる事を恐れ、政治献金規制法違反で起訴したような、検察の焦りとおごりがあると推測しているが、ここで「おごりを作ったのは自民党の金権政治と、ぬくぬくと反対勢力であり続けた野党を許してしまった国民にも非がある」という趣旨の文章があるのが少しきにかかる。もっとも、その政界を浄化していると持ち上げたマスコミについても言及している。

     第二章は足利事件、布川事件、志布志事件、高知白バイ衝突死事故の概要とそれぞれの事件の問題点について言及し、これらは警察のメンツが関係していると推測している。
     DNA鑑定の成果を示し実績を挙げたいがために、「1000人に1人」という確率で同じDNAが検出されるDNA鑑定(現在のDNA鑑定は平均27兆分の1)を実施し、やってもいないことを認めさせられ警察・検察が作ったストーリーを覚えこまされる、執拗な誘導で自白させる、「検察官調書の特信性」の怖さ、自白テープの改ざん、「親族からの手紙」と偽り踏み字をさせる、警察側の過失の隠蔽など、とても司法の側に立つ人間が行ったとは思えない事が行われたことを批判している。
     地域が冤罪をつくり、それをマスコミが後押ししてしまうことも指摘している。「容疑者が捕まったのだから蒸し返さないでくれ」と、証言をしようとする人への非難がされたとのことである。

     第三章は、前述した四つの冤罪事件の当事者の方々による冤罪シンポジウムの抜粋である。
     高松高裁の裁判官の顔写真を番組内で流した、地裁の判事・検察官の名を挙げる(池本寿美子、森川宇都宮地検検事、福岡地検室井和弘、黒健治)という糾弾も行われている。苦しめられた方の口から出た「司法制度がいらないとは一言も言っていない。今のような司法は要らない、変えなければならない。国民の税金を使って集めた証拠を全開示して、捜査過失罪を作れ」という声を真摯に聞き入れなくてはならない。 当事者本人の肉声を記録しているという点で貴重だと思われる。

     第四章は、第三章までに明らかにされた司法の問題を解決するための提案をしている。
     取り調べの可視化(否認事件だけでも行うべき、調べられる側だけでなく悪質な犯人への牽制にもなる)、恥を晒す位の度量をもち冤罪から教訓を得ろ、警察組織の改善(当たり前のように死体遺棄容疑から殺人容疑へと逮捕する理由を変えるほど、捜査技術が低下している)、最良証拠主義をやめ、証拠の全開示を義務付けるべき、逮捕状の交付に・勾留請求にもっと慎重になるべき、判検交流の廃止、裁判員裁判の有罪無罪の判断と量刑決定の是非、検察審査会の不透明さ、マスメディアはきちんと検証を行った上で報道をしているか(松本サリン事件など、警察の情報操作に惑わされていないか)など、多くの点を挙げている。
     郵便不正事件のスクープを行った人物の「120&の特ダネ記者も、取材相手が調書を捏造し、証拠を改ざんしていたら、120%の誤報記者になってしまう」という言葉は是非胸に留めておいて欲しいものである。

     終章では冤罪を引き起こした輩のせいで、真っ当に生活している人々の一生が傷つけられる恐怖と、真面目に働いている警察官・検察官・裁判官が白い目で見られる理不尽さについて触れている。
     
     正直、私はこの本の著者の事は過去のテレビ番組での発言などもあって、あまり好きではない。しかし本書は読むに値する本だと思っている。
     
    自分用キーワード
    証拠主義 横浜地裁:裁判員裁判初の死刑 

  • 本書に事例として挙げられている冤罪事件はまるでまんが以下の稚拙なプロセスで成立してる。ホントにこんなに低レベルなことが警察や検事、はたまた社会性のない裁判官の間で行われているのかと思うと寒気がする。やはり入口たる警察官はもっとも信用してはならない。番組で紹介される警察24時などねつ造以外のなにものでもない。とにかく録音装着は所持して暮らしたいものだ。あいつらは本当に嘘つきである。

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