歴史を変えた10の薬

  • すばる舎
3.65
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784799108710

作品紹介・あらすじ

アヘンは人類最古の文明といわれるメソポタミア文明の時代から薬として使われていた。天然痘の予防接種を西欧に紹介した最初の人物はジェンナーではなく、マリーという女性だった。薬の歴史を紐解きながら、医療制度の変遷や現代の巨大製薬企業と創薬の仕組みまでを網羅した、薬にまつわる10の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 病院に行って、診察を受けたとき、特に何もするわけでもなく、聴診器を当てて、「はい、○○さんお薬出しておきますからね。お大事に。」
    のような、治療(=薬をだすだけ)が多くなってきていないでしょうか。

    SFのような時代になってきました。
    もう糖尿病も薬だけで治る時代になるでしょう。

    この本で、改めて感じたことをメモしておきます。

    1.今までの薬は低分子薬。これからはまったくちがう高分子薬の時代がくる。
     たとえばアスピリン、なんて超小さい分子構造。化学合成して作るもの、というのはそのようなものだった。これからはモノクローナル抗体(大きい)が癌などの特効薬として普通に処方される時代になってくる。特許が切れる2024年以降に本格化の兆し。

    2.36%の人に効果がありました ← 疑ってかかろう!
     宣伝は製薬会社が作ったもの(=彼らの言い分)。嘘ではないかもしれないけれど、故意に誤解させるような数字のトリックがあるかもしれない。
     この本には、100人中3人に発生した心臓発作(偽薬グループ)に対し、2人の発作(当該薬品投与グループ)と改善され、3人→2人になったのだから1/3に改善効果があった、という事例が載せられています。
     彼らの言い分は、36%の効果があるのだから、100人の人は一生涯薬を飲み続けることが望ましい、です。TV等で宣伝され、さらに数年すると飲み始めるべき基準値が切り下げられることでしょう。

    3. 薬を飲むことで安心していませんか?
     「俺さ、痛風の薬飲んでるからさ、ビール大丈夫なんだよね。」
     「コレステロールの薬飲むようにしたんだ。だからステーキに厚くバター塗っても大丈夫。」
     後者は米国人のようですが、薬を処方した結果、処方しなかったグループに比べて肥満度がアップした、と書かれていました。アメリカ映画を見る限り、さもありなん、と思いました。

    薬を飲んで慢心するのではなく、その薬を飲む意味、意義、効果(費用、期間、効果、副作用、気持ちの持ち方)をトータルで考えて飲むことを決めないと。
    製薬会社の言いなりになっている(この本を読んで、TV番組も製薬会社への忖度が相当入っているな~、と思いました)ところがないか、よく考えましょう。

    飲むことで、結局お金かけて逆に体を悪くしてしまっていることも多そう。喜んでいるのは製薬会社だけ。

    最後に。
    この本に限ったことではありませんが、"X線回析" こんなことばはありません。
    (とても気になったので書きました)
    X線解析とは、X線の回折(かいせつ)現象を利用して、それを計測し、集計・分析して解析(かいせき)することをいいます。

  • 借りたもの。
    取り上げられた10(以上)の薬から見えてくるのは、人類の病気――感染症と精神疾患――と、副作用、依存症との戦いの歴史だった。
    理系な学術書というよりは、読み物として面白い歴史書のような内容。薬の化学構造などの言及はない。
    そして薬の開発とともにアメリカの製薬会社と市場――ビッグファームと呼ばれる巨額の金と利権が蠢く怪物――がどのように生まれたかを言及する。

    阿片についてはじまる薬の開発の話には、「何が人に多幸感をもたらすのか」という探求心よりも「多幸感をもたらす効能はそのままに依存症を少なくする」という”いいとこ取り”をしようとして成分を単離させた結果、もっと依存性が強いものが出来てしまったという皮肉であった。

    著者は「あらゆる薬には副作用がある」と語り、欧米の歴史のなかで当初良い面だけをアピールしていた薬に多くの企業、医師が推奨するも、使用者が増えて依存症が明るみになって問題が発生してから(法律などで)規制する、イタチごっこの歴史であることを紐解いてゆく。
    それ故に未然に防ぐための監視機関もつくられるのだが、その抑止力が正しく機能しているかなどは言及されていない。(判断しようがない)

    新たな製薬の開発も、感染症などの病気の疾患に対する特効薬は、それを服用する人間の受容体の問題などでいずれ限界がくる可能性を指摘。
    そうなると次に目をつけるのは“人生をより豊かにするための薬”になると語る。
    避妊薬であったり、病気の予防(認知症、脂肪の蓄積を抑えるなど)、そして向精神薬……
    製薬会社は次の金脈を常に探している。

    この本のもう一つの面が医学の歴史書でもある。感染症との闘いもさることながら、薬の開発はお金がかかっても元が取れない場合があったこと、天然痘撲滅の歴史の中で臨床試験の先駆となった事例を発案しながら忘れ去られた女性の存在など。

    読み物としてよみやすく、面白い。

    読んでいるときに目に留まった、気になるコラム
    『シロシビンでメンタルヘルス治療!? 幻覚療法の最前線。』
    https://www.vogue.co.jp/lifestyle/article/2020-03-01-psychedelic-medicine-cnihub (2020/3/5 確認)

  • アヘンやヘロインと言った薬物の歴史から天然痘のワクチン、モノクロナール抗体の発見から発展等々、薬にまつわる様々な物語が書かれていました。
    天然痘ワクチンはジェンナーが始めたと思っていましたがそれ以前にトルコで行われていた方法を英国で広めようとした女性がいた話、製薬企業は利益を継続させるために治すのではなく飲ませ続ける方向でいること等、色々と勉強になりました。

  • 治したら儲からない 

  • ・アヘンやモルヒネなど聞いたことのあるクスリの歴史と背景がよくわかる。

    ・薬がたくさんの研究者によって完成させられるものであり、知の集大成であることがわかる。

  • ↓こちらのURLをクリックすると富山大学蔵書検索画面に飛び、所在を確認できます。
    https://opac.lib.u-toyama.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB29617116

  • とてもおもしろかったですが、翻訳がちょっと。
    知らないことが多く、勉強になりました。ドラマチックです。

  • 平均的なアメリカ人は生涯で
    少なくとも50,000錠の薬を飲むらしい。

    例えば、わたしたちが生きていく上で
    マイナス(風邪、ガン、難病など)を
    安く、早く、一発で治してくれる薬が
    あったらいいなと思いませんか?

    あるいは、わたしたちが生きていく上で
    プラス(記憶力や筋力増強、幸せな気分)を
    安く、早く、一発でもたらしてくれる薬が
    あったらいいなと思いませんか?

    でも、そううまくはいかないようです。



    【1】
    なぜって、株式会社で薬を研究開発しているからです。

    わたしたちは金融機関にお金を預けます。投資します。
    当然、利息や配当などを、できるだけ安全かつ多くの見返りを希望します。
    結局、製薬会社には期待以上の利益を出し続けるという任務が課されます。

    みんなの役に立つことが利益につながります。
    でも、単純にそこを目指すことは許されない。

    安く病気を緩和するけれど、決して治らない薬はどうでしょう?
    対処療法的にみんなの役に立ちます。延々と薬を買い続けてもらえます。
    みんなの役に立つと同時に儲かります。

    もし早く一発で治ってしまったらどうでしょう?
    薬が売れ続けませんから儲かりません。
    儲からないので次の薬の開発もできません。
    わたしたちの預金や投資に報いることもできなくなります。

    難病に効く薬はどうでしょう?
    例えば罹患が少なく、研究が進まないと難病になる。
    市場が少なければ薬は売れないので儲かりません。
    はやり儲からないので次の薬の開発もできません。
    わたしたちの預金や投資に報いることもできなくなります。

    経済システムの要請により
    もし魔法の弾丸を作れても、高額にする必要性がある。
    でも、それだと治療法があっても多くの人を助けることはできない。

    みんなの役に立てば儲けのタネになる。経済システムは創薬を加速する。でも。
    経済システムの副作用として、安く、早く、一発で効くような薬は評価が低くなる。
    わたしたちは、そのような薬が生み出されれにくい社会システムの中で生きている。

    【2】
    どんな薬にも副作用があります。魔法の弾丸のような薬はない。
    それでも、わたしたちは魔法の弾丸を強く求める。
    サイゲサイクルと医療対象化が起きる。

    サイゲサイクル

    画期的な研究成果などから魔法の弾丸じゃないかと新薬をもてはやす。
    実力以上にもてはやす。

    新薬はポジティブな成果を全面に、みんなにわかりやすく喧伝される。
    そして実際にそれなりの効能を発揮する。

    でも、副作用のない薬はない。ネガティブのない薬はない。
    ポジティブが強調され、わかりやすく喧伝される一方で、ネガティブを過小評価する。
    薬の効能を欲する人、医師、製薬会社なども利益を上げる
    みんなの都合でネガティブな可能性からは目がそれる。

    いつか副作用が起きる。
    新薬の評価に願望が入っているから、必然的に副作用の害は大きく現れる。
    そこで一転、強烈な反作用のように、薬の害悪が喧伝されるようになる。
    憎さ余って、本来望ましい処方さえ避けられるようになる。

    それでも最後には落ち着き、適切な評価、適切な処方がなされるようになる。
    すると、この薬はもはドル箱ではないので、次の新薬が、魔法の弾丸が求められる。
    こうして、次なるサイクルが繰り返される。

    サイクルがぐるぐる回るうち、副作用のとても少ない薬が、
    それでいてある種のリスク因子に効くと目される薬も生み出される。

    例えば、平常時心拍は60が健康に一番よさそうだとする。
    副作用ほとんど無しに心拍をほぼ60にできる薬ができたとする。
    すると、不思議なことに平常時心拍がほぼ60でないと病気ということになる。
    だって、60でないことはリスク因子であり、それを緩和する薬があるのだから。
    心拍40や80でまったく問題ない人がいても、とにかく病気化、医療対象化される。

    コレステロールは生命維持に必要不可欠だけど、
    「心筋梗塞のリスク要因だから絶対悪」
    「ほとんど副作用なしでコレステロールを抑えられる薬」
    という分かりやすい(が、事実の一部だけを注視する)構造
    ができると、LDLを下げる薬が売れ続けてドル箱になる。



    というわけで、平均的なアメリカ人は生涯で
    少なくとも50,000錠の薬を飲むらしい。



    これは一例で、この本には、他にも薬に関する
    思わず「へー!」となる話がたくさん書かれている。

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  • 薬学と無縁な為か読みにくかったけど薬との向き合い方が変わった。読んでよかった。

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著者プロフィール

1953年、米国オレゴン州生まれ。医化学系ジャーナリスト。オレゴン健康科学大学で医微生物学と免疫学の修士号、オレゴン大学でジャーナリズムの修士号を取得。米国国立がん研究所で勤務したのち、フリーランスのライターとなり、医療関連の記事をAmerican Health, Journal of the American Medical Associationなどに寄稿。オレゴン大学でOregon Quarterlyのエディターを長年務めたほか、同大学出版会のディレクターとしても活躍した。著書多数。邦訳書に『歴史を変えた10の薬』(すばる舎、2020年)、『大気を変える錬金術[新装版]』(みすず書房、2017年)、『サルファ剤、忘れられた奇跡』(中央公論新社、2013年)がある。

「2022年 『エレクトリック・シティ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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