日本が世界地図から消滅しないための戦略 (用意周到な大国、用意周到でない日本)

著者 :
  • 致知出版社
3.17
  • (0)
  • (2)
  • (3)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 51
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784800910684

作品紹介・あらすじ

二〇世紀から二一世紀の転換時期から日本が直面しはじめた人口の減少、財政の破綻、経済の停滞などの危機を眼前にすると、世界に存在を誇示できる存在でありえるかという心配以前に、一五〇〇年以上継続した国家が存続しうるかさえ心配になる。そこで過去に滅亡した国家の歴史を分析し、そこから学ぶべきことを探してみたい。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 日本終わったなという感じ。
    冷静にデータを見ながらその解説を理路整然と行なっている感じ。

    一方、著者の非常にわかりやすい説明に言葉がすっと入ってくる感じでした。今までこの著者の名前を知る機会がありませんでしたが、他の本も読んでみたい。

    2019年11月再読。
    前回読んだときより色々と思うところがあった。やっぱり終わった感は否めない。以下、印象に残ったところの抜粋。

    P.1
    国家の定義にもよるが、第二次世界大戦後に消滅した国家が約180にもなるという調査にもあるように、最低でも約一五〇〇年は継続している日本という国家に無縁というわけではない。

    P.2
    歴史を通覧すると、突如浮上した大国はなく、用意周到な準備の成果である一方、衰退した国家は例外なく用意周到にタイマンだった国家である。

    P.14
    プロイセン王国やドイツ帝国の首相を歴任したオットー・フォン・ビスマルクの有名な「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉がある。これは一種の超訳で、本当は「愚者のみが自分の経験から学んだことを疑わない。自分は誤りを避けるため、他人の経験を学ぶことを好む」とのことである。

    P.30(カルタゴ消滅の原因)
    第一に傭兵に依存したことである。(中略)大量の傭兵を雇うことができるためには、当然、経済力が必要であるが、カルタゴは十分以上の能力を保持していた。第一次ポエニ戦争の配線により、ローマから二〇年賦で賠償、第二次ポエニ戦争の敗戦では五〇年賦の賠償を要求されるが、カルタゴは約束以前に返済を完了していた。これが皮肉なことにローマを警戒させる原因にもなったのである。(中略)第二の教訓が経済至上主義の弱点である。豊富な農作物と当時の世界では最高の造船技術によって交易を発展させ、経済大国を目指したのである。この目標の弱点については二人の史家の言葉を引用すれば十分であろう。「ギリシャ人にとってカルタゴは退屈な場所であった。この商人社会では文化は無用のものとされ、当然評価されようがなかった」(G・シャルル=ピカール)「カルタゴの歴史は文明の浅薄さと脆弱さを示している。彼らは富の獲得だけに血道をあげ、政治的、文化的、倫理的な進歩を目指す努力をしなかった」(J・トゥーティン)(中略)第二次ポエニ戦争での敗戦にもかかわらず、その後も発展しているカルタゴを脅威とする人々がローマに増加していくあ、その中心にあったのがローマの政治家のマルクス・ポルキウス・カト・ケンソリウス(大カト)である。第二次ポエニ戦争に従軍して敗走した経験もあり、カルタゴへの敵愾心に満ちていた政治家であった。カトはカルタゴから輸送されてきた見事なイチジクを聴衆に見せ、このような立派な農産物を生産する国がローマから三日の航海の距離にあると演説し、その最後を「デレンダ・エスト・カルタゴ(カルタゴを殲滅すべし0」と締め括っていた。この繰返しが次第にローマ市民に浸透し、戦争の機運が高まっていった。これが第三の教訓である。

    P.40
    子供の増加は財産を細分することになるため、ベネチアの貴族の家庭の結婚の比率が急速に減少していく。結婚適齢男子の独身比率は一六世紀の五一%から十七世紀に六〇%、十八世紀に六六%に増加し、一人子で結婚しない男子の比率も一八%、三五%、六五%と急増している。
    これは肉体的な精力が減退したというよりは、精神的な意欲の衰退と理解すべき現象である。

    P.56
    明治一五(一八八二)年に発酵された『第一回日本帝国統計年鑑』に明治一三(一八八〇)年の府県の人口が掲載されているが、これによると人口は全国に分散していたことが明確である。
    一位は石川(富山と福井北部を含む)の一八三万人、二位が新潟の一五五万人、三位が愛媛(香川を含む)の一四四万人、四位が兵庫の一三九万人で、東京(現在の区部)は十七位の九六万人で全体の三%にもならない比率である。

    P.92
    ここまで一〇〇年単位の社会構造の転換の三分野について、日本の対応が出遅れたことを紹介してきたが、その理由は明治以来国家戦略が工業社会という環境にあまりにも見事に適応するという過剰適応になっていたため、縮小社会、分散社会、環境社会、情報社会などの新規の環境に移行できなかったということになる。

    P.100(用意周到であった日本:陸軍大差明石元二郎)
    一九〇四年二月の日露戦争の開戦とともに、明石は中立国スウェーデンを活動拠点とする。首相山県有朋は当時の金額で一〇〇万円(現在価格で約四〇〇億円)を工作資金として明石に渡し、明石はジュネーブに亡命していたウラジミル・レーニンに面会して革命を支援するなどの活動をした。
    このような活動によってロシア国内の政情は不安定となり、やがて日露戦争の終結後の一九〇五年に第一革命、一七年に二月革命と十月革命が勃発し、ロシア帝国は消滅することになる。ドイツ皇帝ヴィルヘルム二世の「明石元二郎一人で満洲の日本軍二〇万人に匹敵する戦果をあげている」という言葉を紹介する文献もある。
    スコットランドからの御雇外国人として日本の工学教育を育成したヘンリー・ダイアーは、帰国後、日露戦争の開戦直後に出版した日本の研究所『大日本・東洋の英国』(一九〇四)において、「日本の将官たちは将棋の対局のように、熟考した巧妙な指手を発揮しながら戦略を遂行した」と記載しているが、この時期の日本は用意周到であった。

    P.135 世界最初のバブル経済・チューリップバブル

    P.166(ロボットによる介護について)
    問題は人間ではなくロボットに介護される人間の気持ちである。一見すると冷たい対応のようであるが、介護事業をしている民間企業による興味深い調査結果がある。ロボットによる介護を「受けたい」という比率は九%、「受けてもよい」という比率は七二%で、合計すると八割以上がロボットを受け入れるという意識である。
    これは日本文化の特徴である。産業ロボットが日本で普及した初期に、それぞれのロボットに名前を付け、故障した時には自分の子供のように修理するという現象を西欧社会の人間は理解できなかったことがある。人間は神が創造したものであり、その人間が製造した機械に人間性などは認められないということである。
    しかし、日本の伝統文化には、八百万神の概念が象徴するように、動物や植物は当然として、鉱物にでさせ神性や人間性を認めているアニミズムの精神が浸透している。したがって神が人間を創造したという教義の一神教では機械が介護するのは冷たいと考えられるが、日本では違和感が少なく、前述のような反応になるのである。

    P.170(未来学者アルビン・トフラーの『パワー・シフト』で発表した見解)
    世界の「パワー」には、筋力と金力と知力があり、時代とともに「パワー」の中心は筋力、表現を変えれば武力から、金力すなわち財力へ、さらには知力すなわち情報に移行するという説明である。日本の三種の神器、刀剣(=武力)、勾玉(=財力)、道鏡(=知力)は、それぞれを象徴しているという興味深い説明もある。

    P.175
    アメリカのジャーナリストであるダグラス・マグレイがジャパン・ソサエティの招待により、二〇〇二年に日本を訪問し、約2ヶ月間、日本国内を視察した成果をアメリカの雑誌「ジャパンズ・グロス・ナショナル・クール(GNC)」という題名で発表した。
    内容は、日本は一九八〇年代の経済大国の地位は失っているが、日本には海外の人々が憧れる豊富な文化がある。それを国力として文化大国を目指すべきだという種子である。

    P.201(かつて教育や製品の画一化をして工業社会で成功した日本について)
    価格という単一尺度で競争しなければならない経済分野では、日本は不利な社会なのである。
    そこで日本は戦略を転換する必要があるが、それは画一な尺度での競争ではなく、多様な尺度での競争に移行することである。ここまで紹介してきたように、日本は自然も文化も世界有数の多様な国家であり、それを活力としていくべきであるが、そのためには日本を多様ならしめている源泉を理解することが重要である。

    P.206
    ユダヤ教、キリスト教、イスラム教など一神教と対比して、神道は多神教とされるが、その多神は八百万神とも表現されるように神羅万象である。巨木は神々の憑代として「御神木」とされ、巨石も同様に「磐座」として崇拝され、狛犬が象徴するように多数の動物も神々の使いである「神使」として無闇に殺生はしないのである。

    P.214
    人類は地球上の四〇億年の生物の歴史でもっとも繁殖に成功した種であるが、その成功は膨大な外部不経済に依存して実現したものである。第一の外部不経済は有限の資源の上の消費である。(中略)第二の外部不経済は地球という人類自身が生息している環境を変化させていることである。その省庁は大気温度の上昇である。

    P.220
    日本には一寸法師や牛若丸のような英雄が存在するが、韓国の英雄は巨人ばかりである。日本ではモノを作ることを細工というが、それは扇子とか盆栽のように小さくすることに情熱を注ぐ特徴があるなどを根拠に、日本の文化の真髄は世界に類のない「縮小」することにあると説明した内容である。(縮み志向の日本人)
    裏千家の一五代家元千宗室で、現在では千玄室大宗匠に質問させていただいたところ、一杯の抹茶に宇宙を見出すことであるという答であった。理解できないのでさらに理由を質問すると、そこには火・水・木・金・土という宇宙の五大要素が凝縮されているからと説明された。
    火は炭火、水は茶水、木は抹茶、金は茶釜、土は茶碗ということである。人間が創造できうるかぎり巨大な宇宙という対象を一杯の抹茶にまで縮小したのが日本の茶道の文化ということになる。

    P.223(日本に近代工業技術を教育する学校を設立するために一八七三年に来日したヘンリー・ダイアーが一九〇四年に発表した『大日本・東洋の英国』にて)
    ダイアーは「まえがき」で本書の目的を「日本が国際社会の一員として台頭してきた過程で、その原動力となったものは何であったかを示す」ことと書いているが、そのような検討の契機となったのが、工部大学校で 教育した日本の学生が必死で勉強する理由を究明したいことであった。それを模索するなかで、ダイアーは新渡戸稲造博士が一八九九年にアメリカにおいて英語で出版した『武士道・日本の魂』に回答を発見する。まず引用しているのが「日本が日清戦争で勝利を収めたのは村田銃とクルップ砲のおかげとか教育の成果という。しかし、そのような見方は事の真実の半分も説明していない」という部分である。
    そして「(明治維新という)一大事業には様々な動機がかかわっていたが、主たる原動力となったものを挙げるとすれば、ためらることなく「武士道」を名指しすることになる。(中略)それを推進することになったのは物質的資源の開発や富の増進が動機ではなく、ましてや西洋の習慣の闇雲な模倣を求めてのことでもない」と引用する。
    「それより何より、劣等国として見下されることは耐えがたいという名誉を重んじる気持ち、実はこれこそが最大の動機だったのである。金銭的な得失とか産業の振興といった配慮は変革を求める過程で、あとから目覚めた考え方であった」と引用して、自身の疑問への回答を発見しているのである。

  • ■書名

    書名:日本が世界地図から消滅しないための戦略 (用意周到な大国、用意周到でない日本)
    著者:月尾嘉男

    ■概要

    二〇世紀から二一世紀の転換時期から日本が直面しはじめた人口の
    減少、財政の破綻、経済の停滞などの危機を眼前にすると、世界に
    存在を誇示できる存在でありえるかという心配以前に、一五〇〇年
    以上継続した国家が存続しうるかさえ心配になる。そこで過去に滅
    亡した国家の歴史を分析し、そこから学ぶべきことを探してみたい。
    (From amazon)

    ■気になった点

    なし

  • 長い歴史の中、栄えた国もあれば滅びた国もある。本書では、カルタゴやベネチアといった消滅した国々の教訓を引き出すとともに、 今の日本が直面している危機、そしてその対策について論じる。

    第1部 今、日本が直面している危機
    第2部 大国には用意周到な準備がある
    第3部 今、日本に必要な用意周到な準備

全4件中 1 - 4件を表示

月尾嘉男の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×