生でのあらゆる「最後の1日」をモチーフにした九つのエピソードでつづられた短編集。
幼い頃に失踪し、数日前に交通事故で亡くなった父親の最後の一日をたどる娘のエピソード。
亡くなって幽霊となった姑と嫁の1日のエピソード。
ひ孫娘と赤い色が大嫌いな曾祖母とのエピソード・・・赤が嫌い、そのほんとの理由とは等々、
読み手の心を震わす九つの物語が短編読んでいてさほど疲れない文字数の中で描かれています。
それに、それぞれのエピソードの作者は違う人にもかかわらず、エピソードごとの文体や表現力にばらつきを感じないため、
本全体が非常に読みやすいまとまったものという印象を受けます。
エピソードの中で私が特におすすめだと思えるのは「六月雨日」と「あなたの嫌いな色」「記憶の中の日」の三点。
「六月雨日」は幼い頃に失踪して数日前に事故で亡くなったという知らせの届いた父親の最後の一日をその娘がたどるエピソード。
恨み続けた父親、その父親の最後の一日の行動を辿っていくとそこから見えてきたのはその意外な姿でした。
「あなたの嫌いな色」は仕事でミスを犯し自殺未遂を起こした女性とその曾祖母の話。
曾祖母は「赤」という色が大嫌い。曾祖母には遠い昔に赤色にまつわる嫌な記憶があった。
「記憶の中の町」は痴呆症を患っておりそのうえ癌で余命幾ばくも無い祖母と、
その祖母の願いを叶えようとする孫の話。
祖母の願いは自分の生まれ育った「うち」に帰ること、
しかも、写真とかで見ることではなく祖母の願いは「そのまちへ実際に帰る」ということ。
しかし、その街はすでにダムの湖底に沈んでしまっている。
そこで、孫の涼たちは3Dでその街を再現し、祖母に体感してもらうプロジェクトを立ち上げるます。
そしてこの物語の最後の最後、おばあちゃんがその街へ帰りたかった本当の理由が明らかになってきます。
この本に納められてる作品はどれもこれもが感涙を呼ぶ作品ですが、私的にはこの三作品が特に涙なしでは読めない作品でした。
手にとって読んでいただいて絶対に損のない一冊だと思います。