タテ社会の人間関係 - Japanese Society

著者 :
  • チャールズ・イ・タトル出版
4.00
  • (1)
  • (0)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 12
感想 : 1
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784805310267

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  1970年頃に女性初の東大教授となった中根千枝によって書かれた日本の社会、日本人の行動に関する本。さっき調べるとこれの講談社現代新書があるけど、これの英訳なんだろうか?しかもたぶん社会学?社会人類学?では有名な本なんだと思うけど、知らなかった。
     2020年が終わる、ってところでいつも年の瀬に読書のラストスパートをかけるのだけど、年始の紀伊国屋の洋書セールで買った本がまだいくつかあって、とりあえず読みかけのやつを読んだ。 
     日本人の「伝統的な」行動パターンについて述べている。この本で述べられている日本社会の「変化」、というのはそれこそ戦後に起こった「変化」のことであって、とてもじゃないけど21世紀に起こっている変化のことではない。ただこういう価値観は今でも大方の日本人の理解する「日本人の典型像」だから、そういうのを整理して知るのは意味のないことではないと思う。それに、面白い発見もある。
     いくつか面白かったところのメモ。まず"Japan gives less weight to kinship than do other societies, even England" (p.18)というところは意外。親族縁者の集まり、とか大事にするようなイメージがあったのだけど。そして"One's neighbor is of more importance than one's relatives."(p.19)なんだそうだ。でも、読んでいくと、確かに「村八分」の話とか、あと次男以降は家族から離れないといけないとか、そういう例で納得した。今の日本と全然違うよなあ、という感じ(田舎では今でもそうなんだろうか??)。あとは会社(特に大企業)は家族ぐるみで面倒を見る、という話で、例えば "employee's wives come into close contact with and are well informed about their husbands' activities. (中略)In an extreme case, a company may have a common grave for its employees"(p.25)って、なんて窮屈なんだろう。おれがいた前の組織では、プライベートの結婚、出産を全員の前で偉い人が発表して、みんなで拍手をするという儀式があったが、本当に違和感しか覚えなかった。あとは上座、下座とか座る位置すらも厳格に決められていて、これを時々若者が破ることはあるけれども、"But it is interesting to note that young people soon begin to follow the traditional order once they are employed, as they gradually realize the social cost that such infringement involves."(p.50)というのは、これは今でもそうだと思う。物を知らない若者と言われて、イジメられてしまいそう。そして先輩ー後輩の関係は学校でも厳しい、という話のところで、同じページに「山岳部」の例が出てくる(下級生が重い荷物を運びテントを用意している間、上級生はタバコを吸っている)が、この「体育会系」は今でもそうなんだろうか?この時代、高校でこれが行われるとニュースになりそうなんだけど、今でも例えば甲子園に出るような野球部とかってこんな感じなんだろうか?あとは日本人の上意下達がいかに徹底しているかという話で、旧日本軍の例が印象的。"A platoon that lost its organizational pivot by the death of its lieutenant easily degenerated into a disorganized mob, committing gross errors of judgement." (p.64)って、なんて情けないことなのか、と思ってしまう…。先に述べた家族ぐるみで、の話と関連するのが上司が部下に対して発揮するpaternalism(onj-shugi(p.86)とイタリックになっているが、これ日本語は何?)だが、これを表すものにringi-sei(p.87)というのがあって、"a kind of consensus system"と説明があるが、何だそれ?全然知らない。なので広辞苑で調べてみると「稟議制度」というのがあるらしい。説明を読んでも、分かったような分からないような…。普通過ぎて分からないのか?下の人が起草してみんなで同意したものを上の人が決定する?ってこと?だったらこれは確かに、今の職場では普通にあることなので…(ただ今の職場の場合はpaternalismの理念とは全く持って違う理由でこうなってるんだけど…)。それから、この本を読んでいる時に三菱UFJ銀行の頭取が、「現副頭取や専務を務めている13人を追い抜いて」55歳の半沢さんに決まった、というニュースがあったが、"It was a newsworthy event when a man was made the director of Japan Electric Company in his early fifties."(p.88)という、これと同じ事例、ということでいいんだろうか。あと英語の話。"Indeed, a subordinate often de facto carries the work of his leader, and in such a case he can extend his latent power over the entire group, while making use of his leader's name. He would benefit himself far more in this way than if he himself were to take over de jure leadership of the group,..." (p.89) の部分、de factoの反対はde jureというのを初めて知った。あと英文解釈でよく出てくるthan ifとか、あとこの本で何回も出てくるlatentという単語について、勉強になった。内容の話に戻って、「日本人は分業しない」という話。これはそうなんだろうか、と思っていたけど、"the Japanese in general hold fairly strong convictions that one man can do another's job whenever this be necessary." (p.104)というところでだんだん分かってきた。"Normally, in any such group there will be a very busy member and at the same time a man with little work to do, even though the two may receive the same amount of payment."(p.106)というところで、ものすごく納得。any such groupだから、ほんとおれがここまでいた組織だけじゃないんだろうなあということを実感。そして、ただこの否定的に捉えられがちな傾向が、"is now, interestingly enough, much more in line with the orientation taking place even in the United States, which puts a growing emphasis on "organization power" or "teamwork.""(p.109)だそうで、確かにパイロットの世界だったらTRMとかCRMとか聞いたことあるけど、そういうもののことなんだろうか。1970年の話だから、よく分からないのだけど。それから「居酒屋」の話が出てくるが、これはおれも現在形でこの文化に染まっている人なので、"Indeed, conversation over drinks has a significant function for Japanese men,..."(p.156)から始まる話は面白かった。ただここに書かれているような女将さんやホステスが云々ということはおれの場合は一切ないのだけれど。あと出身大学でその後の人生が決まるとか、いわゆる学歴社会の話も、たぶん今も結局そうなんだろう(大学受験が日本以上に厳しそうな韓国とかと比べるとどうなんだろう)。最後の章では、日本人の「群れる」ということについて、例えば旅の話は面白かった。"even on holiday trips, the Japanese surround themselves with friends or fellow workers, carrying with them their communal identity wherever they go. They rarely mix with the residents of the locality in which they travel, nor with others they encounter along the way." (p.168)だそうだ。ちょっと誇張されている感もあるかもしれないけど、やっぱりそうかもしれない。おれもこれだけ旅行好きなのに「一人旅」っていうのは一回しかしたことない。p.188の注16に書いてあるような旅館はさすがにこの時代はないだろうけど、今でも「お一人様」という言葉には揶揄のニュアンスが入っているかもしれないと思うと、この傾向が完全になくなっているわけではないのだろう。
     ということで、具体例の古さを差し引いても、今でも通用する日本人についての話であるし、英語の勉強にもなった。(20/12/28)

全1件中 1 - 1件を表示

中根千枝の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×