織田作之助: 生き、愛し、書いた

著者 :
  • 沖積舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (371ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784806070191

作品紹介・あらすじ

完璧な評伝、待望の復刊成る!!ここには大阪が生んだ無頼派、織田作之助の真の姿がある。『大阪学』の著者が渾身の力をふりしぼって描いた労作。

感想・レビュー・書評

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  • たぶん現在入手可能な唯一の織田作之助の伝記。その生い立ちから死までを克明に記述していて、迷ったけれど、やっぱりこれは「買い」でした。織田作の祖父や父母にまで遡って物語ははじまる。なんと織田家は織田信長の末裔だった!(びっくり)<br>
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    この「今はただの魚屋で長屋の貧乏暮らしやけど、先祖は侍で(しかも遠い祖先は織田信長で)、いい身分だったんや」というルーツや、彼の父母が長いこと籍を入れておらず、戸籍上は母親の私生児となっていたこと(作之助少年が中学にあがり、初めて両親は籍を入れ、鈴木作之助は織田作之助となる)などが、幼かった織田作之助の性格と後の彼の文学世界を形作るのに大きな影響を与えていると思う。いわゆる"庶民"と言われる人々の暮らし、大阪の下町の自由でたくましい風土、金持ちの子たちへの反発、強い自尊心。バカにされないために見栄を張っていた高いプライドは、やがて文学を志してから「東京」への反発と変わる。<br>
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    織田作之助という人は常に二つの相反する性格を見せていたようで、ある人たちにとっては、彼は繊細で心の優しい純粋な面のある人間であったけれど、またある人たちにとっては、彼は、鼻持ちならず、見栄っぱりで、人をバカにするイヤなヤツだった。初めて織田作に会った林芙美子は彼のその優しい心根を読み取り、「織田作って、愛すべき人ね」と目を細めたけれど、例えば、中学時代にはクラス中から嫌われ、"ボイコット"されていた。多くの同級生には生意気で嫌なヤツに映った。女性関係にしても、ただ一人だけ、三高時代からの恋人で後に妻になった女性だけを本当に心から愛したけれど、その一方で自尊心を満たすために(決して好きだからではなく)女たちを引っ掛け、あちこちで浮気をした。妻が死んだときは異様なほどの泣き声で一晩中号泣し、もう結婚はしないと誓ったが(事実、法律上はその後結婚することはなかったが)、それでも4ヶ月すると別の女性と暮らし始めた。だけど、彼の心の中には死ぬまで、妻だけが、ただ一人いた。妻の葬儀で「3年したら行くよってからに、待っててな」と語りかけ、そしてその通りになった。<br>
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    すごく複雑です。見栄っぱりで、ワガママで、嫉妬深く(自分のことは棚に上げて!)、大口叩きで、優しくて、ひねくれてて、純粋で、……。老成した視点で物事を見ながら、どこか大阪の下町で遊んでいた頃のままの無邪気な「作ちゃん」がいるような、そんな人だったんではないだろうかという印象を受けた。そして批評家たちに下品だとか汚いだとか散々罵倒されながら、彼は、とてもあったかい小説を書いた。織田作之助の小説の登場人物たちは、みな、愛さずにはいられないような人たちばかりじゃないか。

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