民主化の韓国政治―朴正煕と野党政治家たち 1961〜1979―

著者 :
  • 名古屋大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784815805722

作品紹介・あらすじ

野党政治家の挑戦と挫折、そして金泳三・金大中ら新しい世代の登場-歴史的成功事例といわれる韓国の民主化過程の苦難を、朴正煕政権期の徹底的見直しにより描出、民主化の成否を分けた前提条件を指し示し、脱植民地化過程の政治的困難をも捉えた刮目の政治分析。

感想・レビュー・書評

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  • 2011/12/06
    朴正熙=軍事独裁という単純化はやや乱暴で、少なくとも第三共和​国時代には(成功したかはともかく)「民主主義」による正統化を​図っていたのか。一方、強力な野党政治家の登場は、日本統治時代​の体制に関与していなかった金泳三と金大中という新世代を待たね​ばならなかったという指摘も興味深い。
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    2008/05/24
    珍しい硬派の韓国政治研究書で、日本統治期から李承晩時代を扱っていた筆者の以前の著作に続く本だ。内容はクーデタと民主化の理論的枠組、61年のクーデタとそれに続く第三共和国の政治動向を、野党政治家を主に論じているところ、タイトルがそぐわない。韓国政治の「民主化」過程を描いたというよりは、クーデタの正統化努力や野党内政争が本書の主眼であるため。むしろ、英語タイトルのThe Precondition of Korean Democratizationの方がふさわしい。ただそれにしても、政治家たちの生い立ちにもかなりの紙幅を割き、また71年「維新」以降はほとんど触れられていないため、タイトルも第三共和国に絞った方がより適格だったか。
    ・61年クーデタは「旧政治人」を一掃するという点で当時の知識人と共通項を持っており、また第三共和国では野党にも一定の政治空間があったのだから、この時代は必ずしも朴正煕の一般的イメージである「軍事独裁」ではない。野党に魅力がなかったことも一つの原因だろう。それにしても50~60年代の政党の離合集散は激しいこと。
    ・日韓国交正常化反対の学生デモは、当初は「屈辱外交」排斥を掲げていても、やがて政権の正統性への挑戦へと変化していった。政権は日韓会談によりナショナリズムと正統性を失い、「正統性を失った『民主主義』によって選ばれた政府に対し、ナショナリズムにより後押しされた学生運動が対峙する、『民主主義』とナショナリズムの分裂」と述べている。こういった幅広い文脈で見る必要があるというのがわかった。
    ・三金が揃ってこの時代から一線に出てくる。既に一線の政治家が30年後に大統領、というのは日本の感覚では考えにくいけど、61年クーデタ当時35歳のJPをはじめ、60年代に既に若手が出て来やすかったのか。また72年~87年は軍事独裁が続き、60年代の政治家に続く者がいなかったのか。

  • 【配架場所】 図書館1F 312.21/KIM

  • ぞくぞくするほど面白い本だった。ごくごく簡単なまとめと感想。四月革命で李承晩を退陣に追い込み成立した暫定政権下での憲法改正では議院内閣制を採用することで民主主義を実現しようとしたが、第六共和国として現在に至る87年の民主化は第五共和国の大統領間接選挙制を直接選挙制に変更したもののそれは憲法上の文面では61年クーデタを経て政権を奪取した朴正煕の第三共和国に似て強い権限を持つ大統領の国民による直接選挙だった。つまり、60年から87年の間に国民が考える理想の‘民主主義’、韓国人の‘民主主義’に対する認識が変化したと言え、それはどういうことなのか、ということを明らかにするために第三共和国体制の与野党政治家、反体制運動を中心に追っている。本論でかなり込み入った複雑で詳細な野党内の勢力動向に読者は迷い込むだろうが、上記のように強い問いを設定しているため何を知ろうとしているのか見失わずに済む。この問いに対する著者の答えをあえて一言にまとめるとしたら次のよう。朴正煕による軍事クーデタからなし崩し的に成立した第三共和国に終止符を打ち、朴正煕による本格的な独裁体制を敷くための維新クーデタが、皮肉にも「野党がそれまで最も苦労してきた、既存の体制への対案をめぐる問題を一挙に解決することとなった。つまり、民主化とは「大統領直接選挙制」実現のことであり、それはすなわち「維新クーデタ」以前の体制に戻ることを意味していた」。しかしおそらく本書で最も重要なのはこの答えではなく、見るべきところは、それまで大きく二つに分裂していた野党が、維新クーデタ後、対政権「強硬派」が力を得て穏健派を押さえ、維新体制を反動にして自分たちの立ち居地を定めるまでのその20年間のプロセスを追うことだと思う。四月革命、61年のクーデタ後の民政移管期、日韓国交正常化反対運動といった重要なイベントを経ながら、その間の大統領選挙、国会議員選挙で、野党がまとまりさえすれば政権奪取をする可能性があったにもかかわらず、なぜそうすることができなかったのか、なぜ穏健派、強硬派などに分裂して朴正煕に対抗して自らの正統性を武器に勝ちに行くことができなかったのか。尹潽善、柳珍山、兪鎮午というキーパーソンとなる旧世代の野党指導者たちを彼らの生い立ちと時代が形成した思想的背景に踏み込んで描き、そして日帝からも権威主義的な前政権からも軍事政権からも汚されない「潔白な」政治家でいることが困難だった「元インサイダー」として彼らの矛盾、撞着、次第に行き場を失っていく様子を描く一方で、維新クーデタ後に活発となる民主化運動の旗手である金泳三、金大中たちが、古い野党指導者とどのように違うのか、「アメリカ的な民主主義の影響を受けながら育ってきた」彼らが穏健派から強硬路線に転換しながら民主化闘争に突き進んでいったその成り行きで締めくくっている。私の読み込み、勉強不足だろうが、一度は求められた議員内閣制がなぜ選択肢としても考えられなかったのかというところは、それでもスッキリしないところもあった。しかしとにかく素晴らしく生き生きした本だった。 

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著者プロフィール

神戸大学大学院国際協力研究科教授

「2022年 『誤解しないための日韓関係講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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