萱草に寄す (愛蔵版詩集シリーズ)

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  • 日本図書センター
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784820518600

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  • 立原道造が生前に自ら編んだ詩集は
    『萱草に寄す』風信子叢書第壱編 
           自家版、昭和12年5月刊
    『暁と夕の詩』風信子叢書第弐編
           四季社版、昭和12年12月刊
    以上の2巻。
    その後、立原はおなじ風信子叢書の1つとした『優しき歌』という表題の下に、それに次ぐべき詩集を構想していた。
    しかし立原は昭和14年3月29日、結核による病状急変により24歳8カ月という若さで永眠。
    第1回中原中也賞受賞が決定した(2月13日)、約1カ月後のことである。
    戦後昭和22年3月、『優しき歌』は堀辰雄が中村真一郎ほかの意見をいれ、立原の構想を想定しながら構成した。

    立原道造の詩は抒情的だ。
    ふとした拍子に途切れてしまいそうなほどの繊細なピアノの旋律のよう。けれども決して途切れることのない凛とした強さが根底には流れている。
    彼は歳を取ることもなく、若く美しいまま、風となって星となって、この世界では見ることのできない夢の中を駆け抜けていった。
    わたしにとって立原道造はそんな気持ちにさせられる詩人だった。


    「のちのおもひに」

    夢はいつもかへって行つた 山の麓のさびしい村に
    水引草に風が立ち
    草ひばりのうたひやまない
    しづまりかへつた午さがりの林道を

    うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた
    ──そして私は
    見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
    だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……

    夢は そのさきには もうゆかない
    なにもかも 忘れ果てようとおもひ
    忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには

    夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう
    そして それは戸をあけて 寂寥のなかに
    星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう

  • 淡々と紡がれる情景をうつす言葉が
    これほど美しいと思った事はない。

    心にさす影や、よぎる不安
    静かな不快感、そして穏やかな感覚。

    彼の視界から覗く景色は繊細で、

    普段ひとことで表してしまう感情が
    あまりにも陳腐に思えてしまう。

    今も昔も、私の1番大切な本。

  • 作品が風のように、川のように私の中を通り過ぎて、不思議なくらい印象に残らなかった。私にとって自然で心地良い言葉たち。享年25歳ということもあってか全体的に若い印象。「夢みたものは…」「逝く昼の歌」「旅人の夜の歌」「風に寄せて」に特に惹かれた。

  • 夢見たものはひとつの愛・・・。ロマンチックでせつない詩たちは、若くして亡くなった人の人生そのものを投影しているような。

  • 楽譜を模した判型がとってもかわいい本。道造詩の奥深く、すべては消え去るものであるという諦観からくる透明な美しさを思えば、「いまここ」にしか存在することのない性質を持った「音楽」という芸術の形を借りたこのかたちは、とってもただしいもののように感じました。

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著者プロフィール

1914年、東京生まれ。先祖には水戸藩で『大日本史』を編纂した儒家の立原翠軒がいる。旧制一高から東京帝国大学建築科に進んだ。13歳ころから短歌や詩を書きはじめ、高校では手製の詩集「さふらん」を作成。大学では同人雑誌を創刊し、小説や短歌を発表した。学業でも在学中に辰野金吾賞を3回受賞するなど将来を嘱望された。37年に卒業し、建築士として建築事務所で働きながら詩作に打ち込む。堀辰雄、室生犀星に師事し、音楽的に構成された繊細な十四行詩型(ソネット)を作り出した。37年に第一詩集『萱草に寄す』、『暁と夕の詩』を刊行するが、同年秋から体調をこわし、39年3月に結核性肋膜炎のため24歳で死去。入院中に第1回の中原中也賞を受賞している。34年に訪れた信濃追分の風景を愛し、多くの詩の背景としている。作品は前期のほか、没後に堀辰雄が編纂した『優しき歌』が47年に刊行、全集は戦後、数回出されており、筑摩書房が全5巻の全集を刊行。

「2023年 『無伴奏混声合唱組曲 春が来たなら』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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