- Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
- / ISBN・EAN: 9784834017588
作品紹介・あらすじ
時は平安中期。年若い皇子・憲平は夜ごと現れる怨霊に怯えていた。偶然彼と知りあう少年・音羽は、故あって女童になりすまし下働きをする身。憲平に崇るのは一体何者か?死に至る運命から彼を救うことはできるのか?二人の少年の命を賭けた冒険に、老女官や怪僧阿闍梨、美少女夏君といった面々がからみ、息もつかせぬ物語が栄華の都のまん中に展開する。多感な世代に訴えるテーマ性を合わせ持つ骨太な作品、読みごたえ抜群!
感想・レビュー・書評
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あ~、面白かった!
終盤に近づくにつれ、ほっとしながらも「別れ」のような寂しさもこみ上げる。
もっともっとこの物語の世界に浸っていたいと、心からそう思った。
舞台は平安時代の中頃。藤原氏が絶大な権力をふるっていた時代で、実在した人物も登場する歴史ファンタジー。
ファンタジーといっても相手は「怨霊」。
「怨霊」の正体とは何なのだろうと長年思っていた私にとっては、胸にすとんと落ちてくるような納得感もあり、実に満足のいく一冊だった。
タイトルになっている「えんの松原」は、物語の中では「縁の松原」とか「怨の松原」とか表されているが、実際に「宴の松原」という名称の場所は存在したらしい。
平安京の大内裏の西側にあった松林で、怪談話も数多くあるミステリースポットなんだとか。
物語は、平安京とこの「えんの松原」との行き来で終始するが、狭く感じないのは平安京という大人の世界を、主人公である「音羽丸」という13歳の少年(訳あって女装しているが、その辺も読みどころ)の眼を通して語られるているという点だろう。
また、松林に棲む「怨霊」を語る上ではその祟りの出所が明らかにされるわけだが、藤原氏の繁栄と、相反する他の氏族の凋落、ひいては主人公の身の上などにもふれていくことに繋がり、その過去から現在への流れの展開が本当に上手いのだ。
「音羽丸」と身分を超えた友情を結ぶことになる「東宮・憲平」。
「音羽丸」の保護者的存在の「伴内侍」とのやり取り。じょじょに近づく距離感。
不気味な存在の「阿闍梨」。そうそう、ご存じ「安倍晴明」も一か所だけ登場する。
秀逸なのは、主人公である「音羽丸」が、常に人を思いやる優しさを忘れず、勇気をもって行動し、自らの運命を切り拓いていくところだ。
最後の別れの場面でも、この子はきっとままならない浮世をたくましく生きていくだろうと希望をもたせ、とても清々しい。
登録数もレビュー数もそんなに多くないが、読んで損のない一冊。
それにしても、京都御所ってどれほど広かったのだろう。
ネットで何度も見取り図を確認しながら読み進めるという、滅多にない楽しい読書体験だった。 -
宮中でも女しか入れない温明殿で、13歳の少年音羽丸は女の”音羽”として下働きをしている。音羽の面倒を見るのは、温明殿を取り仕切る老女の伴内侍だ。
その頃京都では怨霊が跋扈し、貴族たちの権力争いが繰り広げられていた。
当面の身の置きどころがなく、仕方なく女の格好などをして窮屈で表面的な宮中にいる音羽は辛抱の日々だ。
ある日音羽は東宮御所から抜け出た東宮の憲平(のりひら)と出会う。
音羽と年の近い憲平は、体も弱い自分が政治的理由で聡明な弟を抑えて強引に東宮として建てられたことを苦しく思っている。
さらに憲平は夜毎の怨霊に苦しめられていた。
憲平は女の格好をさせられているが力強い音羽に興味を示す。
音羽はある夜御所内の林「えんの松原」を通る。ここはかつて「怨の松原」とも呼ばれた怨霊の住まう場所だったが、伐採しようとするたびに事故が起きて何もできない場所だった。
そこで音羽は確かに感じたのだ、大きな黒い鳥の姿をした多くの怨霊、そしてその中でも自分と年の変わらないような少女の怨霊の声を。
そして窮屈な朝廷で閉じ込められるようにして守られ、夜毎の怨霊に苦しめられる憲平に離れがたい感情を持つ。
憲平のために怨霊と戦うという阿闍梨、そして厳しく冷たくも見えない優しさを示す伴内侍たちの話から、ついに音羽は怨霊の正体を掴む。
その正体は憲平を傷つけるだろうとは思ったが、だが知らされないことへの焦燥、正体不明の相手と戦わなければいけない苦しみよりはと、怨霊のことを憲平に告げるのだった。
なぜ宮中に怨霊の住まうような松原を作ったのだろう?怨霊は人を取り殺したらどこに行くのだろう?という疑問に、少年たちは「怨霊から逃げようとしても逃げられない。怨霊の場所亡くなってもそれはいなくなったわけではない。見えなくなっただけだ。それならいる場所があることは意味がある。今の世は怨霊となった人々の思いの上にできているのだと忘れないために」という答えを出す。
葛藤を乗り越えて、ある晩、音羽と憲平は怨霊の巣食う「えんの松原」へ向かう。
そして憲平は自分を呪い続けた怨霊に呼びかけるのだった…。
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「鬼の橋」の作者伊藤遊と挿絵画家大田大八による平安絵巻。
これが実に素晴らしい児童文学でした!
窮屈で身の置きどころのない少年二人が自分の場所を自分で作ろうという意思を持つまで、傷ついた相手の心に触れようとすること、そして怨霊となったものの想いを忘れないようにというテーマ。
祟るものと祟られるもの双方からの怨霊の概念の一つ答えとしても、二人の少年の成長記としても実に素晴らしい!!
登場人物たちも、厳しく冷たいようでその根底に覆うような情を持つ老女たち、東宮の前だろうが言いたいことははっきりいうという少女、怖くても女の子とのためには頑張ろうという少年、貧しくても幼いものをかばってできる限りのことをしようとするなど、それぞれがしっかり生きています。
史実にあてはめれば憲平は冷泉天皇になるが、奇行が多く、勢力争いも激化し、在位期間も短い。
それなら主人公二人の少年期の葛藤は一度区切りがつきましたが、きっとまた逢える、というその成長した後の活躍も読みたくなりました。(退位後とかどうでしょう…)-
淳水堂さん、こんにちは(^^♪
とうとう読まれたのですね!
いつもながら丁寧なレビューで、感動が伝わってきます。
「鬼の橋」同様、児童...淳水堂さん、こんにちは(^^♪
とうとう読まれたのですね!
いつもながら丁寧なレビューで、感動が伝わってきます。
「鬼の橋」同様、児童文学なんて枠を取り外してほしいくらいの名作だと思います。
私ももう一度読みたくなりました(^^;
また良い作品に出会ったらレビューしてくださいませ!2020/03/13 -
おお、こちらにコメントいただいていました!
10歳次男に読ませたのですが(コロナ休校中…)、怨霊の正体で「えええ〜!自分だなんて意外な...おお、こちらにコメントいただいていました!
10歳次男に読ませたのですが(コロナ休校中…)、怨霊の正体で「えええ〜!自分だなんて意外な展開!」とびっくりしていました。
こどにも大人にも楽しめるお話ですね。2020/03/13
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とーーーーってもおもしろかった!
怨みとは何なのかとてもよく考えられていた。
伴内侍がとてもいいキャラで、読み終わる頃には大好きになってしまった。 -
「時は平安中期。年若い皇子・憲平は夜ごと現れる怨霊に怯えていた。偶然彼と知りあう少年・音羽は、故あって女童になりすまし下働きをする身。憲平に崇るのは一体何者か?死に至る運命から彼を救うことはできるのか?二人の少年の命を賭けた冒険に、老女官や怪僧阿闍梨、美少女夏君といった面々がからみ、息もつかせぬ物語が栄華の都のまん中に展開する。多感な世代に訴えるテーマ性を合わせ持つ骨太な作品、読みごたえ抜群!」
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タイトルだけ知りつつ未読だった本。意外に古くなく、初版は2001年。本が好きな子なら小学校高学年から読むと思うが、多少の時代背景への知識も必要になる。何より古めかしい装丁が、子どもに手に取ってもらうにはハードルになっていると思う。惜しい。
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欧米的な善悪の価値観ではないところが、日本人の心にすっと入ってくるのではないでしょうか?読み終わったしみじみと余韻が残る作品雨の季節にぴったりの作品。読んだ後にしみじみと余韻が残ります。こういう作品を子どもたちにも手渡していきたいなぁ。
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装丁的に、なにやら難しい歴史系の児童書かな…古典とかかな…と思っていましたが正統派和物ファンタジーだった。
主人公は女装して内裏で働く少年で、東宮の少年とひょんなことから出会い…、とかイラストによってはもっと受けそうですよね!(どこにとは言いませんが)
伴内侍すき!びっくりするほどいい人だな~。
そして綾若もなにげに好きです。 -
とても児童向けとは思えない…
「物の怪」が当たり前に出てくる平安時代。
えんの松原に出る怨霊と若宮との関係を探る主人公少年。
京都行きたい…
伊藤遊さんの児童書は図書館でも存在感がありましたが、nejidon
さんレビューで読みました!
怨霊とはという意味でも、成長...
伊藤遊さんの児童書は図書館でも存在感がありましたが、nejidon
さんレビューで読みました!
怨霊とはという意味でも、成長ものとしても大変良い話でした。
今後もよろしくお願いします!