十一月の扉 (福音館創作童話シリーズ)

著者 :
  • 福音館書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834082944

作品紹介・あらすじ

双眼鏡の中に、その家はふいにあらわれた。十一月荘――偶然見つけた素敵な洋館で、爽子は2ヵ月間下宿生活を送ることになる。十一月荘をとりまく、個性的ながらもあたたかい大人たち、年下のルミちゃんとのふれあい、耿介への淡い恋心・・・・・・そして現実とシンクロする、もうひとつの秘密の物語。「迷うようなことがあっても、それが十一月なら前に進むの」。十一月の扉を開いた爽子を待ち受けていたのは・・・・・・

感想・レビュー・書評

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  • 双眼鏡から見た赤茶色の屋根の白い家。
    不意にあらわれたその家が気になって、爽子は自転車に飛び乗って探す。
    そこは、『十一月荘』と小さな看板がかかっていた。
    帰り道「文房具ラピス』に入り、目にとまった一冊のノートの表紙にはドードーの細密画が型押しされている。
    一月分の小遣いの金額なのに買った。

    転勤になった父について引っ越しすることになった爽子は、母にお願いして二学期が終わるまで『十一月荘』で下宿させてもらうことになる。
    今でいうシェアハウスのようなもので、60過ぎの家主の閑さんと建築士の苑子さん、馥子さんと娘のるみちゃんの女性ばかりが住んでいる。
    そのなかで、大人の女性と会話したり、るみちゃんと自分の作った物語で楽しんだり…。

    日常の何気ない生活のなかで、中学2年のたった2ヶ月で知るたくさんのことが、とても意味のあることのような気がした。
    ひとりだと物語を作ることもなかったかもしれない。
    母とは違う大人の女性と会話することも特別なことだと思う。
    心を揺るがす大きなことがあるわけでもないけれど
    なぜか温かくて可愛らしいと思える…。
    爽子の書く物語も特別で可愛らしい。

    十一月荘と名づけたことにも『十一月には扉を開け』という意味があって、十一月なら前に進む。前向きに受け入れようとなると…
    この意味づけにも何故か不思議さを感じて、閑さんのふんわりと柔らかな感じがいいなと思った。






  • 耳をすませば、荻原規子作品、さとうまきこ作品系統にピンと来る、児童文学をたくさん読んで育ってきた人たちに強くおすすめしたい本。

    たかどのほうこさんの大きい子向けの本を3冊読んだが、これが抜群に良かった。
    たかどのさんらしく、寒冷地を舞台に、中学生の爽子(そうこ)が、十一月荘という不思議で素敵な建物とその住人に惹かれて、一人で期間限定で下宿し、自分や家族に思いを馳せて、友人、近所の人、コウスケとのふれあいを経て、本を読み、物語を作ることで、自己の成長と未来を見つめていく。

    本書は、一種のファンタジーでもある。
    この世の場所とは思えないような世界に身を置き、自分を見つめ直し、またもとの世界に戻っていく主人公。
    そこにいる大人たちもまた、かつてはこの少女のように迷い悩んで大きくなった。
    大人になってからも、既存の人生観との付き合いに、苦心して、現在のところに行き着いた様子も語られている。
    大人になることへの、明るく力強いメッセージに救われる。


    思春期独特の重苦しさや、先の見えない不安、逆に周囲の憧れの大人たちの言動から得る励ましの言葉の持つ力を、「きちんと形にして、言葉で見せてくれる」力作。

    物語を作ることで、爽子が得ている癒し、没頭感、達成感や、現実とのリンクを楽しむ様子が快い。
    (私自身、偶然ながら11月の終わりにこの本を読み始め、エンディングたるクリスマスごろに読み終えた並走感を楽しめた。その昔、私が物語?を書いた時にも、物語が本当になったような、現実とのリンクを感じた瞬間があり、それが雷に撃たれたような衝撃だったこともこれを読んで思い出した…フフフフフ)

    爽子の描く物語は、「楽しい川辺」「くまのプーさん」にヒントを得たような雰囲気で、cv石井桃子とでも言おうか、見事に古風な岩波少年文庫の味があって、でも、たかどのさんらしいユーモアもあり、これはこれで素晴らしい一つの世界を作っている。物語を通じて、コウスケとも距離を縮めていく様子もいい。文房具への愛もいい。とにかく共感の嵐です。

    後半、のどかさんの、タイトル回収のエピソード、それを創作物語にも取り込み、さらにエンディングのピアノコンサートにも繋いでいくところは、この作品のクライマックスとして、これ以上ない、収まりの良い形で、読んでいてとても嬉しかった。

    母親にキツく当たる部分は苦しかったけど、母のことをひとりの人間として認めていくようになる流れは、手紙とそれに対する爽子の反応だけでうまく表現されていて、とても良い。

    おわりに、ラピスで偶然コウスケと会えた時、最後に言葉を交わして、「ありがとう。読ませてもらって。楽しかった」とコウスケが言い、爽子が「…ありがとう…読んでくれて…」と返すところで、こっちも涙が出てきた。よかったね。よかったね。

    コンサートの夜、コウスケが、本当に最後に、微笑みを交わすところもいい。

    創作に対する爽子の気持ち、大人になっていく自分への思いなど、アンダーラインを引きたいような箇所が何度もあった。

    たくさんの爽子と、爽子だった人たちにぜひ読んでもらいたい物語だ。
    (かくいう私は、『たのしい川辺』は未読。ガンバリマス)

  • 私が中学生の頃はもっともっと自己中で子供だったように思う。
    爽子ちゃんは優しくて強い女の子だなぁ。
    感情のコントロール、客観的に自分を見るところ、見習わなくては。
    とても素敵なお話だった。
    作中作のお話も。
    出会えて良かった。

  • すてきなお家の発見。そして下宿。個性豊かで気持ちの良い住人たちと隣人。雰囲気最高のお店でお気に入りのノート、お話づくり…
    もう書き出したら1度は憧れたことがぎゅっっっと詰まっている1冊で大変です、
    爽子ちゃんお話書くのじょうずだなあ。

  • 十一月の扉 高桜方子 福音館書店

    物語の中に物語が重複していると言う
    複雑なストーリと同時に
    通りすがりにもらったと言う
    ガラス玉に写るアーチ型の扉と
    そこに書かれたロシア語の文字〜
    清々しい展開を見せる童話であるが
    ひとつ気になるのは
    言い回しが丁寧で複雑すぎるのと
    造語や使い慣れない言葉が
    多すぎることに違和感を感じてしまう

    それにしても作家の名前を
    どう読むべきなのだろう

  • 「十一月には扉を開け」そんな月をわたしもひと月、見つけたいなと思った

  • 中学二年生の爽子は、自宅から覗いた双眼鏡の先に、何か心惹かれる赤い屋根の家を見つける。その後父の転勤のため急に引っ越すことになったが、二学期の途中であることを口実に、学期末の十二月までその赤い屋根の家「十一月荘」に下宿することになる。
    十一月荘の住人たちとそれを取り巻く人々とのゆるやかな日常を描く。

  • 双眼鏡をのぞくと不意に現れた、赤茶色の屋根の白い家「十一月荘」。爽子は、そこで2ヶ月間の下宿生活を送りながら、お気に入りのノートに物語を綴っていく。十一月荘の素敵な住人との会話が心地よく、会話や物語創作を通して、爽子が自分の抱くさまざまな思いを発見していく様子も面白い。誰かと話すことの意味、物語を書く意味について考えさせられる物語だった。

    「十一月には扉を開け」という閑さんの言葉が印象的だった。振り返ると、爽子は十一月に扉を開いたからこそ、素敵な出会いを得て、書く喜びを知り、自分の思いを深く見つめて、新たな一歩を踏み出せたんだなあ。

  • 一行目:その家は、不意にあらわれた。

    何かで紹介されていて、表紙に一目惚れ。
    児童書だけど、大人向き。読むタイミングにもよると思うけど、私には刺さったなぁ〜良かった。
    新潮文庫版などもあるようで、納得。

    十一月荘に暮らす女性たちは、大人のはずなのに時々子どもにも見えるというか、主人公の爽子とひそひそ話をする場面なんて、女子学生同士の雰囲気。
    決して爽子を子ども扱いしない。

    女性同士、こんなふうには暮らせないよね、と現実的にもなるけど、いやひょっとしたらこんなふうにうまくいくんじゃないか、なんて夢をみたくなる。
    苑子さんと爽子の会話もとてもいい。

    以下、印象的な場面。

    「爽子はぐうっと伸びをしながら、
    「ああ、あたし、何だかすごく自由だ!」と声に出して言わずにいられなかった。ありもしなかったものを、自分の力で、目に見えるようにしたことの満足感は、自由を得た解放感にも似ていた。」
     
    「十一月荘に来てから本当によく紅茶を飲む。何と言っても、一人きりになるときの気分が、家とはまるで違うせいだろう。住人たちと、どんなに親しくしゃべったとしても、ここではきっぱりと一人になる。そんな時にはぜひとも熱い紅茶が飲みたいのだ。」

    「他人に対しては、礼儀正しく振る舞うことができるのに、母親となると、きゅうに邪険な気持ちが沸きおこるのは、今に始まったことではなかった。」

  • 「双眼鏡の中に、その家はふいにあらわれた。十一月荘――偶然見つけた素敵な洋館で、爽子は2ヵ月間下宿生活を送ることになる。十一月荘をとりまく、個性的ながらもあたたかい大人たち、年下のルミちゃんとのふれあい、耿介への淡い恋心・・・・・・そして現実とシンクロする、もうひとつの秘密の物語。「迷うようなことがあっても、それが十一月なら前に進むの」。十一月の扉を開いた爽子を待ち受けていたのは・・・・・・」

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著者プロフィール

高楼方子 函館市生まれ。絵本に『まあちゃんのながいかみ』(福音館書店)「つんつくせんせい」シリーズ(フレーベル館)など。幼年童話に『みどりいろのたね』(福音館書店)、低・中学年向きの作品に、『ねこが見た話』『おーばあちゃんはきらきら』(以上福音館書店)『紳士とオバケ氏』(フレーベル館)『ルゥルゥおはなしして』(岩波書店)「へんてこもり」シリーズ(偕成社)など。高学年向きの作品に『時計坂の家』『十一月の扉』『ココの詩』『緑の模様画』(以上福音館書店)『リリコは眠れない』(あかね書房)『街角には物語が.....』(偕成社)など。翻訳に『小公女』(福音館書店)、エッセイに『記憶の小瓶』(クレヨンハウス)『老嬢物語』(偕成社)がある。『いたずらおばあさん』(フレーベル館)で路傍の石幼少年文学賞、『キロコちゃんとみどりのくつ』(あかね書房)で児童福祉文化賞、『十一月の扉』『おともださにナリマ小』(フレーベル館)で産経児童出版文化賞、『わたしたちの帽子』(フレーベル館)で赤い鳥文学賞・小学館児童出版文化賞を受賞。札幌市在住。

「2021年 『黄色い夏の日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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