パタゴニア

  • めるくまーる
3.70
  • (9)
  • (11)
  • (19)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 153
感想 : 10
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784839700966

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 再読。といっても10年以上振りなので大方忘れていた。パタゴニアの地図を辿りながら読み進める数々のエピソードがとても新鮮で、前読の時よりずっと堪能することができたと思う。この土地に流れ着く者はみなアウトローで定住を嫌い反骨の魂を宿している。血なまぐさい歴史に荒涼とした景色は叙情となって響いてくる。しかしチャトウィンの文章は過剰な感情を切り捨て、装飾ない簡潔な切り口で綴られている。だから尚更一文一文をじっくり味わい咀嚼しながら深みのある読書を体験できた。

  • <a href="http://www.yurindo.co.jp/yurin/back/yurin_480/yurin2.html">有鄰 No.480 P2 座談会:世界文学をどう読むか?河出書房新社『世界文学全集』刊行にちなんで? (2)</a>より。

  • パタゴニアの風景の中を一つの人生二つの人生と次から次へ彷徨いながら旅していく.祖母の宝物だった恐竜の皮への憧れからパタゴニアへの旅は始まる.ウェールズ人スコットランド人,ドイツ人たちと出会い,ユニコーン,ギャング,探検家,アナーキストなどへ話題が広がりミロドンへと空想と妄想の世界もそれに続いていく.旅の本としては一風変わっているが素晴らしい.

  • 11/7 読了。
    パタゴニアとは南米大陸のコロラド川以南を指す。ヨーロッパからの移民が最後に辿り着く何もない土地、ダーウィンに古代生物が今でも生きていると思わせた土地。チャトウィンは船乗りだった祖母の従兄弟がかつてパタゴニアで見つけたというブロントサウルスの皮をきっかけに、パタゴニアという土地に惹かれはじめる。その後その皮はブロントサウルスではなく巨大なナマケモノのものであることが発覚するのだが、チャトウィンのなかでパタゴニアの魅力は薄れず、遂に身一つでその土地を訪れて書いたのがこの紀行文。荒涼とした土地にもともと住んでいたインディオの人びとの生活、スコットランドやアイルランドからの移民たちの言葉、かつてパタゴニアを訪れた人びとの記録、その記録から生まれ出た文芸作品(シェイクスピア「テンペスト」など)などを断章にし、自由な連想で繋ぎあわせることで、つぎはぎ姿のパタゴニアが浮かび上がってくる。
    紀行文というジャンルへの切り込み方、文体の品の良さ、漂ってくるユーモア、茶目っ気、なんだかんだ言ってインテリ、などの要素が有機的に作用しあってすごく魅力的な本になっている。旅のお供にポケットにサッと忍ばせておきたい一冊なので文庫化しないかなぁ。

  • 祖母の家にあった古生物の毛皮から導かれるように始まった南アメリカの旅を語った紀行文。
    パタゴニアとは南アメリカのコロラド川より南の地域のことです。

    著者の博識な知識が旅で見聞きしたエピソードと相まってこの世界の広さを教えてくれます。

    嗚呼、書を捨て旅に出よう。。

  • 「事実は小説よりも奇なり」というが、実際のところ、事実の奇なること、小説なんかの比ではない。そういう意味では、世界は奇譚の宝庫である。知られざる世界を旅して歩き、人に会い、見たことや聞いた話を物語る紀行文というスタイルは、人間世界のできごとに精通している者にとって、その蘊蓄を披瀝するには、うってつけの方法といえるだろう。

    とはいえ、何を面白いと感じるかは人によってちがう。同じ場所に行き、同じ物を見ても見る側に見る力が備わっていなければ、世界は、何も物語ってはくれない。パタゴニアのような地の果てを旅したところで、ただただ続く、茫漠たる風景や、波形鉄板に覆われた家の中で、過酷な自然と対峙し、単調な生活に倦んでいる人々について書いただけでは、単なる紀行文でしかない。現に本作においても、筆者の出会う現実の人々は、筆者の物語る歴史上の人物に比べれば著しく生彩を欠いている。否、むしろわざとそう描かれているかのようなのだ。

    『パタゴニア』を紀行文と読んでもいいものだろうか。たしかに、チャトウィンは、リオネグロに始まりプンタアレナスに終わる南米の大地パタゴニアを南下する。しかし、その旅は文章のなかで逸脱を繰り返す。まるで歌枕を訪ねて歩く旅の途次、土地の精霊に捕らわれたかのように、ある時は、若きアナーキストに寄り添い、その人生の終わりを見届け、またある時は商船の船長となって、マゼラン海峡を漂流する。

    たとえば、チリ国境に近いアルゼンチンのチョリアという町では、ワイルドバンチ強盗団のブッチ・キャシディこと、ロバート・リーロイ・パーカーについて彼は語り始める。映画では、ボリビアで死んだことになっている二人のならず者が、ここパタゴニアで、別の名を名乗り、あの美しい教師上がりの情婦エッタ・プレイスと共に生きのびていたという後日談を(映画『明日に向って撃て』で、B・J・トーマスの歌う「雨にぬれても」をバックにポール・ニューマンがキャサリン・ロスを乗せて自転車で走るところを思い出した。チャトウィンもまた見ていたのだろうか)。

    或いはまた、マゼラン海峡では北西航路探検で知られるジョン・デーヴィスの二万羽に及ぶペンギン殺しと、そのおぞましい経緯を。しかし、話はそれで終わらない。この経験を綴った『ジョン・デービスの南洋航海』が、コールリッジの『老水夫行』にインスピレーションを与えたことや、『マゼラン航海記』に描かれた巨人の捕縛がシェイクスピア『テンペスト』に登場する半獣人キャリバンに投影されていることなど、チャトウィンの博覧強記ぶりはとどまるところを知らない。

    ポオの『アーサーゴードン・ピムの冒険』や、コナン・ドイルの『失われた世界』のタネがパタゴニアにあったことを、この本によってよって初めて知った。ことは、文学だけにとどまらない。本文中にも登場する、著者の祖母のいとこチャーリー・ミルワード船長から祖母に送られたミロドン(巨大なナマケモノ)の皮に始まる考古学上の発見やインディオの言葉ヤーガン語の辞書と話は尽きない。まことに、パタゴニアはよき語り部を得た。

    博引旁証を得意とし、奇譚を好み、ガウチョやインディオの演じる血腥い話を顔色を変えずに語りきる筆力はボルヘスを思わせるが、チャトウィンの『パタゴニア』が他の凡百の紀行文と趣を異にするのは、単に知識の博覧強記ぶりにあるのではない。奇譚と思われる話にうかうか聞き入っていると、いつの間にか素顔のチャトウィンがぬっと現れ、奇譚の中に生身の筆者が分け入ることで現実の奇なることがあらためて真実性を帯びるという極めて巧妙な仕掛けを持つことにある。しかも、一つの話はそれだけで終わらず、隠れ河のように、ひとまずは表面上から消えながら、ずっと先で別の話に繋がる「輪舞」的構造を持ち、物語は円環的構造の裡に閉じられるのである。

    これが処女作というのが信じられない円熟した作風に、夭折者だけが持つことのできる運命的な輝きのようなものが見える。遺された数少ない作品はいまだに愛読者を増やし続けている。以て瞑すべしと言うほかはない。

  • 幼い頃に祖母の家のガラス棚の中で見た一片の毛皮。それは、パタゴニアで発見され送られたものだという。送り主は祖母のいとこのチャーリー・ミルワード。チャトウィンのパタゴニアの旅のルーツはここから始まるようだ。30歳を過ぎてから、初めて彼はパタゴニアを訪れる。目的は幼い頃見た毛皮と同じものを手に入れることだったようだ。ただ、それだけにフォーカスしてパタゴニアを巡っているのではなく、その土地にまつわる物語であったり、逸話も追いながら町から町へ移動し、人や場所を訪ねて、考察している。とてもパタゴニアの歴史に精通しているというか、かなり研究している。こういう旅もありだなあと思う。チャトウィンに憧れてぼくもモレスキンノートブックを使おうと思ったけど、ものすごく高くてもう少しレベル上げてからにしようと思う。およそ人は自分が何者であるか知らないまま育つという。チャトウィンは30を過ぎて、深いところから湧く移動の衝動が自分がノマドの末裔であると知って旅と共に生きるようになったようだ。ぼくはいつ何者であると知るのだろう。知る時は来るのだろうか。

  • 英紀行作家チャトウィンのデビュー作。南米パタゴニアの旅行記。

    池澤夏樹氏は読書日記「ブルース・チャトウィンを紹介する」(初出:週刊文春「私の読書日記」1999年11月15日)の中で、「こうやってみるともっともっと読まれていい作家」と評しています。
    http://www.impala.jp/bookclub/html/dinfo/10118608.html

    チャトウィンはそのパタゴニアを南下するしていくのですが、そのきっかけとなったことが大変ユニークです。それは彼の幼少時代にさかのぼります。

    祖母の家には従兄弟で船長だった人物がパタゴニアから持ち帰ったという動物の革が飾られていました。それは恐竜プロントサウルスの皮の一部と教えられ、強い興味を抱きます。

    祖母が亡くなったときに、譲り受けることを密かに狙っていたのですが、ゴミといっしょにあっさりと捨てられてしまいます。結局、それは太古の恐竜のものであるわけはなく、ナマケモノの一種で、現在は絶滅種のミロドンだと分かります。

    彼は、その皮が見つかった最南端の町を目指していきます。

    彼は強風が吹く”風の国”で、さまざまな人たちと出会います。インディオ、入植してきた白人。そこに歴史的なエピソードと、彼の考察が挿入されていきます。

    映画「明日に向かって撃て!」のブッチ・キャシディ&サンダンス・キッド、進化論のダーウィン、冒険家マゼラン・・・といった世界的に有名なものから、ボクにはなじみのないものまで。
     
    話は次々に飛んでいきます。ひとつひとつのエピソードはつながっているのか、どうかは微妙。彼は思いつきと飛躍の名人です。

    それに戸惑いながらも、読み進めていくと、混沌としたパタゴニアの大地が少しだけ見えてくる気がしました。一度、読み終えると、もう一回読み直してみたくなる。

  • パタゴニアとはチリとアルゼンチンにまたがる南緯40度以南の地域を指す。

    子供の頃、家に送られてきた断片的な動物の毛皮。
    パタゴニアで発見されたプロントサウルスの皮と称して
    送られてきたが、実は絶滅した大型のナマケモノの皮膚であった。

    パタゴニアに不思議な磁場を感じ、旅にでるチャトウイン。彼は考古学的な関心を持って、パタゴニアに眠る様々な物語を呼び起こしていく。海外に逃亡したブッチ・キャシディ・社会主義にかぶれたアナーキスト達

    チャトウインは1つ、1つの物語を辿りながら、パタゴニアをひとりの人物の様に浮き彫りにさせる。

    祭りの後の様相を呈したパタゴニアには荒涼感、哀愁がつきまとう。考古的な旅本として重厚感を持つ本作は、マスターキートンの様に物語発掘的な意味で良作。

  • ブルース・チャトウィン。きっかけは車屋で手に取った雑誌でしかもモールスキンのメモ帳の広告記事から。なのに読み始めると嵌ってしまった。

全10件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1940年イングランド生まれ。美術品鑑定や記者として働いたのち、77年本書を発表し、20世紀後半の新しい紀行文として高い評価を得る。ほかに『ソングライン』『ウィダの総督』『ウッツ男爵』など。

「2017年 『パタゴニア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ブルース・チャトウィンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×