防犯カメラによる冤罪

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  • 緑風出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (132ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784846114152

作品紹介・あらすじ

防犯カメラによる刑事事件の証拠が増えている。なかでも注目すべきは、1人の鑑定人で、年間120〜150件の鑑定書を作成し、刑事犯をさばいていく。しかし、舞鶴女子高生殺害事件、南風原強盗事件、さらに法政大学器物破損事件で鑑定書が冤罪事件を引き起こして、問題となっている。本書では、画像が読み解く真実をテーマに、特に刑事事件でその冤罪を取り上げて、その原因と機構を明らかにした。

感想・レビュー・書評

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  • 防犯カメラを証拠とした冤罪の例を紹介する書籍である。本書は日本の冤罪について以下のように指摘する。「袴田事件を筆頭に多くの刑事事件が冤罪を生んでいる。おそらく、全容疑者の三分の一は冤罪といってよいだろう。多くは、証拠不十分のまま、犯人にされている」(7頁)

    警察や検察が防犯カメラの不鮮明な映像を根拠に見込み捜査で誤った人を起訴し、無罪判決を言い渡された例が起きている。冤罪被害者らは「都合の良いほんの一部だけを抜き出して、こじつけられた」などと怒りを口にする(「冤罪を生む「防犯カメラ」、憤る冤罪被害者「都合良く抜き出され、こじつけられた」」弁護士ドットコムNEWS 2017年11月16日)。

    長野地裁松本支部は2013年3月19日、塩尻市内のコインランドリーでの女性の下着などの窃盗事件で無罪判決を言い渡した。検察側が証拠としたコインランドリー内の防犯カメラの静止画像に写った男と、男性の顔の比較箇所が限られ、「犯人性の根拠となり得ない」と指摘した。証拠提出された画像は、防犯カメラの動画を捜査員がデジタルカメラで撮影した計5枚。

    判決後に釈放された男性は取材に対し、逮捕前の任意の取り調べ段階から公判まで一貫して犯行を否認したと説明。「(無罪判決の)喜びより警察や検察への怒りが強い。逮捕をきっかけに職も失い人生を台無しにされた」と話した。

    塩尻署員からは「周辺に聞き込みをして(自宅に)住めなくしてやる」「やっていないという妄想をしているだけ」と言われたとする。担当弁護人は「客観的事実を重視するという基本原則に基づいた判断を捜査段階でしていれば、こうはならなかった」と検察側を批判した(「塩尻の窃盗で無罪判決 防犯カメラ画像証拠となり得ず」信濃毎日新聞2013年3月20日)。

    大阪地裁堺支部は2018年9月18日、宝くじ売り場で現金を奪うため女性販売員を殴りけがをさせたとして、強盗傷害罪に問われたブラジル国籍の女性(37)の裁判員裁判で、無罪判決を言い渡した。「被告人が犯人と同一とは認められない」とする(「「防犯カメラ不鮮明」 強盗傷害、ブラジル女性に 大阪地裁堺支部判決」毎日新聞2018年9月19日)。

    東京地裁は2018年10月4日、強盗致傷などの裁判員裁判で無罪判決を言い渡した。西野吾一裁判長は女性宅付近などの防犯カメラに写った人物を犯人と認定。外見やしぐさの特徴に類似点を認める一方、「映像などは不鮮明で、被告と極めて似ているとまでは評価できない」とした(「強盗致傷事件で無罪判決 映像不鮮明、「犯人認定には合理的な疑い残る」 東京地裁」産経新聞2018年10月4日)。

    「誤認逮捕された人を取材してみると、本当に皆さん、普通の一般の方なので、たとえ釈放されたとしても、精神的な負担がかかったり、なので今も病院に通ったりですとか、仕事を休みがちだという人もいて、本当に深刻な事態だと感じましたし、誤って逮捕してしまうというと、本当に取り返しのつかないダメージを与えてしまうということを感じました」(NHKクローズアップ現代「防犯カメラの落とし穴 相次ぐ誤認逮捕」2014年10月14日)

    防犯カメラそのものというよりも防犯カメラの恣意的な利用が冤罪を起こす。逆に防犯カメラを確認しないことによる冤罪も起きている。警視庁池袋署は2022年3月20日、防犯カメラの映像を怠り、30代のベトナム人男性を暴行容疑で誤認逮捕した(「警視庁、ベトナム人男性を誤認逮捕 暴行容疑、防犯カメラ確認せず」朝日新聞2022年3月21日)。

    冤罪を追及するテレビドラマ『99.9-刑事専門弁護士』でも防犯カメラの映像が無罪の決め手になることが多かった。防犯カメラには監視社会というマイナスイメージがある。しかし、市民のために使えば力を発揮する。市民が情報を使えるように情報開示の徹底というアプローチが成り立つ。実際、冤罪に取り組む運動からは検察の保有する全証拠の開示が要求されている。

  • 読み直したさ:★☆☆(図)
    収差,解像度,顔認証等。テレビドラマで鮮明なものと思わされてきた防犯カメラのイメージが大きく変わった。
    〈感想〉
    全体的に皮肉のきいた文章で,面白く読める。写真が多く盛り込まれているので,具体的にイメージしつつ読めるし,また一時間程度あれば読み通すことができる。

  • 防犯カメラは抑止力になる。
    ここまでいろいろと捉えられているのは、安心感はあるが、どうにもこうにもプライバシーの問題と紙一重。

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著者プロフィール

小川 進(オガワ ススム)
神戸大学大学院経営学研究科教授、MITリサーチ・アフィリエイト
1964年兵庫県生まれ。87年神戸大学経営学部卒業、98年マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院にてPh.D.取得。2003年より現職。研究領域は、イノベーション、経営戦略、マーケティング。
主な著作に『イノベーションの発生論理』『はじめてのマーケティング』(ともに千倉書房)、『競争的共創論』(白桃書房)、『ユーザーイノベーション』(東洋経済新報社)がある。
英語論文では、フランク・ピラーとの共著“Reducing the Risks of New Product Development”やエリック・フォン・ヒッペルらとの共著“The Age of the Consumer-Innovator”(ともにMIT Sloan Management Review掲載)などがあり、ユーザーイノベーション研究では世界的な評価を得ている。組織学会高宮晋賞(2001年)、吉田秀雄賞(2011年、準賞)、高橋亀吉記念賞(2012年、優秀作)などを受賞。

「2020年 『QRコードの奇跡』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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