海のふた

  • ロッキング・オン
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  • Amazon.co.jp ・本 (187ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784860520373

作品紹介・あらすじ

第二の故郷と言える西伊豆・土肥へのよしもとばななの恩返し。版画家・名嘉睦稔との初のコラボレーションにして、初の新聞連載小説、遂に単行本化。

感想・レビュー・書評

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  • お金はありすぎても困る 自由になるためにお金を使う

  • 奄美大島の、この本のモデルとなったかき氷やさんに行った。
    店の窓からは海が見えて、人は誰もいなくて、音楽もなく、ただシンプルな空間。木陰のような木でできた建物があって、おいしいカレーを食べて、ぼんやり過ごす。贅沢すぎる時間だった。

    「夢をかなえる」ことは、キラキラだらけではなくて毎日はいたって地味なものだ。だけど、一瞬でも、ああ幸せだな、と思える瞬間がある。それで十分幸せなのだと思う。
    お金、お金、お金。
    どのくらいのお金が、一体必要なのだろう。
    ただ、一日のことを一日分だけする暮らし。
    ものにこだわらないで、今日一日に感謝して寝て、人らしく居る。

    ――――――――――

    私のできることは、私の小さな花壇をよく世話して花で満たしておくことができるという程度のことだ。私の思想で世界を変えることなんかじゃない。ただ生まれて死んでいくまでの間を、気持ちよく、おてんとうさまに恥ずかしくなく、石の裏にも、木の陰にも宿っている精霊たちの言葉を聞くことができるような自分でいること。この世が作った美しいものを、まっすぐな目で見つめたまま、目をそらすようなことに手を染めず、死ぬことができるように暮らすだけのこと。

    「ものにこだわらないで、今日一日に感謝して寝れば、どこにいても人は人でいられる。
    だから、私はどこに流れてもいいんだ。そこでいいふうにしていくから、そしてどんどん思い出を作り続ける。それで、死ぬときは。持ちきれない花束みたいなきれいなものを持っていくの。」

  • 「解決ってほんとうにおもしろくて、ちょうど”これはもうだめかも”と思った頃に必ず訪れる。”絶対になんとかなるだろう”と思うことをやめず、工夫し続ければ、なんだか全然別のところからふと、ばかみたいな形でやってくるものみたいだ」
    「意図して、誇り高く、地味な努力をして、あれこれ頭を使って工夫をしたら、実現するのだ。この世に、これまで影も形もなかった何かを出現させて、それを続けることができるのだ」

    自分のちゃんと好きになった物だけを置く店。自分が納得したものだけを出す店。

  • い図。
    ◆引用
    p86...私にとっては厳しい母だったし、頑固で融通がきかないけれど、人の悪口を言わないところが好きだった。みんな近所の人は、うちの家族はいい人ばっかりだと言うが、そんなことはない、意地悪もすれば欲もある、ただ人として普通なだけなのだ。「人はみんな痛い思いや怖い思いをしたくない、幸せを感じたい、そういうものだから。」母はよく私にそう言った。「だから誰かがそういうふうになりそうなことには、決して手を貸してはいけない。」
    p104...「なーんだ、それはそうでしょう、私にはわかるよ。」
    私は言った。
    「なにそれ?」
    はじめちゃんはこっちをまっすぐ見て言った。ちょっと怒りだしそうな目をしていたけれど、私はかまわずに続けた。
    「だって、フルートのすごくうまい人がそれで人をひきつけるように、手先がすごく器用な人がもてるように、巨乳が人気あるように、そこがはじめちゃんのよさをひきたててるんだもん、仕方ないよ。」私は言った。
    はじめちゃんはしばらくあきれたような顔で私を見ていたが「なんだか、まりちゃんにそう言ってもらったら、突然、全てがなんでもないことに思えてきたよ。」と笑った。「だって、ほんとうだもん。そのやけどのあとは、はじめちゃんをいっそう深く魅力的に見せてるからね。より神秘的に、よりはじめちゃんらしく。」私は言った。
    p109…「そうかそうか。」
    はじめちゃんは特に焼きもちを焼くでも、うらやましがるでも、無関心でもなく、笑顔でそう言った。「でもわかった。まりちゃんがああいうふうに、自然にしゃべったり笑ったりしてるところを見せられる人が、きっといいんだ。だって、すごくきれいだったもん。」ねたむでもなく、かんぐるでもなく、私のことを素朴に普通に思いやってくれているはじめちゃんの感じに私はすっかり感動してしまった。これまで女の友達とはいつでもそういうところでつまずいたけれど、はじめちゃんはただ私を私として見てくれていた

  • どうしたって人は結局根っこの部分ではいい人なんじゃないかな。そういう甘さにすがっていたい。
    そんな心のクラゲのように透明でぷにぷにした所にグサッと毒を塗ったナイフで突き刺して汚して染めようとするモノたちがいる。悪気があってもなくても。
    けれど、ワタシという人とちゃんと色を持って共有できる人と出会えること、それが人生であり、幸せなんじゃないかな。



    だからこそ、大したことができると思ってはいけないのだ、と思えることこそが好きだった。私のできることは、私の小さな花壇をよく世話して花で満たしておくことが出来るという程度のことだ。私の思想で世界を変えることなんがじゃない。ただ生まれて死んでいくまでの間を、気持ちよく、おてんとうさまに恥ずかしくなく、石の裏にも、木の陰にも宿っている精霊たちの言葉を聞くことができるような自分でいること。この世が作った美しいものを、まっすぐな目で見つめたまま、目をそらすようなことに手を染めず、死ぬことができるように暮らすだけのこと。
    それは不可能ではない。だって、人間はそういうふうに作られてこの世にやってきたのだから。



    ここにこの作品でばななさんが言いたかったことが集約されているような気がします。
    海のふた。素敵なタイトルです。

  • 良かった……
    すごく綺麗な本だったけれど、きれいごとではなかったし、私が最近考えていたことが書いてあってびっくりした。

  • ミニコメント
    海。かき氷。すごく夏を感じる1冊です。

    桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/404890

  • 大好きな女優の菊池亜希子さんが主演を務めた映画の原作本ということもあって読んでみた。あいかわらずよしもとさんの描写は表現豊かで、読んでいるこちらの心を本の中の世界へと誘ってくれる。淡々とした語り口調の中にもところどころはっとする言葉たちが溢れていて、それこそ海をぼんやりと眺めているときのような穏やかな気持ちになる。私もはじめちゃんのようになりたいと、理由もなく突然そう思った。

  • 波にゆらめく光のような小説。

    主人公まりちゃんは、自由な若い女の子。住む場所も、自分の仕事も一人で決めて、ふるさとの海に帰ってきました。そして、”かき氷屋”を始めました。でも、自分で決めた仕事であり夢だけれど、その毎日は、どうしようもなく地味で同じことの繰り返し。そんな、先の予想がつきそうな”夏”の中に、自分の未来をはめこんでしまってはいけない。同じように見える毎日の中でも、夢が現実になっていることを味わえる至福の喜びの時間が存在し、日々は色を変えている。

    自然の細部に宿る目に見えないものや、自分の心、手にしている時間に耳をすませながら、日々を丁寧に生きること。そのようなことが、静かに静かに描かれています。

  • さっぱりして男っぽい性格のまりちゃん。
    どこか大人びてるけど感受性豊かなはじめちゃん。

    はじまり。
    良コンビだ!

    たった一度だけの二人の夏。
    なんでもない日常が特別で愛おしく感じられる、そんな小説でした。

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著者プロフィール

1964年07月24日東京都生まれ。A型。日本大学芸術学部文藝学科卒業。1987年11月小説「キッチン」で第6回海燕新人文学賞受賞。1988年01月『キッチン』で第16回泉鏡花文学賞受賞。1988年08月『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞受賞。1989年03月『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞受賞。1993年06月イタリアのスカンノ賞受賞。1995年11月『アムリタ』で第5回紫式部賞受賞。1996年03月イタリアのフェンディッシメ文学賞「Under 35」受賞。1999年11月イタリアのマスケラダルジェント賞文学部門受賞。2000年09月『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞受賞。『キッチン』をはじめ、諸作品は海外30数カ国で翻訳、出版されている。

「2013年 『女子の遺伝子』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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