戦下の淡き光

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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861827709

作品紹介・あらすじ

1945年、うちの両親は、犯罪者かもしれない
男ふたりの手に僕らをゆだねて姿を消した――

母の秘密を追い、政府機関の任務に就くナサニエル。母たちはどこで何をしていたのか。周囲を取り巻く謎の人物と不穏な空気の陰に何があったのか。人生を賭して、彼は探る。あまりにもスリリングであまりにも美しい長編小説。


 ときおり、テムズ川の北の掘割や運河で過ごしたときのことを、ほかの人に委ねてみたい気持ちになる。自分たちに何が起こっていたかを理解するために。それまで僕はずっと匿われるように暮らしていた。だが、今では両親から切り離されて、まわりの何もかもを貪るようになった。母がどこで何をしていようと、不思議に充足した気持ちだった。たとえ真相が僕たちには隠されていたとしても。
 ブロムリーのジャズクラブでアグネスと踊った晩のことを思い出す。〈ホワイト・ハート〉という店だった。混んだダンスフロアにいると、隅のほうにちらっと母が見えた気がした。振り返ったが、もう消えていた。その瞬間に僕がつかんだのは、興味をあらわにした顔がこちらを見ている、ぼんやりした映像だけだった。(本書より)

感想・レビュー・書評

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  • 代表作「イギリス人の患者」と近しく、第二次大戦直後のイギリスが舞台。
    突如消えてしまった両親に取り残されたレイチェルとナサニエルの姉弟。
    弟であるナサニエルが、両親の消失と突如親代わりとしてあてがわれた男達との日々、困惑から彼らへのほのかな愛情を持つに至り、青年に至るまでの彼らとの(やや破天荒な)生活を語る第一部。
    そして両親の、とりわけ母の失踪の原因が明らかになり、その母の半生が語られる第二部という構成。

    本作品では様々な愛が語られる。
    親代わりの男達に対する愛情、ナサニエルのガールフレンドに対する愛情、失踪した母への複雑な愛情、そして母自身の恋の物語。
    戦後の、とりわけ複雑な環境に身を置く人々の、尋常ならざるストーリーが展開される中で、これらの愛が訥々と語られる。

    「イギリス人の患者」でも感じたことだが、オンダーチェが語る愛は、とても静かで、美しい。
    静かなシチュエーションではないのだけれども、なぜかそこで語られる愛には、静けさが伴っている。
    詩人だからなのか、あるいは「彼は詩人だからな」という先入観を私が持っているからなのかはわからない。
    一人称で語るという設定にそういう効果があることももちろんあるとは思う。
    ただ、それが何に起因するのかを深く考えるより、この美しさをかみしめたい。

    よい文章だった。堪能した。

  • 戦下の淡き光WARLIGHT~戦時中の灯火管制の際、緊急車両が安全に走行できるように灯された薄明り、とあり、この物語全体もまた、そうしたほのかな明かりに照らされるかのように、真実がおぼろにかすみ、なかなか姿を現さない、と訳者あとがき。まさにおぼろに霞んだほの明かり、というのがこの物語の読み心地だった。それは「僕」によって語られる、14才からの今にわたるマイ・ストーリー。

    1945年、うちの両親は、犯罪者かもしれない男ふたりの手に僕らをゆだねて姿を消した、と始まる。場所はロンドン、戦争は終わっているようだ。僕は14才、姉のレイチェルはもうじき16才。ある朝、両親に1年間の間、子供ふたりを置いてシンガポールに行くと告げられる。子供を託したのは最近階上に間借りし始めた「蛾」と僕らが呼ぶ男。父母のいなくなった家はやがて「蛾」の知り合いが入れ替わりやってくるようになり、ある日父のイスに「ダーター」と言われる男が座っていた。

    そしてある日姉が地下室でみつけた母のもの・・・ ここからミステリーの色合いを帯びてくる。きわめて影の薄い父。僕は父の職場、ユニリーバに連れて行ってもらったことがあるにもかかわらず、母の中に父はいないかのよう。
    それに対し留守を託された「蛾」と知り合いの「ダーター」、ダーターのころころ変わる恋人たち。僕のアルバイト先の少女アグネス。ダーターはドッグレースの犬を夜のテムズ川を使い違法に配布していて、僕はそれを手伝う。ここらへんの疑似孤児の僕の生活描写がなんともいい。実際はとんでもない状況ともいえるが。

    そして大人になった僕。母の死後10年たって外務省に志願するよう通知を受け取る。戦後しばらくの間、戦争の残り禍がまだある、というのだ。そこで明らかになる母の過去。題名のごとく、戦下の淡き光に導かれた母、そしてその落とし子の僕と姉。読み終わってみると、けっこうはちゃめちゃなストーリーなのだが、なんともゆったりした読み心地だった。



    2018発表
    2019.9.30初版第1刷 図書館

  • 父親の不在
    影として生きて語らない人々

    やっぱりオンダーチェは面白かった

  • 単純なノスタルジーだけでは語れない、不条理さや生命力をも感じさせる自分だけの特別な「子ども時代」と、それを答え合わせするかのような主人公の成人後の物語。人生の取り換えのきかなさ・一回性を考えると、何が大事で何がそうでもないのかよくわからなくなってくる。

  • 母が留守にする間、主人公が預けられたのは、不思議な後見人とその友人たち。
    主人公はその暮らしの中で青春を送り、青年となったとき当時の母が本当は何をしていたのかを振り替える。

    記憶はモノクロだ。そんな中で、
    「僕たちはぼんやりとしかわからない物語で人生を整理する」

    現代は“WARLIGHT”、あとがきによると、戦中の灯火管制の中、緊急車両が運転のため灯した淡い灯りのことだそう。

    オンダーチェ、もっと読んでみよう。

  • 第1部の子供時代、父母の出て行った後姉と後見人の蛾たちとの交流。そして第2部、大人になって母の人生を辿り発見する形で第1部の出来事がまた違った形で浮かび上がる。この巧みなストーリー展開、描写の美しさ、隠された心情のほのめかしなど読み応えがあった。

  • フェロンはどうした?

  • オンダーチェ「戦火の淡き光」http://www.sakuhinsha.com/oversea/27709.html 読んだ。よかった。キャッチーな出だし、内容もミステリー色が強くて実際ちゃんと結末もあるんだけど、とにかく文章がノスタルジックで映像的で、読後の余韻がものすごい。ちょっとFadeがかった質感の画面で映画になったらきれいだろうな(おわり

  • 主人公が14歳の頃、両親は仕事で外国に行くことになる。姉と二人はかつての母の知り合いらしい人物2人に任せられる。母親はスパイ活動をしており、その仲間であり、家にも普通の感じじゃない大人が出入りするようになる。粗筋から手に取るも。この年代の都合の良い時だけ大人扱い、または子供扱い、多感なのに不安な毎日、寄り処というか、一人前に見えて、自分の意見を聞いてくれる大人に盛大に寄りかかりたくなる。それは決して肉親とは限らない。全体的にこういう、もやもやーんとした作風。

  • オンダーチェ「戦火の淡き光」http://www.sakuhinsha.com/oversea/27709.html 読んだ。よかった。キャッチーな出だし、内容もミステリー色が強くて実際ちゃんと結末もあるんだけど、とにかく文章がノスタルジックで映像的で、読後の余韻がものすごい。ちょっとFadeがかった質感の画面で映画になったらきれいだろうな(おわり

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著者プロフィール

マイケル・オンダーチェ(Michael Ondaatje)1943年、スリランカ(当時セイロン)のコロンボ生まれ。オランダ人、タミル人、シンハラ人の血を引く。54年に船でイギリスに渡り、62年にはカナダに移住。トロント大学、クイーンズ大学で学んだのち、ヨーク大学などで文学を教える。詩人として出発し、71年にカナダ総督文学賞を受賞した。『ビリー・ザ・キッド全仕事』ほか十数冊の詩集がある。76年に『バディ・ボールデンを覚えているか』で小説家デビュー。92年の『イギリス人の患者』は英国ブッカー賞を受賞(アカデミー賞9部門に輝いて話題を呼んだ映画『イングリッシュ・ペイシェント』の原作。2018年にブッカー賞の創立50周年を記念して行なわれた投票では、「ゴールデン・ブッカー賞」を受賞)。また『アニルの亡霊』はギラー賞、メディシス賞などを受賞。小説はほかに『ディビザデロ通り』、『家族を駆け抜けて』、『ライオンの皮をまとって』、『名もなき人たちのテーブル』がある。現在はトロント在住で、妻で作家のリンダ・スポルディングとともに文芸誌「Brick」を刊行。カナダでもっとも重要な現代作家のひとりである。

「2019年 『戦下の淡き光』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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