- Amazon.co.jp ・本 (492ページ)
- / ISBN・EAN: 9784862382061
感想・レビュー・書評
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「芥川賞物語」より格段に生々しい感じ。ほんと、直木賞ってよくわからない。これを読むと、そもそもの最初から、賞の対象となる「大衆文学」とは何かがきわめて曖昧で、あっちへ揺れこっちへ揺れしてきたのだなあということがよくわかる。無名作家あり、ベテランあり、出版業界での功労賞みたいな時があるかと思えば、あんまり「大衆」は読まんやろっていう作品に授賞したり、売れっ子作家はもらいにくかったり。ミステリやSFの扱いのおかしさや、時にとんでもない選評があったりして、「メッタ斬り」されるのも無理からぬところだ。
なんでこんなに権威をまとって大騒ぎされるようになったんだろうなあ。もしかして「芥川賞」とセットというところがポイントなのか。また、その騒ぎの割には本が売れるわけでもないというのも謎。「とにかく面白い本が読みたい」というのなら、おおかたの人は本屋大賞作品をチョイスするようになった今、それでも、直木賞の「重み」が減るわけでもないのはなぜ?詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
同じ著者による「芥川賞物語」が面白かったので、こちらも手に取りました。
直木賞の歴史を丹念に紐解いた通史として重宝する一冊。
第1回の川口松太郎「鶴八鶴次郎」「風流深川唄」から、第149回の桜木紫乃「ホテルローヤル」までをカバーしています。
一読して感じたのは、直木賞は芥川賞に輪をかけて掴みどころのない賞だということ。
芥川賞は純文学を対象にした賞ということで範囲が割と明確です。
一方、直木賞は一応、エンターテインメント小説を対象にしていますが、一口にエンターテインメント小説と言っても人情ものからミステリ、ハードボイルド、恋愛小説、歴史小説、SF小説、中間小説などなど実に多種多様で茫洋としています。
それに作品本位で選ばれる傾向の強い芥川賞に比べ、直木賞は「人物本位」とは言わないまでも、それまでの実績を重視して受賞者を選ぶことも少なくありません。
ですから、「この作品であげるくらいなら、あの作品であげておけば良かったのに」なんて揶揄されることがしばしばあるのです。
本書を読んでいて面白いのは、たとえば、今や不動の人気を確立している宮部みゆきあたりも直木賞では散々苦労してきたということ。
その宮部の選考に当たった、今や大家の五木寛之なんかは、柴田錬三郎に推奨されながら第1回候補作「さらばモスクワ愚連隊」で受賞を逃していますし、すんなりと受賞したなんていう作家の方が稀のようです。
自分が過去に読んできた本が、直木賞ではどういう評価を受けたのかというのも本書を読む醍醐味でしょう。
自分は近年の直木賞受賞作家ですと、東野圭吾や奥田英朗、石田衣良なんかが好きでよく読んできましたが、彼らの候補遍歴を辿るのも一興です。
その中で、「虹の谷の五月」で受賞した船戸与一の話題が出ていました。
これは直木賞の選考ではないですが、福田和也が船戸の「砂のクロニクル」をこき下ろしていることを知って愕然としました。
あと、山田詠美は芥川賞の受賞者だとばかり思っていましたが、直木賞だったのですね。
いや、これはうっかり。
いろいろ勉強になりました、はい。