謙虚なコンサルティング――クライアントにとって「本当の支援」とは何か

  • 英治出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862762252

作品紹介・あらすじ

『人を助けるとはどういうことか』著者、最新刊!顧客、部下、同僚、友人、家族…誰かに相談されたとき、どうすれば相手の役に立つことができるだろう?自分ではなく、相手が答えを見出す「問い方と聴き方」。

感想・レビュー・書評

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  • 問題には2種類ある。それは、「技術的課題」と「適応を要する課題」である。
    「技術的課題」は、正解がある問題。その問題の専門家が存在し、問題の所在に関して探るための診断をしてくれるし、その解決策を提示してくれる。例えば、医師と患者の関係が分かりやすい。健康診断、あるいは、場合によっては、精密検査を受けることにより、医師があなたの病気を特定してくれる。そして、投薬によって治療するのか、外科手術を施すのか、あるいは、しばらく様子を見るのか、などの解決策を提示してくれる。問題は簡単ではないことも多いが、正解を見出すための方法論が存在すると考えられている。
    一方で、「適応を要する課題」とは、最初から正解が分かっているわけではない、あるいは、そもそも、問題が何かが分かっていない課題。色々なことを試みてみたり、あるいは、自分自身が変わったり、問題の関係者間の関係が変わったりすることによって、物事が良くなる方向に動いたりするもの。人間社会で起こる問題は、殆どが、これに属すると思う。例えば、コロナ禍における緊急事態宣言発出の可否。最初から正解が分かっているわけではないし、そもそも正解があるのかどうかも分からない。関係者・利害関係者も多いが、利害が同じであっても、意見が異なったりする。それでも、緊急事態宣言を発出するかどうかを決めなければならない。
    私は、会社の中で人事の仕事をしている。会社の中の人に関する問題は、殆どが適応を要する課題である。会社の中の人事スタッフ、あるいは、他の職能のスタッフは、ある意味で、現場にとってのコンサルタントである。技術的課題に対応するのは、簡単ではないが、やれないということはない。人事で言えば、例えば、労働法の適用関係を問われる問題。条文があり、判例があり、それでも分からなければ弁護士に相談してみれば良い。一方で、例えば、「どうすれば、この職場の人間関係は良くなるのだろう?」とか、「若い人たちの育成にあたるマネジャーにどのように振る舞ってもらえば良いだろう?」など、正解があるかどうか分からない問題も多く、どちらかと言えば、こちらの問題の方が多い。

    本書は、コンサルタントが、クライアントの問題を解決するにあたって、どのようなことを心がけるべきかを示してくれる。特に、「適応を要する課題」について。
    会社の中のスタッフ部門の人は、読むべき本だと思う。

  • 1.最近のサービス業はコンサル化していることを強く感じたのですが、今までのようなコンサルでは仕事にならないと思い、自分なりにどのようなコンサルとなりたいのかを考えた結果、提案よりもヒアリングを重視したやり方がベストだと思いました。そんな中で、本書に出会い、今までとは違うコンサルのスタイルを学びたいと思いました。

    2.コンサルの中で最も重要なのは「役に立ちたい」というマインドです。これまでのコンサルは、ヒアリングと分析を行い、答えを導き出すスタイルが主流ですが、会社を経営しているのが人である以上、感情を持っています。そのため、ヒアリングしたことがすべて正しいとは限りません。そこで、より正確に深くヒアリングをし、課題を見つけ出すためには「謙虚なコンサルティングの姿勢を学ばなくてはならない」ということが本書の目的です。
    これを実現するためには「相手が答えを見出す問い方と聴き方」を身に着けていく必要があります。今までのコンサルがこれを怠ったわけではありませんが、現代は問題がより複雑かつスピーディーに変化しています。また、コンサルが大量発生したため、どの会社を選べばよいのかがわからなくなることもあります。その判断基準として、本書ではレベル2の信頼関係、つまり、仕事だけではなく、プライベートも仲良く(決していつも一緒にいるということではない)するほど良いとされています。これらを実現してきた事例として、人材育成の視点から様々な経験が語られます。

    3.ちょうど、今日上司と子会社に指導を行ってきました。やはり、旧世代のやり方を踏襲していたので、その子会社の結果は何も変わってませんでした。数字で見せて指摘を入れても長らく改善していないそうです。「相手を変える」という視点を脱却し、「自分から変わる」「相手に気づきを与える」という方向性で仕事をしなければ状況は改善しないと確信しました。本書では、相手に興味を持つことや自分が無知なふりをして相手に気づかせるテクニックについても幅広く説明しています。私は、まずは「マインド」から鍛えていきたいです。そしていつかは一言で相手に気づきを与え、相手が成長するきっかけを与えられる人間でありたいと思います。

  • 発売後、わりとすぐに購入していたけどずっと積読していた本。コンサルとしての独立二年度目に入るということで改めて自分の姿勢を見直すヒントを得たいということで久しぶりにシャイン先生にお頼りすることに。

    この本は何というか、シャイン流のプロセスコンサルテーションの注釈本という気がします。あくまで本論はこれまでの著作であって、そこに書ききれなかったけどわりと大事だよという点であったり、最近他分野で色々言われているエッセンスをプロセスコンサルテーションの範疇に統合するとこんな感じ、というところでしょうか。シャイン先生自身は「まったく新しい」とも言っているので読み取り方が浅いのかもしれませんが。

    ということで初めての人は『人を助けるとはどういうことか』など先に手にした方が良いと思うし、その方が感動が大きいと思います。

    この本で語られる謙虚なコンサルティングとは

    「力になりたいと思って本気で尽力し、クライアントとクライアントが置かれている状況を心底気遣う姿勢のことだ、と。その姿勢を最初の瞬間から確実にクライアントに伝えるには、真摯な好奇心を全開にするといい。誠実で自然に沸き起こる好奇心ほどクライアントに対する関心と気遣いを確かに伝えるものはない。そのため、この姿勢は3つのCによって表されると言える。力になりたいと言う積極的な気持ちcommitmentと、クライアントに対する思いやりcaring、わけても大切なのが好奇心curiosityである。そして新たな姿勢を持つには新たなスキルもまた必要になる。」

    新たなスキルとして最も重要なのは「聴き方」であり、個人的に打ち解けた関係を作った上で質問していくことが重要。

    関係構築の大切さは従来のコンサルや営業でもラポール形成とか色々言われてきたわけですが、「聴き方」によって変わる、というのが本書の主張。聴き方には3つの種類がある。

    ①自己中心的に聴く
    自分の知識や経験やスキルを活かすことによって、私は今話されていることに対し、どのように関わり、支援することができるだろう、という自分に関連あることに考えを巡らせながら聴いてしまい話を聴くのが疎かになる。

    ②内容に共感しながら聴く
    クライアントがどんな問題や課題、あるいは状況を伝えようとしているのか、クライアントが伝えたいと思っていることの中でよく考えるべき問題の要素は何か、と言う点にフォーカスした聞き方である。これは、内容に誘惑されることと同じではない。それは、自分がもしその状況に置かれたらどうするかということにすぐ想像の翼を広げてしまい、集中力がその想像へ向かってしまうものに過ぎない。

    ③人に共感しながら聴く
    コンサルタントに話している状況について、クライアントが実際にどのように経験し、感じているのかに焦点を当てた聴き方である。この場合、最大の注意と好奇心を向ける先は、クライアントの声などちょっとしたところに2時間緊迫感になり、そうしたサインをしっかり捉えると、クライアントが状況の詳細を述べながら感じているだろう思いを読み取ることができる。

    基本的に初期の打ち解けた関係構築を目指すためには③を志向するべきで、そのために診断的な質問(なぜ、どのように感じた、どんな行動をとったか)や循環的な質問(組織のほかの人たちがどのように考え、感じ、行動していると思われるかを考えてもらう)、示唆的な質問(ある種の介入であり、タイミングが問題。なぜなら考えもしなかったことについて検討するようクライアントに求めることになるからであり、支援者は、助言するタイミングが早すぎたら信頼を損ねてしまうという点について、最も慎重になるべきだからでもある)、プロセス指向の問いかけ(次の三つのうちの一つを選ぶことになる。問題に対する自分なりの分析を説明しようとするクライアントの話についてその焦点を変える、支援のプロセスでクライアントがコンサルタントにしてほしいと思っていることを変える、そして今この場でのクライアントとのやりとりに集中する)

  • これからのコンサルティングのあり方に触れる一冊

    コンサルティング業務に関る者として、題名に惹かれジャケ買い。
    『謙虚なコンサルティング』と聞くと、クライアントの言う事を素直に受け入れる
    御用聞きの様なコンサルティングスタイルの様に聞こえるがそうではない。

    原題は、“Humble Consulting: How to Provide Real Help Faster”なので、
    本当の意味合いとしては、『控えめなコンサルティング』といった方がしっくりくる様な気がする。

    今までのコンサルティングと言うと企業の課題に対して、状況を把握→課題の抽出→対応策の検討→クライアントへの提案と言った、コンサルタント主体の一方通行的なアプローチが主流だった。
    ただ、現代の様に変化のスピードが早く、問題が複雑化している状況では、
    上記の様な通り一辺倒のアプローチでは課題の解決ができないと言うのが著者の着眼点である。

    ではどうすれば良いのか?

    クライアントを巻き込み、クライアントの主体で課題解決をして行く必要があるという、
    その為にはコンサルタントは黒子のように、控えめにクライアントをサポートする必要がある
    と言うのが本書の論旨である。

    ただ、この黒子に徹しながらも、クライアントへコンサルタントの価値を最大限提供する為に、
    クライアントとの関係をよりパーソナライズしたものにする必要があると説いている。

    なかなか実践するのは難しい内容だが、著者のエピソードが中心なので、自分ならどうするか
    頭の整理をしながら読める一冊。

  •  コンサルタントは傲慢な押し付けではなく、クライアントと同じ目線に立ってケアを行いつつ謙虚に改善に取り組むべき、とする。

     …当たり前では。


  • コンサルがわからなくて手に取った本。
    著者の実体験を交えながら、その仕事に必要な心構えを教えてくれました。
    『人は話し方が9割』の強化版。

  • コンサルとは何か?の学びのため
    最初から入ってこなかった
    数ページで挫折

  • キャリアコンサルタント試験対策及びその後の学びのために購入。
    大企業での組織論がメインな印象。
    現在の私の立ち位置とはちょっと違う(苦笑)
    しかし、示唆に富む部分は普通にある。

    払ってもいい金額:800円
    貼った付箋の数:11

  • 東2法経図・6F開架:336A/Sc2k//K

  • ( オンラインコミュニティ「Book Bar for Leaders」内で紹介 )

  • 仕事に役立つかなと思い読んでみた本。
    お医者さんのようにこちらから専門的な方法を伝えるのではなく、本当の支援とはレベル2の関係を築き、クライアントが答えを出せるように問いかけをして答えを導きだすこと。
    色々なケースの例がありわかりやすかったですが実際やるとなると難しいなと思う。

  • レベル2の関係。他人行儀でもなく、率直な事が言えて、でも家族や恋人のような情や愛ではない関係。その時々に、状況に応じて。何をどう話し、問いかけるのか。技術の導入を阻むのは技術ではなく文化である。教育の大切さ。

    追記
    業務改善については苦い思い出がたくさんあります。成功も失敗もして、学んだのは、結局は文化なんだな、ってこと。
    それを、この本を読んで再確認した気がした。

  • ・謙虚なコンサルティングに必要なのは、人間関係、信頼、率直さの3つ。
    ・3つの前の前提に、積極的に力になりたいという意志→好奇心、が必要。
    ・レベル2の関係性になって初めて解決に迎える(論理でいける、と過信しない)
     ・レベル2の信頼:約束をして守ること
     ・レベル2の率直さ:取り組みに対してお互いに協力し嘘をつかないこと
    ・雑談を場つなぎとかアイスブレイクのためにやろうとするとズレる。相手と信頼関係を結ぶための自己開示や興味の理解が大事。
    ・なぜかを問うときは、コトとトキで考える。
     1.対象は何が最適か?状況、その人の感情、行動
     2.時制は何が最適か?過去、今、今後

  • クライアントを支援するとはどういうことか気づかされた。

    コンサルタント(自分) の手助けによって、クライアント(相手) が、 (1)問題の複雑さと厄介さを理解し、 (2)その場しのぎの対応や反射的な行動をやめて、 (3)本当の現実に対処すること  が、本当の支援なのである。

    支援者としての私自身の経験から言えば、重要なのはおそらく、どんな問題に悩まされているかをクライアントが隠さず話せること、それも遠慮なく安心して話せることだった。

    新たなスキルのうち最も重要なのは、これまでとは違うタイプの「聴き方」である。このスキルの向上をテーマとする書籍やプログラムを検討してわかったのだが、新たなタイプのコンサルティングを行うには、一般に推奨されるのとは別の聴き方を身につける必要があり、さらに言えばその聴き方は対応の仕方を知るためにも欠かせなかった。また、二種類の共感力を伸ばす必要もあった。一つは、クライアントが話している現況や問題について、好奇心をもって傾聴する共感力である。もう一つは、クライアントが状況や問題を説明しているまさにそのときに、クライアントを本当に悩ませている問題が何かを見きわめようとして、好奇心をもって傾聴する共感力である。

    概念に関する質問 基本的に「なぜ」と問う。この問いによって、クライアントは、コンサルタントに話した内容のさまざまな面について考察・検討し、原因について考えをめぐらせるようになる。   感情に関する質問 クライアントが話した出来事に関して、「それについてどのように感じたか」を基本に、質問をする。   行動に関する質問 クライアントの話にあったいくつかの分岐点について、「どんな行動をとったか」を基本に、質問をする。

    謙虚なコンサルティングが最も役に立つのは、クライアントの「思考プロセス」を、次の一つ以上の方法によって再構築する場合である。(一)問題をもう一度、説明する。(二)クライアント自身の役割が何かを再考する。(三)コンサルタントがすべきことは何かを再考する。これらのプロセス領域でこそ、たとえ初めて会話をしているときであっても、驚くほどすぐに支援できる場合がある。再構築によって、自分が今何を知っているかということに、クライアントが気づくからである。コンサルタントは、クライアントが最初に考えた、あるいは提案したことを上回る、コンサルタントを活用するメリットを示して支援するのだ。

    中心にあるのは常に、クライアントがどんなことを懸念しているのか、本当に欲しいものは何か、どんな問題に取り組む必要があるか、という問いに対する答えの見つけ方だ。

    アダプティブ」と呼ぶことによって強調しているのは、それが「問題」に対する解決策ではなく、状況を改善したり、次のムーヴへつながるより診断的なデータを引き出したりすることを目的とした行動だということである。「ムーヴ」と呼ぶことによって伝えたいのは、それが壮大な計画でも大規模な介入でもなく、状況を改善するためのちょっとした取り組みだということである。

    組織という生き物がいよいよ複雑さを増し、今起きているあらゆるものごとがスピードアップしている現実を考えると、これぞアダプティブ・ムーヴだと思うのは、即興劇である。計画と仕組み、法則、型があれば安心はできるが、結局のところは役に立たないかもしれない。むしろ、率直に話をして、たしかな人間関係を築き、力を合わせて即興で行動を生み出すほうが、本当の支援をすばやく行ううえで効果が高いのである。


    すべての項目に共通しているのは、それらが、役に立ちたいという積極的な気持ちと、好奇心と、思いやりから生まれるものであることだ。そして、その根本には、尊重され大切にされたいと願うクライアントを前にしてなお、クライアントが直面している状況の複雑さと厄介さを前にしてなお、変わることのない謙虚な姿勢がある。これまでと、どんな点が全く違うのだろう。それは、 個人的な関係になる 必要があることと、プロセス全体の最大の原動力として 好奇心 を重視していることである。

  • 従来とは異なるコンサルティング手法について語る本。日本の大企業向けコンサルティングには当てはまらないことも多いと感じた。組織戦略やPMOをテーマとする場合には納得感があるかもしれない。
    内容が凄く目新しいわけでもなく、綺麗に体系だっているわけでもないが、実際のケースが多く書かれていて興味深い。困ったときにヒントを探してぱらぱらめくると良さそう。

    ==内容まとめ==
    「謙虚なコンサルティング」とは、クライアントが①問題の複雑さと厄介さを理解し、②その場しのぎの対応や反射的な行動をやめて、③本当の現実に対処すること、を支援すること。コンサルタントは答えを出すのではなく手助けをする。

    コーチングや傾聴のような手法。

    聞き方には三種類ある。
    ①自己中心的に聞く
    ・自分の知識や経験、スキルと照らし合わせて支援方法を探しながら聞く
    ・クライアントの本当に言いたいことが聞けない可能性があるので、良くない
    ②内容に共感しながら聞く
    ・問題の要素にフォーカスして聞く
    ・「従業員エンゲージメント」が本当に心配だ
    ③人に共感しながら聞く
    ・クライアントの感情にフォーカスして聞く
    ・従業員エンゲージメントが「本当に心配だ」

    質問の種類
    ①謙虚な問いかけ
    ・支援者が答えを知らず、クライアントが自由に答えることができる
    ・基本的な情報を得るために、ここから始める
    ②診断的な問いかけ
    ・支援者は一定の考えを持ち、対話を始める
    ・概念:「なぜ」×過去/現在/未来
    ・感情:「どのように感じたか」×同上
    ・行動:「どんな行動をとったか」×同上
    ③循環的な質問/プロセスへのフォーカス
    ・その依頼はどんな結果を招く可能性があるか
    ・目的は?/集まった情報をどうするのか?/長期的な展望は?
    ④示唆的な問いかけ
    ・提案やアイデアを質問の形でソフトに伝える
    ・早すぎると信頼を損ねるため、タイミングが重要
    ・信頼関係ができるまでは、示唆的な問いかけを用意して待つべき
    ⑤プロセス指向の問いかけ
    ・次の3つのうち少なくとも1つを行う
    - クライアントの問題分析の焦点を変える
    - クライアントの支援して欲しい事柄を変える
    - 今この場でのクライアントとの人間関係を確認する「私は役に立っていますか」

    支援の場では、顧客と仕事の域(レベル1)を越えた個人的な話のできる信頼関係(レベル2)を築くことが有効。
    そのために「謙虚な問いかけ」を行う。
    しかし、そこにはリスクもあり、そもそもレベル2の関係が不要なこともある。

    顧客の目的は当然尊重すべきだが、そのためのプロセスは間違っていることが多い。
    そのプロセスのオーダーを変えるには、レベル2の関係が必要。

    ==考えたいこと==
    「誰かに支援やサービスを頼むとき、その人を信頼できるかどうか、その人が本当のことを言っているかどうかを、どのような方法で判断するか」
    「どんな種類の会話ができれば相手を信頼できると思えるようになるか」

  • いま必要ない本であった。おそらく20代で読んでも響かなかったと思う。

  • クライアントを支援するには個人的な打ち解けた関係に入ることが大切。、ビジネスライクな関係よりさらに踏み込んだ関係だと思う。そのためには最初から、力になりたいという積極的な気持ちと好奇心と思いやりを自ら態度で示すことが大切。
    そしてクライアントが、自ら課題を把握し解決できるように共同で行うこと。

  • コンサルタントは三種類のプロセスを徹底的に調べることになる。クライアントが何を考えどんな問題解決プロセスを思い描いているか、進め方についてクライアントが明確に理解しているか、コンサルタントがするべきことに対してクライアントがどんな思い込みをもっているか、の三つである。


    プロセス支援とはつまり、厄介な問題になりかねない懸案を認識し、そのうえで誰かの無知(知らないこと)を戦略的・戦術的に使うこと、そして、今起きていることをグループがみずから目にし、別のやり方を選択することについて自分たち自身で判断できる瞬間に、タイミングを測り、最新の注意を払って質問することである。


    ずっとあとになって、私は重要なことを理解した。私は厳しい専門家になって「その行動はよくない」とグループに指摘してしまっていた、と。感受性訓練グループのファシリテーションで学んだルールの一つ、すなわち、行動は観察するものであって判断を下すものではない、というルールに、私は完全に背いてしまっていた。行動について判断を下すことや、発言をさえぎったらどうなるかを考えることは、グループにしてもらうことなのだ。私は、「このグループでは〇〇ということがたびたび起きていますね」ということによって、それは望ましくない行動だとはっきり告げてしまっていた。


    私は忘れてしまっていた―優秀な人がわけもなく愚かな行動を取るはずがないことを。そのため、端から見れば愚かに思えるが、彼らとしては筋が通っているのかもしれないことを彼らがしている理由を見つけ出す必要があることを。


    傾聴の仕方に関するアドバイスはさまざまあるが、そのいずれにおいても、“どんなことに耳を傾けるべきか”については選択肢が十分に区別されていないと思うからである。このケースで私が耳を傾けることにしたのは、「彼らが何が何でも取り組みたいと思っていることは何か」という点だった。


    コーヒーとデザートが運ばれてくるとすぐに、私は一同に注目してもらい、次のように語った。
    「話し合いをうまく進めるために、全員でやってみたいことがあります。少し奇妙に思うメンバーもいるかもしれませんが、このように始めることはきわめて重要だと私は考えています。私の左側から、座っている順番に一人ずつ、マス・オーデュポンに参加した理由を、飾らず率直に一、二分ずつ話してください。全員が話し終えるまで、意見を述べたり話しを遮ったりしないこと。その後、予定の議題に入ります。時間は少々かかりますが、全員の理由を聞くのは意義深いことだと思います。ではロジャー、トプバッターをお願いします。あなたはなぜこの組織に入ったのですか」
    …実際の展開は、「ミラクル」という言葉がおそらく最もふさわしいだろう。自分の番になると誰もが、とりわけノーマとルイスが、マス・オーデュポンが自分の人生においてどれほど大切か、環境保全や自然教育に対してこの組織が果たしている役割がどんなに重要か、そしてこの組織の成長と繁栄に貢献することに自分がどんなに情熱を燃やしているかを、熱く語ったのである。30分ほどで全員が話し終え、私たちはこのタスク・フォースにはさらに細部を詰めつつ進んでいく覚悟ができていることを知ったのだった。


    【読者への提案】
    潜在クライアントが問題を抱えて電話をかけてきたとする。次に示す対応すべてに目を通し、自分がしそうな対応として最も可能性の高いものから低いものまで順位をつけて、「なぜそのように言うのか」を考えてみよう。

    ・潜在クライアント
    シャイン教授ですね…、よかった、つかまって。私たちの組織で行う文化調査に、ぜひお力添えいただけないでしょうか。従業員エンゲージメントがあまりに低いので、この点について私たちの文化を明らかにしたいと思うのです…。

    1、お電話ありがとうございます。協力は惜しみませんが、この段階で調査を行う影響についてお考えになりましたか。

    2、電話をありがとうございます。「従業員エンゲージメントがあまりに低い」とおっしゃる具体的な意味を、お聞かせいただけないでしょうか。

    3、喜んでお手伝いしますよ。この手の問題を突き止める調査には、よいものがいくつかあります。どれが適当か、一緒に考えましょう。

    4、いいですとも。従業員エンゲージメントの問題は重要です。きっとお役に立てるでしょう。お会いして話し合いたいと思いますが、いつにしますか。

    5、どんな種類の調査をしたいとお考えですか。

    6、もう少し詳しくお聞かせ願えますか。

    7、なぜ調査を実施したいとお考えですか。これが文化の問題だと思う理由は何でしょう。

    8、今どんなことを考えていますか。何を懸念していますか。

    では、有人か職場の仲間とペアになって、互いの答えと理由を比べてみよう。その後、八種類の対応それぞれに対し、どんな結果が起きそうだと思うか、また、その対応をするのはどのような条件の場合かを確認してみよう。このエクササイズの目的は、八種類の対応それぞれについて、引き起こされる結果を予測できるかどうかを確かめることだ。正しい答えはないし、得点記入表もない。なぜなら、何を述べるかは、電話の相手にどんな態度で対応するかによるからである。


    この事例によって、私は一層確信することになった。解決しようとしている問題に対してはっきりした考えがあったとしても、解決の方法について明確なあるいは有効な計画をクライアントは必ずしも持っておらず、そのためプロセスに関して支援を必要としている、ということを。私は医薬品販売の問題については何も知らなかった。しかしグループの文化を評価する方法については知り尽くしていた。
    (クライアントは全セールスパーソンへの個別インタビューによって、営業組織の文化を特定して欲しいと要望していた。社員はあらゆる部署を網羅する斜めの関係でつくったグループでのインタビューを提案した。互いの前で率直に話すなら個人よりグループで行った方が、文化の全体像が早く明らかになる。幹部メンバーなどお互いに率直に話しができないメンバーの場合、個別インタビューの方がよい。


    私を含めた12人全員が席につくと、次のように私は言った。「今夜は少し違ったことをしてみたいと思います。部屋のなかを移動して、誰かとペアになってください。そして一方の人が、個人的にどのように評価して欲しいと思っているか、評価とは自分にとってどういうものかを話します。質問したり、途中でさえぎったりはしないでください」


    本書のまとめ、および結論に最もふさわしいものとして、これまで繰り返し説明しようとしてきた考えを改めて紹介しよう。いずれも、実際に役立つ考えであり、第二章で述べたものだ。これらすべてを“組み合わせた”考えこそが、謙虚なコンサルティングの究極な意味である。

    ・確実に支援するためには、本当の問題、すなわちクライアントの懸念が何かを突き止め、その一方で、「本当の問題」などなく、一連の不安が至る所にあるだけだという事実を受け入れる必要がある。

    ・クライアントの懸念を突き止めるためには、クライアントと支援者が信頼し合い、率直に話しができることが必要である。自分の懸念を打ち明けられるくらい、クライアントは十分に安心できなければならないのだ。

    ・支援の場では仕事の閾を出ないレベル1の関係が珍しくないが、互いを信頼して率直に話しをするためには、そのレベルを超えた、個人的な話のできるレベル2の関係を築く必要がある。

    ・効果的なレベル2の関係を築くためには、初めて話しをするまさにその瞬間から、「力になりたいという積極的な気持ち」と「クライアントとその状況に対する思いやり」を態度で示すことによって、関係を打ち解けたもの(パーソナライズ)にする必要がある。

    ・パーソナライゼーションは、個人的なことに踏み込んだ質問をしたり、状況とそれについてのクライアントの気持ちとに共感的に耳を傾けたり、より個人的な考えや自然にわき起こる反応を伝えたりすることを通して生まれる。

    ・レベル2の関係を築けたと実感できたら、何が問題なのか、支援が本当に必要なのはどこか、次にどんなことをすればよさそうかを、支援者とクライアントは共同で進めるダイアローグのなかで探ることになる。

    ・問題が単純明快だとわかったら、支援者はみずから専門家もしくは医者の役割を担うか、あるいはクライアントを他の専門家か医者に紹介するといい。しかし問題が複雑で厄介だとわかったら、クライアントと支援者は、「これによって問題が解決されるわけではないかもしれないが、次のアダプティブ・ムーブへつながる新たな情報を得られる」ことを理解したうえで、実行可能なアダプティブ・ムーブを探すべきである。

    ・そうした決定は、共同で行う必要がある。なぜなら、コンサルタントが、なんらかの提案ができるほど十分にクライアントの個人的な状況や組織文化について知ることは決してないし、クライアントが、自分だけでなんらかの行動を決定できるほど十分に、調査などの診断プロセスツールを使った介入のあらゆる結果について知ることも決してないからである。

    ・そのため、コンサルタントは責務の一つとして、さまざまなアダプティブ・ムーブの結果を理解し、そうした結果のポイントをクライアントにしっかり伝えて、クライアントがそのムーブを行う準備ができているかどうか判断する必要がある。

    すべての項目に共通しているのは、それらが、役に立ちたいという積極的な気持ちと、好奇心と、思いやりから生まれるものであることだ。

  • # 書評☆4 謙虚なコンサルティング | 支援を実現するための3レベルの人間関係

    ## 概要
    「[人を助けるとはどういうことか](https://senooken.jp/blog/2019/02/25/)」,「[問いかける技術](https://senooken.jp/blog/2019/02/26/)」に続く,支援に関する本だ。

    社会が複雑化するにつれ,クライアントもコンサルタントも問題も解決策もわからなくなってきている。そのため,従来のコンサルティングで問題を解決するのが困難となってきている。これに対して,謙虚なコンサルティングと著者が提言する新しいコンサルティングの形を解説している。

    特徴は,人間関係を3のレベルに分類し,このうち個人的な知り合いであるレベル2の関係構築が,複雑な問題で必要であることを主張しており,その事例について紹介している。

    他の前半部分で,今回提言した理論の背景や考え方について説明しており,後半からは過去のコンサルティング経験の事例も出しながら,ポイントを解説している。

    前著,特に「[人を助けるとはどういうことか](https://senooken.jp/blog/2019/02/25/)」の内容がこの本でも関係してくる。

    レベル2の関係を念頭に置きながら,やはり謙虚な問いかけによりクライアントと信頼関係を構築し問題解決に取り組む。その場その場で質問を考えたりする必要はあるが,やり方としてはこれ以上のものはないだろうと感じた。

    ## 参考
    > ### p. 49: 謙虚なコンサルティングはどのように新しいのか
    > 「コンサルティング」という言葉は昔から次のような意味で使われてきた。専門的情報やサービス、診断、処方箋を助言という形で提供しながら、しかし、ほどよい距離感をしっかり保つことによって、「専門家および医者 (あるいはどちらか一方) としての役割を担って支援する」ことである、と。そうした役割は、問題点がはっきりしていて技術で解決できる場合はうまく果たせるかもしれないが、だんだんよい結果を生まなくなってきている。「問題」が何であるかが曖昧で、どんなことをすれば本当に役に立つのか、支援者がわからなくなってきているためである。

    このことは本当にそのとおりだ。技術が発達し,世の中が進化・複雑化するに連れて,問題自体とそれに対する適切な解決策が何かわからなくなってきている。この説明で,著者が主張する謙虚なコンサルティングの必要性を納得できた。

    > ### p. 64: 人間関係とは何か。信頼する、率直であるとはどういうことか
    > 私たちは、「人間関係」「信頼」「率直さ」という言葉を、深く考えることなく頻繁に使っているーまるで、その意味を理解できない人などいるはずがないと思っているかのように。しかし、これら三つの言葉について定義してほしいと頼んだら、呆気にとられたような顔をされるか、何を今さらと見下した眼差しを向けられゐか、あるいは、尋ねたほうも答えたほうも納得できない、あやふやな定義をされるかのいずれかである。
    > ___
    > 「人間関係」とは、過去の付き合いに基づいた、互いの未来の行動についての、一連の相互期待へのことである。
    >
    > もし私があなたの行動のいくらかをほぼ予測でき、'あなたも私の行動の一部を予測できるなヘへら、私はあなたと関係があるということになる。関係が浅い場合は、互いに相手の行動をおぼろげに予想できる程度だが、関係が深い場合には、二人のどちらもが相手の考え方や感じ方や価値観を承知している。
    > ___
    > 相手の反応の仕方を互いに知っているという感覚に基づく安心感、合意した目標に向かってともに努力しているという安心感である。そういう安心感を、ふつう「信頼」という言葉は意味している。

    人間関係や信頼という言葉を知らない人はいないだろう。しかし,本当のところこれらの言葉が何を指すのか自分も考えたことはなかった。著者によるこの定義は的を得ており,なるほどと納得した。

    > ### p. 67: 文化的に定義された関係と信頼と率直さのレベル
    > * レベルマイナス1 ネガティブな敵対関係、不当な扱い
    > * レベル1 認め合うこと、礼儀、取引や専門職としての役割に基づく関係
    > * レベル2 固有の存在として認知する
    > * レベル3 深い友情、愛情、親密さ

    本書でキーとなる人間関係の3のレベルについて解説されていた。一般的な社会ではレベル1の関係であることがほとんどだ。そして,レベル1の関係は,問題とその対策がはっきりとわかっている場合には有効だ。ただし,非常に多くの複雑な問題はレベル2の関係が必要となる。逆に,レベル3は組織では馴れ合いやえこひいきなど問題となることが多い。

    ## 結論
    理論的なところが腑に落ちて納得できた。

    著者の他の本と同じで,結局は謙虚な問いかけによりクライアントとの信頼関係構築が重要という点では同じだが,視点が異なる。

    こういった新しい視点を知ることができたのがとてもよかった。

    2000年代後半以降の著者の本は読みやすくて,いい本がよかった。

    パーマリンク: https://senooken.jp/blog/2019/05/07/

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著者プロフィール

エドガー・ヘンリー・シャイン Edgar Henry Schein
アメリカの心理学者。 MITスローン経営学大学院名誉教授。陸軍の研究所で洗脳研究を行った後マサチューセッツ工科大学(MIT)に移り、組織開発、キャリア開発、組織文化の分野の発展に貢献した。著名な著書に『組織文化とリーダーシップ』『プロセス・コンサルテーション―援助関係を築くこと』『キャリア・マネジメント』(すべて白桃書房)などがある。

「2022年 『エドガー・H・シャイン「マイ・ラーニング・ジャーニー ズ」』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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