私と鰐と妹の部屋

著者 :
  • 書肆侃侃房
3.41
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本棚登録 : 213
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863853577

作品紹介・あらすじ

きもちのいい奇天烈。たぶん、きもちがいいのは、それが本能とか骨とかに刻まれた、文様のようなものだから。知らなかった世界なのに、自分を見つけた気もしてる。
――最果タヒ


妹の右目からビームが出て止まらない。薔薇園にいくと必ず鰐がいた。眠たくて何度も泣いた。紙粘土で上司たちの顔をつくった。三人でヤドカリになった。サメにたべられて死にたいだけの関係だ。あたらしい名前がいる。おばけになっているときはなにも話してはいけない。肩車をした拍子に息子の股間が私の首にくっついてしまう。隠れ家的布屋さんは月に進出している。私は忍者で、すごいのだけれど、あんまりみんな信じない。……可笑しさと悲しみに満ちた53の物語

感想・レビュー・書評

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  • [pp. 51 以降]

     読了。登場人物たちにはなんらの悪意もないことがほとんどなのに、かれらの考え方は酷薄そうに思われもし、その結果としての事象も残酷なことが多い。なぜこんなに自分を痛めつけるような考え方ばかりをするのだろうと思いながら、ふと、それは若かった頃の自分にも濃く染みついていたもので、年を経て生き延びるために、見ないことにしていた部分なのだと気づく。

     妹が登場する話がいくつかある。視点は年かさのきょうだいのほうだ。仲が良さそうにも見えるし、大事にする方法がそれぞれずれて、ただ傷つけ合っているようにも感じられる。そもそもきょうだいというのはそういうものだったのだと思う。

     「星を読まない」こそが、本書を繙くための鍵に思える。好きだから黒く塗りつぶす。やばいものが言葉としてわかられているのはいけない。名前を消して、わからないものとして、ただ感じるのだ。そうして、持っている本が黒くなる。世界をそういうものとして見る。

     「平凡」の、冒頭のほのぼのファンタジーが、あっという間に重さと臭いのするリアルに変じてしまい、長々と語られるのは後者のほうというのも、印象深く、本書の色味を感じさせられた。

    --

    [p. 50 まで]

     独特の風合いとリズムをもつ掌編集。とにかく登場人物たちの肉体が物理的に変化する話が多い。すごく多い。そして当然、そのことによる悲劇的な事象が起こったりするのだけど、結末はむしろほのぼのほんわかしていたりすることが多く、そのギャップこそが怖い。なかには、そのまま痛い話として終わる作品もあって、気が抜けない。

     語り手は子どものことが少なくない。あるいは、年若い人たち。かれらが目の前の事象を認識する仕方と、それをもとにした語りは、ひどく純粋で残酷だ。けれども、とりたててホラーというふうには感じない。むしろ、世界というのは元もとそういうものだったではないか、という気になってくる。

     読むのが速すぎたかな、と思う。もっとゆっくり、1 文 1 文、1 字 1 句、自分のなかにしみ込むのを待つようにして読むべき本だったのではと思う。一時に読むのは勿体ない。ゆっくりゆっくり、世界が違って見えてくる感覚を味わうようにして読む。

  • マジックリアリズム的SF短編集。好み。トラボルタがなぜか家にという話と、こっくりさんがプーさんに憑依して同棲する話が馬鹿らしくて印象に残った。今まとめただけでも面白そうだもの。

  • こわいものが愛らしくなったり、何の変哲もないものがいきなり牙を向いたりと著者の幅を知れる一冊。
    感情と行動が直結しているからか、こうなれたらいいなが詰まっている。

  • 58こういうのが好き
    彼がよろこぶと思って、僕は、本当はこわいのは大丈夫だったけど、そのはじめてのデート以来、彼の前でちょうどいい感じにこわがるのを、死別するまで三十年続けた。
    66刺繍
    僕はそのふたりのうちの片方を針でめった刺しにした。すると、しんどくなってきた。だれのことも憎みたくなかった。でも、どうして嫌な目に合った僕が我慢しないといけないんだろうと思って、もっと針で刺しまくった。その隣で僕と猫が笑っていた。

  • 不穏で奇妙で可笑しくて怖い。

  • 2019年7月7日に紹介されました!

  • インパクトのある短編が沢山詰まった物語。「妹の右目からビームが出て止まらない」や「こっくりさんと暮らして七十年になる」など。出だしで心捕まれる(笑)読み進めていく内、話は不穏な雰囲気になり怖くなる。小さい頃、ふと空想的に思い浮かべた怖い事柄が文章にされた感じ。世にも奇妙な気持ち。

  • 好きな表現がたくさんあって、何度でも読みたくなる。

    とくに好きなのは、
    「星を読まない」「こっくりさん」「狼」「かなでちゃん」「チェーンソー」「お墓」
    読むのが何度目でも、おみくじみたいにランダムな気持ちで挑む。
    出てくる人が楽しいと思ってることとか、信じてるルールとか感覚が響いて、親身な気持ちになる。事あるごとに、「助かる〜」(こっくりープーさん)って口に出して言いたくなったりする。
    骨や爪やチェーンソーなどの出てくるパーツもそうだけど、身体感覚が好きなんだと思う。

    お話を話してる主体が、若者だと思っていたらおじいさんだったりしてそんな風に小さく裏切られる。世代感覚を飛び越えたり移動したりして、何百年も生きてる人の気持ちになったりできる。
    この本のなかから掬い取れるような感受性が、何十、何百、何億光年先まで届いたらいいのに。届くと思う。

    とにかくめちゃくちゃいいし、おもしろいから
    みんな読んで!!!

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著者プロフィール

1992年生まれ。著書に小説『回転草』『私と鰐と妹の部屋』(書肆侃侃房)、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』第38回織田作之助賞候補作『おもろい以外いらんねん』(河出書房新社)、宮崎夏次系氏との共作絵本『ハルにははねがはえてるから』(亜紀書房)など。最新刊に初の長編小説『きみだからさびしい』(文藝春秋)、児童書『まるみちゃんとうさぎくん』(絵・板垣巴留、ポプラ社)がある。

「2022年 『柴犬二匹でサイクロン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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