TR-808<ヤオヤ>を作った神々 ──菊本忠男との対話──電子音楽 in JAPAN外伝

著者 :
制作 : 田中雄二  菊本忠男 
  • DU BOOKS
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784866471327

作品紹介・あらすじ

808 909 606 707 そして Roland、もしもこれらによって奏でる音がなかったとしたら、僕の音楽人生もなかったと断言できる。――石野卓球(電気グルーヴ)

1980年に発売された 日本製リズムマシン「TR-808」(通称:ヤオヤ)。
販売期間3年間でわずか1万2000台しか売れなかった装置は、後に海を渡り、80年代末に花咲くクラブシーン隆盛の中で、リバイバル評価を受ける。後続の「TR-909」、ベースライン用シーケンサー「TB-303」など、発売された姉妹機も、 楽器がジャンルそのものを生みだしていくきっかけとなった。

「TR-808」はエレクトロ、マイアミ・ベース、
「TB-303」はアシッド・ハウス、テクノ、
「TR-909」はハウス、ヒップホップ、ガバ、

発売元は大阪で創業した楽器メーカー、ローランド。
創業者の梯(かけはし)郁太郎は、たった一代で日本第2位の電子楽器メーカーに成長させた。今や世界の共通言語となった通信規格「MIDI」も梯が発案したもの。「MIDI」は、その後のDTM(Desk Top Music)、通信カラオケ、初音ミクブームなどを支える基礎技術となっていく。2003年にはこの発明による音楽業界の貢献を讃えられ、日本人個人として初めて、アメリカ最大の音楽祭、グラミー賞テクニカルアワード賞を受賞。

じつは、これらの発明は、基本的に1人のプロジェクト・リーダーから産まれた。
グラミー賞受賞時の梯のインタビューで、最大の功労者として名前を挙げられていたローランド大阪技術センター部長(当時)、菊本忠男である。「ミスター・キクモト」として海外では知られ、トリビュート盤も出る存在だが、これまで公式に雑誌インタビューを受けることがなかった。海外で制作されたドキュメンタリー『808』にも登場していない氏が、初めて「TR-808」「TB-303」「TR-909」の開発秘話を本格的に明かす。

本書は、累計1万3000部をセールスした、日本の電子音楽史を初めて綴った通史『電子音楽 in JAPAN』の20年ぶりの続編的歴史書でもある。日本のトップブランド、ローランド開発者、菊本忠男との対話形式で、前著の後の歴史である80年代末~今世紀までの、サンプリング、デジタル・シンセサイザー、ソフトウエア・シンセの歴史を集大成した。

菊本忠男(きくもと・ただお)
日本最初期のトランジスタ技術者の一人。41年大阪府生まれ、77年にローランドに入社し、プロジェクト「P8」セクションのリーダーとして「TR-808」、「TR-909」、「TB-303」などの代表機種を開発。世界的通信規格「MIDI」制定にも関わる。後に基礎技術開発室に移り、エルトン・ジョンが激賞した電子ピアノ「RD-1000」のSA音源、「D-50」のLA音源、COSMパラダイムによる「V-Guitar」から「V-Piano」までのVシリーズの開発に関わる。代表取締役社長を経て、現在はロボット工学、DSP研究者。

感想・レビュー・書評

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  • かなり読み応えがありました。タイトルにあるTR-808に留まらず、国内外の電子楽器の歴史がひととおり、網羅されています。
    かなりマニアックな内容なので、一部、難しいところもありましたが、電子楽器を使ったことのある人には、かなり有益な情報が掲載されていると思われます。

  • シンセサイザー、リズムマシン、サンプラーなどの電子楽器の世界において、日本が世界に誇る電子楽器メーカー、ローランド。その最高傑作がデトロイト・テクノはハウス、ヒップホップを生み出したリズムマシン、TR-808である。本書はTR-808の開発にエンジニアとして関わり、ローランドの社長も務めた菊本忠男へのインタビュー集である。

    TR-808の開発プロセスはもちろんのこと、TR-808と並ぶリズムマシンの名器TR-909やベースシンセサイザーTB-303、各種シンセサイザーの開発プロセスなどが語られており、電子楽器に興味があるユーザはもちろんのこと、日本のエレクトロニクス産業の歴史を語る上でも本書は面白い。

    例えば、まだ半導体の性能が低い中で、少しでもリアルなサウンドを生み出すための様々な工夫の一つとして、TR-808のキックのサウンドの参考にしたLinnDrumの分析は非常に面白い。非常に音質がよかったLInnDrumのサウンドをローランドの技術者が分析すると、キックの残響音も含めて1秒ほど持続しているように聞こえるが、実際は150msec程度であったという。つまり、これは人間の耳が自然に残響音を補ってくれるという性質を利用することで、メモリの容量を圧縮できる、という気づきを得た瞬間であった。

    また、ローランドの様々な業績の数々の中でも最も後世に与えたインパクトが大きいのは、異なるメーカーの電子楽器同士で演奏データなどを送受するための共通規格、MIDIである。こうした業界横断での標準規格はエレクトロニクスを始め、様々な産業での取り組みがあるが、その成功には様々な困難が伴う。そうした点で、制定された1981年から40年経った今でもMIDIが利用されているのは奇跡的という他ない。本書で語られる当時のメーカー間の交渉のエピソードなどを含めて、極めて貴重である。

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著者プロフィール

週刊誌副編集長、書籍編集者を経て、現在は制作会社の映像プロデューサー。大野松雄、TM NETWORKドキュメンタリーなどを構成。ノンフィクションライターとして、『電子音楽 in JAPAN』(アスペクト)、『昭和のテレビ童謡』、『エレベーター・ミュージック・イン・ジャパン 日本のBGMの歴史』、『TR-808〈ヤオヤ〉を作った神々』(以上、DU BOOKS)、『AKB48とニッポンのロック 秋元康アイドルビジネス論』(スモール出版)ほか執筆業も。YMO関連では『カルトQ』の「YMOカルト」(93年/フジテレビ)のブレーンを務めたほか、各メンバー10時間ずつ取材したロングインタビュー集『イエロー・マジック・オーケストラ』(アスペクト)、『松武秀樹とシンセサイザー』(共著、DU BOOKS)、細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏のCDライナー、冨田勲追悼公演のパンフなどオフィシャル印刷物にも寄稿している。

「2022年 『シン・YMO イエロー・マジック・オーケストラ・クロニクル1978~1993』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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