恐怖博物誌 (ふしぎ文学館)

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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784882930853

作品紹介・あらすじ

兄嫁の望を、斧で惨殺する悪夢に驚いて、午睡から覚めた真次の眼の前に、夢とまったく同じ望の死体が転がっていた。はたしてあれは現実だったのか、それともこれも夢なのか…とにかく死体を隠さなければ。貧しい農村で起った奇怪な殺人事件を幻想味あふれる筆致で描き、第9回日本推理作家協会賞を受賞した名作「狐の鶏」をはじめ、「猫の泉」「鵺の来歴」「ねずみ」「月夜蟹」など、短篇の名手が動物に材を取った恐怖ミステリの連作・全12話。著者の代表的傑作群に、単行本未収録「熊」を加えた決定版。

感想・レビュー・書評

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  • 動物を題材にした恐怖ミステリー集。

    【狐の鶏】
    復員したシンジ(真次)は、戦死した兄の嫁のモチ(望)と結婚する。
    シンジはモチが嫌いだ、次男だから自分を疎ましく思う母のテツが苦手だ。
    シンジはモチを殺すことを夢想する。
    そしてある日昼寝から醒めたシンジの目の前に横たわるモチの死体…

    戦後百姓の暮らしは良くなったとはいえ、農家ではセナ(長男)は絶対者であり、オジモン(次男以下)は相続もない大部屋暮らし。
    海上は占領軍の演習区域のため漁だけで生きてきたものは暮らしがたたなくなっている。

    作者の疎開先という千葉の方言と、戦後の貧しいものの暮らしが臨場感たっぷりに描かれる。説明されるのではなく、「あんが、できるもんでよ。どっから弾が飛んでくるかわかんねべさ。大砲どかどか打ちっぱなされちゃ、魚どんだっておっかねもん、寄ってこねえべや」「畑さ荒らしたなニシだな。あじとして他人の畑さ掘るだ!」というような口調から漂ってくる。

    まあこんな方言丸出しの貧乏田舎の警察なんて通り一遍の捜査しかしないだろう…と思いきや、「あの女(※殺害された被害者)、あれはリザベータ・イワノーブナじゃねえですかな。罪と罰って小説に出てくるですだ」「ああ、あの金貸し婆さんの妹だかで者のはずみで殺される女かね」なんて会話がさらっと交わされて不意打ちくらった、しかも人間心理をさらっと言い当ててかなり優秀だぞ千葉警察(笑)。

    なんだかすごい短編を読み始めた気がする。

    【東天紅】
    親戚を訪ねて訪れた土地で耳にはさんだ殺人事件。
    その関係者と特徴の合う女と知り合った私は、殺人の真相を夢想する…。
    「私の東京の暮らしも決して楽ではないが、田舎の貧しさというものが、腹の底に沁みとおるような惨めな感じで迫ってきた。おそらくその女は心身ともに量りきれぬ苦労を毎日耐え忍んでいるに違いなかった」P51
    幻想的かつ現実的、恐怖と同情の入り混じった短編。

    【鵺の来歴】
    同じ人間を二度殺すことは出来るのか…、探偵小説家に語る男の昔語り。
    消えた女とその情夫、鵺の絵の示す暗号…。

    【オウボエを吹く馬】
    新婚の屋敷で起きる奇妙な出来事。1本なくなる薔薇の花、庭から聞こえるオウボエ、窓からのぞく馬の首。そしてついに殺人が…

    怪奇を装った殺人事件かと思いきや、その背景に物悲しい話が。

    【蝶のやどり】
    閉め切った部屋に入り込む虫、病の妻を覗きこむ夫、彼は私を殺そうとしているのか…

    【からす】
    死者を思い起こさせ、死臭をかぎ分けるその男はカラスのように小さなバーに座っていた…

    【犬の生活】
    女優の家で殺された若手女優。
    一見奔放だが深い愛情を求める女と、見るからに純情だが利用するべき”女”を持っている女。
    犬役の俳優と猫役の女優。
    犬の世界が人の世界より住み辛いと言うことがあるのだろうか?

    【熊】
    山で殺された老人。その切り傷は人食い熊の仕業か。
    野生そのものである熊を本当に見たことのある人間はいるのか。

    【猫の泉】
    動物写真家が訪れたフランスの忘れ去られた町、ヨン。取り残された数十人の町人、枯れた泉に集う猫たち、そして奇妙な言い伝え「この町を訪れた旅人の10人ごとに鐘の予言を聞く」
    写真家は鐘の啓示を感じられるのか。

    【ねずみ】
    駐屯中の兵士と、人妻との不倫。
    押し付けられた生活の中で何か変化が生じたら、たとえそれが妖怪の仕業であっても利用しようとするのだろうか。しかしただの人間にそれをこなすことは出来るのか。

    【王とのつきあい】
    運なんてどこにあるか分からない。
    友人から預かった王蛇が導く幸運と悪運。

    【月夜蟹】
    田舎の町で蟹と暮らし蟹の絵を描く画家。
    牽制し合う蟹の化身と蛇の化身。

    【天王寺】
    作者が、恐怖博物誌を書くためにその中に出てくる五種類の動物を使った掌編。書けるかな~と思ったけど、やってみたら書けたよ。

    【夢ばか】
    作者が動物にちなむ思い出と夢を綴った掌編。実際の思い出なのか夢なのか定かでない、ということだが、作者の文体が夢か現か入まじったものなので、小説を書くのと同じように思い出を語っている。

  • ふしぎ文学館/日影丈吉。「猫の泉」が読みたくてこの本を選んだ。日影丈吉傑作館の「吉備津の釜」もお勧め。

  • 動物に材を取った恐怖ミステリの連作集。これは凄いと一息に引き込まれる作もあれば、読んでいるうちに退屈を感じるような品もあり。手放しに称賛、とはいきませんでした。
    とりあえず、気に入った幾つかの作品は…
    『狐の鶏』 真夏の農村で起こった殺人事件を扱った推理モノ。台詞回しが些か読みにくいモノの、主人公の焦燥感・クライマックスに向けての緊迫感は見事なモノでした。あと、娘の光子さんの頑是なさが恐ろしい。
    『猫の泉』 南フランスの辺境を舞台とした幻想小説。静かに滅びつつある村に伝わる奇妙な言い伝え。神秘的な猫の群れ。時計塔の上で告げられる予言。そして唐突に訪れる終焉。怖いとは思わないし、ミステリとも言いにくい。でも読み終えた後の余韻が心地よいお話でした。

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著者プロフィール

日影 丈吉(ひかげ・じょうきち):1908年、東京都生まれ。小説家、翻訳家、料理研究家。アテネ・フランセ卒業。フランス語教師および料理研究・指導者等を経験したのち、49年『かむなぎうた』で作家デビュー。56年『狐の鶏』で日本探偵作家クラブ賞、90年『泥汽車』で泉鏡花文学賞を受賞。91年没。

「2024年 『ミステリー食事学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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