大発掘

  • 青林工藝舎
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784883791392

感想・レビュー・書評

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  •  近年再評価著しい、「日本のオルタナティヴ・コミックの第一人者」たる辰巳の復刻短編集。2003年に刊行されたものだが、収録された13編はすべて1970年代(おもにその前半)に描かれたものだ。

     辰巳のこの時代の短編というと、私は小学館文庫から出ていた2つの短編集(『コップの中の太陽』と『鳥葬』)を昔読んだことがある。これは傑作揃いだったが、いまでは入手困難であるようだ。ただ、この『大発掘』の前に出た『大発見』という復刻短編集は、名作「グッドバイ」など、何編かが『コップの中の太陽』『鳥葬』の収録作品と重なっている。

     この『大発掘』は、『大発見』の落ち穂拾いというか、あの本に入らなかった短編を集めたもの。収録作の大半は、これまで単行本未収録であったという。

     絵はいかにも「昔の劇画」という感じで古臭くて野暮ったいし、ストーリーはどれもむちゃくちゃ暗くて救いがない。あとがきで辰巳自身が書くとおり、「臆面もなく選りによって、よくもこんな暗い作品ばかり羅列したものだ」という感じの一冊である。

     だが、収録作のうち何編かは心に突き刺さるような凄みのある佳編で、「よくぞ発掘してくれた」と版元に感謝したい気持ちになった。

     主人公たちの大部分は、いまでいう「負け組」もしくは「非モテ」。さもなければ、重い十字架を背負ったような過去を持ち、半分死んだようになって生きている人物である。彼ら彼女らが社会の底辺で這いずり回り、のたうち回るさまは、むしろいまの時代の気分にこそしっくり合う。
     「地獄」「念仏レース」「地下道ホテル」「手のひらの街」「娼婦の戦記」の5編はとくに傑作だ。

     どれほど暗いか、例を一つ挙げる。

     「地下道ホテル」は、地下鉄の地下道で暮らすホームレス(という呼び方は当時まだ一般的でなく、「浮浪者」と表記されている)たちの物語。
     ホームレスの一人は、ゴキブリに「アケミ」という名前をつけて飼っている。それが生き別れた娘の名であることを、ある日、仲間のホームレスは知る。
     「ゴキブリのオッさん」と呼ばれるそのホームレスが病死したとき、仲間は彼の娘にそれを知らせようとする。だが、やっと見つけた娘は、ようすのいい若い男と仲睦まじく話をしていた。仲間は声をかけられず、その場に崩れ落ちて涙する。
     ……とまあ、そのように暗い話ばかりなのだが、しかししみじみとよいのである。 

  • 大発見に比べて大味だし、雑なオチが多いけれど!ほんとぶん投げてるそれやりたかっただけやろ!みたいなんばっかやけど!それが愛らしさを感じてしまうほどに親しみやすく感じる。めっちゃおもろい。サルの求愛のやつと慰安婦のやつ、念仏レースが大好き。地下道ホテルのゴキブリに名前つけて餌あげるために奔走するやつ、底辺すぎるやろって思った。でもそれが「親しみ」に繋がっている。

  • 戦後、昭和。
    俺はこういう時代背景が好きなんだろうな。

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著者プロフィール

1935年大阪生まれ。漫画家。中学で手塚治虫に傾倒。高校2年時の作品「こどもじま」でデビュー。54年、大阪日の丸文庫に持ち込んだ「怪盗紳士」が採用となり、以後、主に日の丸文庫で活躍。従来のマンガに比べリアルな表現を追求、57年暮れ、その手法を「劇画」と名付ける。60年代後半にはメジャー雑誌を巻き込んだ「劇画ブーム」が起こるが、一方で本来の意味を失った「劇画」に幻滅。社会の底辺を描いた短編連作を手がけるようになる。これらの作品は発表当時こそ大きな反響はなかったものの、近年は国内外で評価され、仏アングレーム国際BDフェスティバル遺産賞、米ウィル・アイズナー賞、日本の手塚治虫文化賞大賞など受賞歴多数。主な著書は『劇画大学』『劇画漂流』など。

「2014年 『再び大阪が まんが大国に甦る日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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