喋る馬(柴田元幸翻訳叢書|バーナード・マラマッド) (SWITCH LIBRARY 柴田元幸翻訳叢書)

制作 : 新井 敏記 
  • スイッチパブリッシング
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感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784884182892

感想・レビュー・書評

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  • 何もかも失い尊厳さえ奪われ、時には命までも、という理不尽な体験の中で、神や信仰とどう向き合えば良いのか。個人としてどう在れば良いのか。という主題の様々な変奏。
    かわいい表紙に惑わされて読めば地獄で這いつくばってのたうち回った後、放り出されます。

    そして、生きる事の重みと冷たさと温かみがずっしり残って来るのですが。

    人はいつでも気付かずに差別・迫害・利己主義・不寛容の当事者になるのです。する側にも、される側にも、魔法の様にクルっと裏返って。ほら、今も。

    表題作で、ラジオから流れる物語として挿入される悲しい話はチェーホフ『ふさぎの虫』であると指摘しておきます。
    不条理劇風の「手紙」も、チェーホフ的主題を2〜3盛り込んでいるし(「六号室」「ワーニカ」など)、全体にチェーホフからの影響と愛が溢れている。

    どれも珠玉の傑作。私は中でも「最初の七年」が好き。完璧な短編だと思う。(やっぱりチェーホフの「いいなずけ」と比べたくなるなァ)

  • すっごく良かった!ユダヤ難民とその周辺の人物たちを描いた作品が殆どで、その背景には勿論ホロコーストの影がある。それでも、貧困にあえぐ、異国の地で母語を失い絶望する、というだけの暗い話ではない。どの短編も淡々と人々の決して豊かでも楽でもない暮らしを描いているのに、どこかユーモラスで、ほの明るい。今まで味わったことのないような読後感。それは彼らが、薄っすらでも信じ続けた希望の光なのかもしれない。

    特にお気に入りは、「ユダヤ鳥」(これは宮沢賢治のよだかの星を思い出したなぁ)、「ドイツ難民」「悼む人たち」「天使レヴィーン」「最後のモヒカン族」。

    どれも素晴らしかった!名作。

  • どの短編にも、この世界には身を置くところがなく、迫害や苦しみから身を守るものを何ももたないと感じている人物が出てくる。かれらは見るからにみすぼらしく、ときには人間の姿さえしていない。かれらは同胞にとってさえ、たかり屋の厄介者である。国家に裏切られた多くのユダヤ人難民たちが拠り所とした「知性」さえも、かれらを疎外するばかりだ。
    このような存在ばかりを描いた作品集が、なぜ、こんなにも美しいのだろう。かれらには何か、その存在を前にした者たちに、身を投げ出すことを強いるようなところがあって、それはもしかするとユダヤ思想の「神」に通じるのかもしれないのだけれど、物語の寓意がよく理解できないとしても、ただそこにある美しさを感じとればいいのかもしれない。

    といった感想をだらだら書くより、「訳者あとがき」で柴田元幸さんが引用しているフィリップ・ロスの批評が実に的を得ているので、ここにも書き写しておこう。

    ロノフ(マラマッド)の文章の多様性の欠如、関心領域の狭さ、つねに厳しくはたらかせている抑制、そういったものは、物語の含蓄を内側から崩してしまったり、衝撃を弱めたりするどころか、むしろゴングにも通じる、なんとも不思議な反響を生み出しているのだ。その反響を通して、かくも多くの重々しさ、かくも多くの軽やかさが、かくも小さなスペースの中で、すべてを懐疑せずにはおれぬ精神と結びついている。

    最初の七年|The First Seven Years
    金の無心|The Loan
    ユダヤ鳥|The Jewbird
    手紙|The Letter
    ドイツ難民|The German Refugee
    夏の読書|A Summer's Reading
    悼む人たち|The Mourners
    天使レヴィーン|Angel Levine
    喋る馬|Talking Horse
    最後のモヒカン族|The Last Mohican
    白痴が先|Idiots First

  • (ユダヤの教義に明るければ、より理解が深まるかもしれないけれど)宗教や人種に関わらず、持たざる者の生き方、信じるものとの折り合いの付け方を描いた話が多かったと思う。
    読みながら、某アーティストの過去のツアータイトル"Laughter in the Dark" が浮かんだ。

    掲載順では、「ドイツ難民」のあとに「夏の読書」がくるのが何とも言えない…

  • 登場人物が皆さん崖っぷちの危機に立っている人たちです。他人にもっと思いやりたい、親切にしたいが自分のことで精一杯だということが伝わってきます。かなしい気持ちになるんあだけど、だんだん面白さがわかってくる感じです。

  • 短編集13編
    ユダヤ人の信仰が深いところで息づいていて,おかしな不条理さがさも当たり前のような形で示される.とても変なのだが真面目におかしい.「最後のモヒカン族」が良かった.

  • とても繊細ですきな空気

  • 読んだことのない感じ。短編なのに読むのがしんどくなったり、かといって読み終わるともっと読みたくなったりした。

  • ユダヤの被害者意識が反映されている作品かと思ったが、どうやらそうではない。ユダヤ人か否かは関係ない。自分の中に救いを見いだす葛藤と、はたしてその一見救いに見えるものに意味はあるのかという問い。

  • 「夏の読書』は以前読んだことがあるような…。読書が少年の未来に光を与えてくれるんだろうか。「ドイツ難民」は胸を衝かれた。

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著者プロフィール

1914-1986。ユダヤ系ロシア移民の子としてニューヨークのブルックリンに生まれる。学校で教えながら小説を書き、1952年、長編『ナチュラル』でデビュー。その後『アシスタント』(57)『もうひとつの生活』(61)『フィクサー(修理屋)』(66)『フィデルマンの絵』(69)、『テナント』(71)、『ドゥービン氏の冬』(79)『コーンの孤島』(82)の8作の小説を書いた。また短編集に『魔法の樽』(58)『白痴が先』(63)『レンブラントの帽子』(74)の3冊があり読者は多い。

「2021年 『テナント』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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