易と人生哲学 (致知選書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784884741648

感想・レビュー・書評

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  • 安岡正篤が1977年5月~1979年1月にわたって当時の近畿日本鉄道株式会社にて行った講義を刊行したもの。
    当時の世情に沿って語られる部分は、その時を経験した人にとっては易の思想を生き生きとイメージすることができ、より深い理解につながるだろう。
    講義形式であるゆえ、また安岡氏も繰り返し述べているように「易は習い始めが一番大切」であるゆえ、
    同じ話(特に易の根本義部分)が何度も語られる。
    しかしこうして何度も語られることによって、西洋的な論理では捉えられない思想が少しずつ己に沁みこんでくる感じがする。
    易に初めて触れる人にとっても、入門として良い内容だと思う。私自身、一度通読しただけではわからない部分も多かったが(特に六十四卦の部分)、レビューを書くために内容をまとめながら読み進めたところ、随分と理解が進んだように思う。本書によって、正しく易を学んでいくための「第一歩目」を踏み出すことができた。

    「易」は東洋において最も古い思想学問であるが、時代が下るごとに通俗化・民衆化し、
    「易占い」などといわれて学問的意義からは遠ざかってしまった。
    「大安は吉日、仏滅は凶日」というのは易が暦を通じてさらに通俗化し、邪説に陥った例である。

    易はその根源にさかのぼってみると、人間世界の統計的研究であるといえる。
    中国時代の民族が周の時代に黄河流域で農耕生活を始めるようになり、
    四季の変化やそれに適応する手段の研究も発達した。
    したがって、易は民族が極めて長い歳月を通じて得た統計学的研究とその解説といって間違いない。

    「易」という文字には「変わる」「変わらない」「変える(創造する)」という3つの意味がある。
    「変わる」というのは変わらないことがあって初めて変わるものである。
    したがって「変わる」ことは同時に「変わらない」ことを意味する。
    そして「変わる」「変わらない」を前提とし、その変化の原理原則を探求して意識的に変えていく・創造していく。
    これが易の三義である。

    よく「運命」という言葉が、特に占いなどで使われる。
    運命の「運」とは「動いてやまないもの」という意味であり、
    「命」とは命(いのち)を含む天地創造の絶対的作用、絶対性、必然性をあらわす。
    通俗的な「生まれ持った・決まりきった」という意味では「宿命」という言葉が適当である。
    「宿」は「活動を停止する・休止する」という意味があり、すべてが決まりきっていると考えるのが「宿命」である。
    本当の運命とは、変化してやまない世界の法則を知りそれに従って自主創造していくべきものであって、
    この創造の作用を「立命」という。
    運命は命の総称であるため、運命のなかに宿命と立命があると考えてよい。
    とかく人々は宿命観に陥りやすく、宿命の内容を調べることに興味をもって、通俗易が流行することになる。
    しかし本来は、あくまで自分の運命を創造する「立命」が本筋である。易学は立命の学問である。

    命とは絶対性をあらわすが、そのなかに「数(すう)」がある。
    数(すう)は命・生命の中にある神秘的な因果関係のことをいう。
    数(かず)は数(すう)のひとつであるが、数(すう)のすべてではない。

    易を理解するためには陰陽五行の理解も必要である。
    陰陽五行は易同様、長い生活の実習から帰納された統計学的理論である。
    陰と陽は相対すると同時に相待つ、陽は陰を待って初めて陽となり逆もまたしかり、陽があって初めて陰が生き陰があって陽が生きる。
    陽は発現・分化・活動の性質、陰は統一・含蓄・根本の性質、そしてこれらを統一発展させるのが「中」である。
    (論理学でいうところのSyntheseが「中」、Aufhebenが「中する」)
    五行は木、火、土、金、水の五つで、「行」は活動を意味する。
    これらは木そのもの、火そのものではなく、あくまでシンボルであって、天地の創造や変化の作用を分類したものである。
    五行には相生相剋論というものがあり、相生とはそれぞれ木が火を生じさせ、火が土を生じさせ、と続き
    木→火→土→金→水→木が相生関係となる。
    相剋関係は木が土を搾取して成長するから木は土を剋する、同様に土は水を剋する、と続く。
    五行を五角形に配置した時、五芒星が描けるのが相剋関係である。
    五行は漢方にも応用されている考え方である。

    ここで太極から六十四卦ができるまでについてまとめたい。
    【太極】は陰陽の統一原理、全であり、一であり、絶対である。
    なのでまず太極から陰と陽が分かれる。陽は符号「-」で示され、陰の符号はこれの中央が切れた形である。
    陰と陽はそれぞれ陰陰、陰陽、陽陽、陽陰に分かれ、これを【四象】という。
    陰陰を老陰・冬、陰陽を少陽・春、陽陽を老陽・夏、陽陰を少陰・秋とする。
    これらをさらに陰陰陰(老陰+陰)、陰陰陽(老陰+陽)、陰陽陰(少陽+陰)、陰陽陽(少陽+陽)と分けていくと【八卦】となる。
    八卦はそれぞれ地、山、水、風、雷、火、澤、天の八つである。
    この八卦を二つずつに組み合わせると【六十四卦】ができあがる。

    卦を符号で表すと、例えば天と天(乾為天)は以下のようになる。
    ー【上爻】※爻(コウ)
    ー【五爻】
    ー【四爻】
    ー【三爻】
    ー【二爻】
    ー【初爻】
    上・五・四爻をまとめて【外卦】、三・二・初爻を【内卦】という。

    また二・三・四爻、三・四・五爻を【互卦】といい、交錯するという意味である。
    例えば、上が天で下が火(天火同人)は二・三・四爻が陰陽陽で風となり、三・四・五爻が陽陽陽で天となる。
    これは上が天で下が火となり、「天風姤」という互卦をもっている、ということになる。

    この上下を逆にした関係を【綜卦】という。
    上が天、下が火(天火同人)でいえば上が火、下が天で「火天大有」が綜卦である。
    そしてこれらの陰陽を逆にしたものを【錯卦】という。
    乾為天(陽陽陽陽陽陽)の錯卦は陰陰陰陰陰陰の「坤為地」である。

    六十四卦は上経三十卦、下経三十四卦に分けられる。
    上経の「乾為天」に始まり下経「未済」にいたるまで、この配列というのも重要な意味を持つ。
    これらは漫然と並べられているのではなく、内面的に統一した原理原則のもと配置されている。
    上経はやや理論的・抽象的だが、下経はより具体的・実践的である。

    さて「易」には「おさめる(修・治)」という意味もある。
    運命を自ら創造し立命する、またそれに従って人を観察し、指導して人材を養成する学問研究も発達しており、
    そのなかに八観・六験というものがある。
    八観とは8種類の人間観察法である。
    1、役職を得たとき、何を礼拝・尊重するか
    2、地位が上がったとき、何を進めるか(上達させようとするか)
    3、金ができたとき、何を養うか
    4、他人の善言を聞いたとき、どのような行動をするか
    5、あるところまで至ったとき、何を好むか
    6、習熟したとき、どういうことを言い出すか
    7、金がなくなったとき、何を受け取らないか
    8、賤しくなったとき、何をしないか
    六験は6種類の人間検査法である。
    1、喜ばせて、どれだけ守るところがあるか(だらしなくないか)をみる
    2、楽しませて、(思想や見識が)かたよることがないかをみる
    3、怒らせて、その節(しまりかた)をみる
    4、恐れさせて、その自立性をみる
    5、悲しませて、その人となり(慈悲があるか)をみる
    6、苦しませて、その志をみる
    八観・六験は『呂氏春秋』という書物にある言葉で、他に六戚・四隠がある。
    六戚は父母兄弟妻子の実態と和不和、四隠はどんな友人と付き合っているか、
    どういう古いなじみがあるか、どういうところに住んでいるか、どういう構えをしているか、である。
    これらをみるとどんな人間でも正体が露見するという。

    易の説くところによれば、人生と自然に行き詰まりというものはなく、
    永遠の創造であってわれわれの存在、生活、人生を日々新たにしていくということである。
    易をよく学べば、精神的に行き詰まるということもなくなる。
    易占いの普及というのも、要するに本当に自覚と信念をもって生きている人が少なく、
    みな自分の人生や自分の存在というものがはっきりしないからではないだろうか。
    易の根本義を正しく理解し、正しい易学をやることで、正しい義命がわかる。
    それに従って立命をすることができ、運命を正しく発達させていくことができるのである。

  • 本書を読むまでは易経とは占いとばかり思っていたが、人間学・人物学であると認識が改められた。
    本書を入門として、今後ますます易経を学びたいと思わせてくれる1冊だった。

  • 運命とはたえず流れ変わっていく

    変えられない・変わらないものは宿命

    自ら立って変えようとしていくのは立命

    易学は変えられない宿命を観ることではなく、自ら立命を切り拓くためのものである。

  • 【2015/8/5】
    紹介者:りかさん
    レビュー:米山

    米山のマイブームの「易」をおす流れの紹介!
    義父の部屋に置いてあったようで、読んでみてるのだとか。
    最近「易」が気になる。

  • 運命とは宿命にあらず、立命とすべし。易経の入門書だが、その深さが十分感じられ、しっかりと学ぶ必要を感じた。

  • 易とは占いだとばかり思っていましたが、自分の人生をどう生きるかということのほうが大事なんですね。世間一般に言われていることがいかに間違っていることが多いかを示すよい例です。相剋だからどう、というのはよくわからないのですが、易とはなんぞや、と思ったときに、最初に読むべき本なのでしょうね。

  • 易経を学ぶにあたっての先導役として位置づけされた講話をまとめたもの。
    平易な言葉で基礎の基礎を繰り返してあり、大変わかりやすい。
    東洋哲学を学ぶと易にたどりつくという。運命は自然の法則に従ってみずからの力で変えていくものだ。
    それが立命だ。
    春夏秋冬、自然が滞りなく造化するように、われわれはその生涯をつねに新たに創造していく。
    これが易の根本精神であるという。
    初めて易経に触れた。はじめの第一歩である。、

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著者プロフィール

明治31年大阪市に生まれる。
大正11年に東京帝国大学法学部政治学科を卒業
昭和2年に金鶏学院を設立。
陽明学者、東洋思想家。
終戦の詔の起草者の一人。
昭和58年死去

著書
『易學入門』『全訳 為政三部書』『東洋思想と人物』『暁鐘』『王陽明研究』『陽明学十講』『朝の論語』『東洋学発掘』『新編 経世瑣言』『新憂楽志』『老荘思想』『古典を読む』『人物・学問』『光明蔵』『政治と改革』『古典のことば』『この国を思う』『儒教と老荘』『旅とこころ』『王陽明と朱子』『人間維新Ⅲ』『憂楽秘帖』『明治の風韻』『天子論及び官吏論』(明徳出版社)

「2000年 『人間維新 III』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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