ジェーンとキツネとわたし

  • 西村書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (95ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784890139590

作品紹介・あらすじ

仲間外れにされている5年生のエレーヌは、悪口を落書きされても、からかわれても、いつも大好きな本『ジェーン・エア』を読んでやり過ごしていた。あるとき、しぶしぶ参加した学校の合宿に青い目のジェラルディーヌがあらわれ、小さな変化が訪れる――。
少女の揺れ動く心をみずみずしく描くグラフィックノベル。カナダ総督文学賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 私はちょっと太ってる。まるでソーセージみたい。でなければフットボール。でなければジュースのびん。でなければブタの赤ちゃん。私には友だちがいない。

    エレーヌは思春期特有のコンプレックスをいっぱい抱えた女の子。内気だけれど、ごく普通の女の子だ。でもエレーヌはいつもひとりぼっち。学校では「あの子」たちがエレーヌの悪口を言ったり、落書きしたりしていて、どこにも居場所がない。お母さんはエレーヌと弟たちに精いっぱいの愛情を注いで、一人で一生懸命に子どもたちを育ててくれている。けれどもそのためにお母さんが疲労困憊していることを、エレーヌは感じとっている。彼女は想像してみる。みんなが寝静まった夜中に、思わずだれかに聞いてほしくて、お母さんが声に出して言ってしまったことを。「ああ、もう疲れて死にそう」。家にお父さんの気配はない。学校でいじめられていることを、お母さんに言うことはできない。

    物語をみちびくのは、エレーヌの心の声。そこに合わせられたモノトーンのイラストが、暗く沈んだエレーヌの日常を表現している。
    ところどころカラーのイラストが数ページ挿入されている。それはエレーヌの大好きな本、『ジェーン・エア』の世界。読書の世界に閉じこもっていると、つらい日常を忘れることができるから。もう一つ、エレーヌの世界に彩りを与えてくれたのは、林間学校中に自然の中で出会った野生のキツネだった。「はじめまして。」と言ってるみたいなまなざしの、やさしい目をしたキツネに、エレーヌの胸ははりさけそうになる。「それならわたしも、きみに心を開くよ、ほんとうに。」
    まわりはモノクロのイラストの中で、このキツネだけがぽつんと一匹、カラーで描かれている。


    「いじめ」の問題は世界共通。「いじめる側」の心は残酷なまでに想像力が欠如しており、「いじめられる側」の心は身を守るためにどんどん固く閉ざされてゆく。「いじめられる」ことに慣れ過ぎてしまうと、「いじめる」奴らの言う事が本当は正しいのではないか、という錯覚に陥ってしまう。「エレーヌは体重100キロ」とか「エレーヌは臭い」とか言われ続け、現実に自分は太っていると思い込んでしまっているエレーヌのように。「いじめられる側」が自信を喪失し、自己嫌悪に追いつめられていくメカニズムがよく描かれている。

    エレーヌが自分の殻をやぶっていくラストに、ホッと胸をなでおろす。
    「かわいそうだと思われるのはいやだ」という強気な女の子は、もう気づきはじめていた。「自分が気にしなければ、悪口は悪口でなくなっていくと。」
    キツネではなくて気のおける友人、青い目をした女の子ジェラルディーヌの出現に、エレーヌの日常は再び色彩に満たされてゆく。
    一冊を通して、木々や草花といった植物のイラスト描写が幻想的で素晴らしく、ポエティックな作品に仕上がっている。

  • カナダのアーティストによるグラフィックノベル。主人公の少女は、学校の友人たちに溶け込めず、自分に自信が持てず、いつも「ジェーン・エア」を読んで逃避している。夏季合宿で彼女にひとつの転機が訪れるという話。やさしい絵柄が印象的。逃避する小説世界は色鮮やかに、そして現実は常に灰色で描かれる。その中に現れる芽吹き。

  • 「仲間外れにされている5年生のエレーヌは、悪口を落書きされても、からかわれても、いつも大好きな本『ジェーン・エア』を読んでやり過ごしていた。あるとき、しぶしぶ参加した学校の合宿に青い目のジェラルディーヌがあらわれ、小さな変化が訪れる――。
    少女の揺れ動く心をみずみずしく描くグラフィックノベル。カナダ総督文学賞受賞作。」

    わかりにくい表現もあったが(カナダのフォークソング、甘草入りのグミ、「バ・ダ・ブーム」??)、惹きつけられた、もう一度読みたいと思う箇所がいくつかあった。
    「あ、この時のエレーヌの気持ち、表情・・わかる・」
    と思うシーンがいくつかあった。
    そしてまた、わからないこともあった。「太い」「臭い」とクラスメイトに言われたら、自分自身が本当に太いと思い込んでしまうこと。「太ってます。わたしはソーセージみたい。でなければ、フットボール。でなければ、ブタの赤ちゃん。フォークが刺さったクッション。男子はみんな逃げていくし、キツネも逃げていく。」あぁ、こんな風に思ってしまうのか。
    忙しくやつれた母親に、抱き着いてキスをしたいと思ってもしないし、何も相談しないこと。
    わからない、でも、エリーナの心を知りたい、ずっとこの本を読んでいたい と感じる。丁寧に描かれていて、エリーナの心の中がのぞけるのが良い。
    ・日常が灰色で、本の世界や想像の世界、そしてキツネの存在はカラーで表現されているのが印象的。
    ・日本でも、外国でも、悩みは一緒だな。いじめも世界中であるのだな。

    印象に残ったセリフメモ:
    「わたしには、ツタみたいに伸びていく想像力があるのに、あの子が考え出す新しい悪口には、いつも不意をつかれる。そして毎回同じ目にあうーまたひとつ、胸のなかに穴があくのだ。ぜんぶ聞こえてしまうから。なにも聞きたくないのに。」
    「人が生きていくには戦術というものが必要なときがある。ジェーン・エアの場合でも。」

    絵や文にひかれるようで、小5の娘も小2の娘も何度もめくっては読んでいた。

  • 仲間外れにされ悪口を落書きされからかわれるエレーヌ。苦しい時はいつも大好きな本『ジェーン・エア』を読んでやり過ごす。思春期。狭い世界の人間関係。内に閉じたモヤモヤした感情。そんな日々でもほんの小さなきっかけが白黒の暗い世界を鮮やかな世界に一変させてくれる。大丈夫だって言いたい。グラフィカルなコミック的な描き方で素敵な世界観。

  • 学校で孤独な思いをしているわたしは、辛いことから逃れるように、ジェーンエアを読む。学校の合宿で、あることをきっかけに友だちができる。
    白黒だった世界がだんだんと色鮮やかになっていく。イザベルアルスノーのイラスト。

  • ジェーンがジェーンエアのジェーンだったのは嬉しい驚き.私の成長物語.キツネくんの登場はほんの少しだけどオレンジ色が際立っている.そもそも,モノクロの絵本(最後の数ページを除いて)の中で色のあるのはキツネくんと物語ジェーンエアだけなのも私の心の風景を表しているようだ.
    絵も文も素晴らしかった.

  • 絵:イザベル アルスノー
    文:ファニー ブリット
    訳: 河野 万里子
    「ジェーンとキツネとわたし(2015)」を読了。 傑作。

  • これは絵本と言うより絵物語。「シェ―ン・エア」の話が出てくるのですが、関係がよく分からない?終わりが近くなって「クイズ、アヒル。あ、昼だ。」のジョ―クが出てきてやっとはまって来ましたね。ジェラルディーヌが現われて来てくれてエレーヌは救われました。ほっとしました。

  • さっそく先だってのYAブックガイドから。ちなみにこれは、特にチョイスしていた訳じゃないんだけど、図書館でふと見かけたから、何ともタイムリーに思えたため、目を通してみた次第。そんなに好きな絵でもなく、内容も取り立てて絶賛するところは特になし。可もなく不可もなし作品。


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著者プロフィール

ファニー・ブリット……作家、翻訳家。約10作の戯曲、15作以上の翻訳があり、翻訳では英国、アイルランド、アメリカ、英語圏カナダの現代作家の作品に取り組む。本作でカナダ総督文学賞を受賞。現在、初の長編映画の脚本を執筆中。

「2015年 『ジェーンとキツネとわたし』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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