文士の逸品

著者 :
  • 文春ネスコ
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本棚登録 : 17
感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784890361366

感想・レビュー・書評

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  • 19世紀後半の夏目漱石から20世紀最後の永田耕衣・東君平あたりまでの100人近い文士の逸品の写真を左ページに、略歴・エピソード・逸品の話の文章を右ページに載せたもの。白黒の写真が素晴らしい。底光りをするような黒と雄弁な灰色と白。逸品の存在感をじわりと味合わせてくれる。簡にしてつぼを抑えた文士の内面に迫る文章もいい。
    「中勘助の匙」小説そのままのものが残されている。
    「萩原朔太郎のギター」マンドリンだけでなく、ギターの腕もよかったそうだ。
    「宮澤賢治のチェロ」資産家の家に生まれたこそ買えるもの。クラシックのレコードも片っ端から購入したそうだ。
    「中原中也の空気銃弾ケース」洞窟や林の中で撃っていたそうだ。あの容貌からは想像もつかないが。
    「太宰治のマント」いかにも太宰治の物という感じ。
    「立原道造の製図用具」建築家としても嘱望されていたそうだ。婚約者との新居も自分で設計していたのに。
    「泉鏡花の兎の置物」金沢の自分の干支から7番目に当たる動物を集めると出世するという言い伝えから集めていたとか。なかなか可愛い。異常なほど清潔にこだわった人。
    「芥川龍之介のマリア観音像」いかにもこの人らしい。
    「立原正秋の包丁」吉兆の板場にまで乗り込んで注文をつけたとか。堺包司の包丁はの切れ味は凄まじそうだ。
    「田山花袋の版木」原稿用紙を自分で刷ったとは。
    「尾崎放哉のインク壜」終焉の地、小豆島南郷庵には旅行で数年前立ち寄った。風光明媚温暖のいいところだ。
    「井伏鱒二の釣竿」この人にはもちろんこれ。
    「寺山修司の人形」表紙のもの。異常な迫力がある。
    「斎藤茂吉のバケツ」これを持ち歩いてこの中に放尿していた。茂吉らしい豪快さ!?
    もっといくらでも書けるがこのぐらいで。いやあ、本当に愉しい読書と眼福だった。この文士たちの作品も読みたくなった。

    • nejidonさん
      goya626さん。
      とても嬉しいです!ありがとうございます!
      実はワタクシ、中勘助の「銀の匙」を載せるのを忘れて、返却後それに気が付い...
      goya626さん。
      とても嬉しいです!ありがとうございます!
      実はワタクシ、中勘助の「銀の匙」を載せるのを忘れて、返却後それに気が付いたのです。
      でもこちらに載せて下さってるので安心しました。
      寺田寅彦のオルガンは、「読書と人生」に登場していました。
      そういうところで繋がるのが嬉しいですよね。
      レビューは少ないですが、とても良い本だと思います。
      2020/11/13
    • goya626さん
      いやあ、nejidonさんにはいい本を紹介してもらいましたよ。この本はナイスです。尾崎放哉の小豆島は行きましたが、とてもいいところです。オリ...
      いやあ、nejidonさんにはいい本を紹介してもらいましたよ。この本はナイスです。尾崎放哉の小豆島は行きましたが、とてもいいところです。オリーブの木がたくさんありましたが、醤油の里としても有名です。辺りに醤油の香りが満ちていました。生きているうちにもう一度行きたいです。さて、矢島裕紀彦さんも注目です。たくさん本を出していそうですね。
      2020/11/13
  • 今は亡き文士たちの愛用品を写真とエピソードで紹介する本。
    文士と聞くと、文机と文具を思い浮かべそうだがむしろそれらは数少ない。
    思いがけない素顔をのぞかせるものも多く、かつての主の体温や息遣いを感じさせる。
    見開きの左ページにモノクロの写真。濃い陰影の、時に胸にずしんと来る説得力がある。
    右にその逸話というのが基本。全106人。
    漱石と池波正太郎だけ多めに頁数を割いている。
    印象に残ったものを載せてみよう。

    「ギター」萩原朔太郎;マンドリンとギターの合奏を目的とする「ゴンドラ洋楽会」を組織していたらしい。素人離れした腕前だったという。
    胴体部分に洒落た貝細工を施してあり文字通り逸品。リズム感のある詩の訳を、ようやく理解できたような。

    「空気銃弾ケース」中原中也;ケースから取り出した銃弾を、鎌倉の洞窟や林の中でよく撃っていたらしい。親から無心した金銭で買ったというから、かなり危うい。これで太宰を撃たなくて良かったね。。

    「パレット」池波正太郎;絵が大好きで挿絵画家になるのが夢だったという。54歳で初めてフランスの旅に出て思うままに筆をふるった。
    パステルカラーの水彩画は、軽やかでセンスにあふれるモノ。いかつい風貌からは想像もできない優しい絵だ。

    「オルガン」寺田寅彦;理学博士の学位を得たテーマは「尺八の音響学的研究」で、大変な音楽マニアだったらしい。象牙作りの鍵盤と凝った掘り込み細工のボディ部分。寅彦の長女もこれで演奏の腕を磨いたという。

    ああ、とても挙げきれない。
    写真のみでなく、逸話がたいそう魅力的だ。
    どれも胸に迫るものばかりで、皆さんには図書館で入手してぜひご覧いただきたい。
    次々に難病に襲われる人生だった「三浦綾子」は、ほとんどの時間をベッドの上で過ごした。「手鏡」で庭を映しては心の慰めにしていたという。
    木製の蓋つきで、可憐で凛々しい手鏡だ。

    衝撃を受けたのはプロレタリア文学の旗手だった「小林多喜二」のデスマスク。
    警察に目をつけられ激しい拷問の末に死亡。
    葬儀まで妨害する警察の隙をつき、仲間たちが作ったものだという。
    深夜、塗った石膏を生乾きの状態で急ぎはがしたためマスクの一部が裂けてしまっている。
    こんな狂気の時代も確かにあったという無念の記録だ。

    今の世に生きていれば、多喜二はまるで別の作風だったのだろうか。
    寅彦がヘッドホンを着用して名曲に聴きいっていたり、池波正太郎が東京スカイツリーの絵を描いたりしたのだろうか。
    江戸東京博物館で見た「夏目漱石展」を思い出している。
    ロンドン留学時代の英字の筆跡は、筆記体のサンプルのように完璧な美しさだった。
    祖国を離れて暮らす苦闘の日々。繊細な文字から見えるのはひとりの人間としての漱石の生き様で、私たちと同じく弱くもろい存在だという鮮烈な感動だった。

    文士たちはもう語ることもなく、このような本も二度と出されることは無いだろう。
    残った愛用品たちがそれぞれの記念館で、在りし日の体温を伝えるだけだ。
    月刊「文藝春秋」に連載していた「文士の逸品」の単行本化で、表紙の奇妙に肉感的な人形は寺山修司のもの。
    6つの章に分かれ、各章の終わりに記念館の案内が付いている。
    すべての館をまわってみたい気持ちが、今胸にあふれている。

  • 表紙のセクシーな人形の写真のおかげで、人前で読みづらいったらありゃしない。
    モノクロの写真がいい味をだしていた。特に、「田中英光の本(遺言が書かれている)」はなかなか、鬼気迫っていたので印象に残っている。

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