シークレット・ウォーズ

  • 並木書房
3.60
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (518ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784890632947

感想・レビュー・書評

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  • イスラエル軍事アナリストによる中東裏戦争の実態を記した本。スパイやテロリストの活動記録が克明に書かれている。佐藤優が「この本の情報価値は30億円」と言っているように、日付、人名、金額、品目の数など、記されているデータは詳細で、活動も精緻である。盗聴、暗殺、誘拐、ハイジャック、自爆テロ、武器取引など、イラン、シリア、イスラエル、米国をはじめとする諜報など特殊機関による裏の戦争の姿の一端を垣間見ることができた。
    「義理の父に、毎日ある時間に私から連絡がなければ、私のアパートに行ってイスラエルと関係した物すべてを処分するように頼んでいた。幸運にも義理の父は頼んでいたとおりのことをしてくれた。(本人はイランに誘拐された)」p63
    「イスラエルの国防エスタブリッシュメントは、長年にわたる豊富な経験から、全体主義国家への迅速な兵器と軍事ノウハウの輸出は、国の支配者たちと緊密な関係を作り上げられることを知っていた」p71
    「(イイ戦争時)倫理的な問題が議論されたことは一度もなかった。我々の関心にあったのは、とにかくイスラエル製の兵器を売りまくり、それで連中に殺し合いをさせることだった」p71
    「(レバノンで活動していたイスラエル情報部隊8つ)シンベト、モサド、軍情報部のユニット504、陸軍レバノン連絡部隊、SLA情報機関、憲兵隊情報部隊、国境警察部隊、警察部隊ヤハロム(お互いが激しく競い合い、連携が取れていなかった)」p112
    「米情報機関は、技術力に目を見張るものがあるが、ヒューミントに関しては弱く、イスラエルから絶え間なく送られてくる情報に頼っていた」p123
    「(ヒズボラへの援助について)1987年までに、イランの年間資金援助は1億ドルに達していた。石油産油国には小遣い銭のようなものだが、レバノンでは大金だった。ヒズボラを使ってイランは、レバノン政府に代わる教育、文化、厚生、福祉、経済、また軍隊に至るまでのすべてをカバーする社会システムを構築しようとしていた」p124
    「人質を何とか解放させるためにアメリカ、イスラエル、そしてイランの間で数えきれぬほどの取引が行われた。イランはイラクとの戦争に兵器を必要としていた。イスラエルは彼らの必要とする兵器のいくつかを提供する用意があった」p168
    「80年代と90年代、イランはヨーロッパ諸国から寛容な態度で扱われた。イラン情報機関は、標的が反体制亡命イラン人である限り、ヨーロッパ人たちはイランの暗殺者に厳しい態度を取らないと理解していた。(イラン国内で何千人もが処刑された)」p202
    「革命後、ホメイニによって処刑リストに名前の載せられた約500名のうち、200名近くが殺害された。ソ連の恐怖時代にも外国での暗殺がヘッドラインを飾った。しかし、イランのやったことはスケールが違った」p206
    「(マグニエーは、)イスラエルに計画中の作戦をかぎつけられたと疑えば、敵に傍受されないように即座に通信手段をすべて変更した。イスラエルのヒズボラの通信を傍受する試みは、マグニエーの予防手段によって幾度となく失敗してきた」p324
    「ダマスカスで発生したイマッド・マグニエー暗殺は、どんなに逃げるのがうまい獲物でも、ハンターの側に腕と意思と忍耐力があれば、最後には仕留められる、という警告のメッセージであった」p501
    「イラン・ヒズボラとの長期にわたる戦いは、イスラエルとアメリカが中東で直面したどんな敵よりも彼らが高度な能力と強い意志を持っていることを証明した。イランとレバノンのシーア派教徒という新しい敵は、何度もイスラエルと西側諸国の裏をかき、政治、情報収集、そして戦争のすべてにおいて勝利を収めてきた」p504

  • 3/20−22のオバマ大統領のイスラエル、パレスチナ訪問はイランの核兵器開発中止を訴え、イスラエルの自制を求めている、またイスラエルに対してはパレスチナ自治区でのイスラエル入植地の拡大を非難しているが解決のめどは立っていない。

    ホメイニ革命以降のイラン、イスラエル間の暗闘が描かれている。冒頭は映画アルゴの舞台となったアメリカ大使館人質事件の様子から、このデモ参加者の中にアフマディネジャド大統領が参加している。今からは想像しにくいがパーレビ国王時代のイランはソ連の侵攻を怖れ、アメリカ、イスラエルとは協力的な関係に有った。

    ホメイニ革命後もサダム・フセインのイラン侵攻の際にはイスラエルはイランに武器を売り続ける。この時売られたマシンガンの一部は25年後にヒズボラに渡りイスラエルに向けられることになるこれが第二次レバノン紛争の引き金となった。
    イラクの地雷群に悩まされたホメイニは少年志願兵に戦場で死ねば天国に行けると確約する。聖戦で命を落とすのはシーア派では賛美されることであったが、特攻を殉教として拡大したのはホメイニだ。その後レバノンのシーア派組織ヒズボラの宗教指導者ファドララーと実行部隊のリーダー、イマッド・マグエニーが自爆テロを系統的な手段として完成させた。マグエニーはこの本の中でイスラエルの敵として最も多く登場している。日本ではヒズボラはアルカイダの様なテロ組織というイメージだがレバノンの政党という一面も有る。同様にガザ地区を支配しているハマスはパレスチナのスンニ派の政党でもある。

    イスラエル、特にモサドとイラン、ヒズボラはお互いに誘拐、暗殺を繰り返す。誘拐は人質交換の手段として使われ、特に戦闘に参加した兵士を連れ帰ることを重視したイスラエルに対しては有効な手段であり、イスラエルも誘拐や暗殺で対抗する。誘拐はヨーロッパ人も対象になり自国民が対象になるのを怖れたヨーロッパ諸国は国内のテロ組織掃討を躊躇していた。この辺りは現代とは違うようだ。最近ではむしろアメリカやイスラエルが政府機関同士の縄張り争いで失策が多かったりヒズボラが統率された協力な組織だったりと力関係にも変化が有るようだ。

    ビン・ラディンの登場ではアルカイダの歴史はアフガン戦争からパキスタン、サウジ、アメリカへとつながりスンニ派諸国同士のつながりとして説明されることが多いが著者はこれを明確に否定する。イランとヒズボラのシーア派組織は早くからスーダンのスンニ派テロ組織との間ではアメリカ、イスラエルへの対抗で同盟ができている。

    目下の問題はイランの核開発で、イラク戦争では核開発の証拠が見つからなかったことからオイルマネーや兵器商人、ユダヤロビーに動かされたアメリカの陰謀という話がある。しかしイランの核開発はホメイニ革命以前から続いており、むしろ核兵器を否定したホメイニによって遅れたようだ。(本書の中にはイラン侵攻が無ければイラクの核開発ももっと進んでいたはずだとある)イランはパキスタン、北朝鮮などからロケット、核の技術を導入しており着々とウランの濃縮を続けている。(あくまで建前は平和利用だが・・・)度重なるIAEAの査察ものらりくらりとかわしながら国内数カ所に核開発拠点を分散させており、イスラエルの攻撃が成功するとは限らないというのが著者の分析で、イラン軍の中には攻撃に対しては充分に反攻の能力が有ると言う者もいる。イランはヒズボラを通じてレバノンに影響力を高めており、シリアについては政府、反政府それぞれにアクセスし混乱を助長させ、イラク政府にも影響力を強めている。兵器開発では北朝鮮とも協力関係に有る。鳩山元総理がいくら友愛の精神を発揮しても何も解決しない。

    登場人物も多く、国ごとの背景についても知らないことが多いのと、時系列が錯綜するためなかなか一発で関係が把握できないが少なくともイスラエル側から見たイラン関係の理解は進んだ。

    以下は読んでる際のメモ
    シーア派 全体としては少数派だがイラン、イラク、レバノンなどに多い本書の佐藤優解説ではイランの目的はイランーイラクーシリアーレバノンと西へシーア派ベルトを作り宗教を通じイランの影響下にすること。アメリカはシリアの民主化を推進しスンニ派政権を作りたいがシリアはこのままでは無政府状態のアフガン化の様相。
    シリア バシャール政権はアラヴィー派だが国民の多数はスンニ派、イスラエルとはゴラン高原の国境紛争を抱える。レバノンのヒズボラを支援。イランとも接近。
    レバノン 南部でイスラエルと紛争を繰り返す。シリアからも侵攻された経緯が有り新シリア派、反シリア派がいるがヒズボラの影響力が拡大中。ケシ、アヘン栽培が主要産業となっている。
    ヨルダン パレスチナからの難民が多数流入。イスラエルとの関係は悪くない。
    パレスチナ自治区 ヨルダン川西岸地区とガザ地区に分裂ガザはハマスが占拠しアメリカ、イスラエルが支援している穏健派のファタハに対しハマスが支持を増大。イスラエルはハマスをテロ組織として交渉相手として認めず、ヨルダン川西岸にイスラエル人の入植が続く。アメリカ、EU、日本などを除く多くの国がパレスチナを国家として承認し国連でもオブザーバー国家となった。
    イラク 本書では脇役シーア派65%、スンニ派35%、サダム・フセインのバアス党はイスラムではなくアラブ民族主義で現在はシーア派が政権をとりイランに接近。シリアとは対立が長く、ヨルダンとは良好な関係。
    イラン アラブではなくペルシア地域ペルシア人が半分、アゼルバイジャン系が1/4シーア派が90%でスンニ派は少数

  • イスラム革命以後、ホエイニ率いるイランは、イスラム革命を全世界に輸出すべく、莫大なオイルマネーを武器にテロ組織を支援し、大量破壊兵器の入手を図ってきた。イランから殲滅することを宣言されたイスラエル、そしてアメリカは、イランと同様の「汚い」手段を用いて戦うことになる。

    本書は中東を舞台に繰り広げられてきたイランとイスラエルの30年間に渡る秘密戦争を明らかにするノンフィクションだ。佐藤優の「この本の秘密情報には30億円の価値がある!」という煽り文句はちょっと苦笑してしまうが、少なくともこれまでの固定観念が覆されることは間違いないだろう。

    旧ソ連は共産主義の輸出をスローガンにしてアメリカと戦い、結局、敗れた訳だが、一方のイランはイスラム革命の輸出に半ば成功していることに驚かされる。PLOやハマスなど、本来であればシーア派であるイランとは対立しているはずのスンニ派の組織も積極的に支援し、第二次レバノン戦争ではイスラエルに手痛いダメージを与えて勝利したヒズボラもイランの出先組織として、テロ組織というよりは完全な軍事組織へと育て上げている。さらにアメリカ国内にテロ組織を創設することさえ成功しているのである。

    もちろん、対するイスラエルも善人という訳ではなく、一般人を巻き込む二次被害を考慮しない手段で、テロ組織と戦っている。まさに血を血で洗う抗争である。ちなみに、一般にプロフェッショナルな諜報機関と思われているイスラエルのモサドの様々な失敗を明らかにされている点も興味深い。諜報組織間の対立で防げたはずのテロが防げなかったなどという事例は、まさに9.11に見られたものと同じだ。

    アラブの春により、いくつもの中東の独裁政権が倒れたが、その後に成立した政権にイスラム色が強いのも、イランの関与があったせいではないかと本書を読んだ後には、思わず勘繰りたくなってしまった。

    本書は西側から見たものだということは留意する必要があるだろう。イランからの視点からはどうなのか、ぜひ知りたいところだ。

    本書とCIAの失敗の数々を描いた『CIA秘録』を読み比べてみるのも面白いのではないかと思う(今度やってみよう)。

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