- Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
- / ISBN・EAN: 9784891768348
感想・レビュー・書評
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シュルレアリスムが近代美術史においてどのような役割を果たしたのか、いや、そもそもシュルレアリスムに美術は存在したのか…
集団的、潜在的な意識、たとえばそれはフロイトの『夢判断』に代表されるような心理分析の発達により、人間の夢を科学的に分析し解明しようとする流れに強い影響を受けているが、シュルレアリスムを説明するのに「夢」とか「無意識」といった言葉づかいは大概、読んでいて、結局のところ結論は何のか判からなくなることが多かった。
つまり、本著の冒頭でも触れられているように、シュルレアリスムはモダニズムや古典的芸術と異なり、なかば意図的に言語化を拒むようなある種の傾向があり、それが本としてシュルレアリスムを文章化しようとすると、途端にこの文化的・芸術的運動が解読不能な、しかしなにか意味づけられることが可能なようでできないものになってしまう原因でもある。
本著は実に、その曖昧さについて、「瞬間と持続」、「壁の絵と本の絵」、「垂直と水平」という対立関係から読み解こうとしている。
二人の批評家の間に交わされた往復書簡という形式をとる本著は、非常に読み手にとって没入を誘うもので、彼らの迷いや疑問、あるいは論点に至るまでの葛藤なども読み取れる。
そうした点では、批評家達の日常的な思索の葛藤に触れれるという貴重な?一面も本著は持ち合わせている。
しかし、ここで、本著の題名が『シュルレアリスム美術を語るために』となっていることに注目していただきたい。
この本の目的はシュルレアリスムとは何なのかを明確に定義づけたり、断定したりすることにはなく、それについて語らうための、いわば言語のセットを読者に提示しているのだ。
シュルレアリスムを言葉で語り、それについて意見や見解を述べるための新しい視座に触れるという体験は本著の一番の魅力かもしれない。
アンドレ・ブルトンやロザリンド・クラウスといったシュルレアリスムを言語化する試みのなかで、本書はとりわけ読みやすく、また図版も豊富に用いられているので、シュルレアリスムに触れたことのある読者には、とても良いのではないだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示