現代戯曲の設計: 劇作家はヴィジョンを持て!

  • 日本劇作家協会
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  • Amazon.co.jp ・本 (181ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784893093189

感想・レビュー・書評

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  • 戯曲は人生のビジョンを伝える手段。人生のビジョンの切り口が目からウロコ。

  • リアリズム  (イプセン、テネシーウィリアムズ、アーサーミラー)
    この世界の問題は理解し解決することができる。その問題の解決を促進する。
    ある問題の解決法を教えてくれるものではない、問題の原因を示すことだけ。観客に自分で解決法を見つけたいと思わせなくてはいけない。
    人間は周囲の世界を変えることが出来る。
    観客に外に出て解決を見つけるための準備をさせる。解決そのものを差し出すことはない
    世界はXがYを引き起こす場所である
    そして、XがYを引き起こすなら、Yは防ぎ得る
    そのためには、Xを変えればよい。
    アクションストラクチャー

    あらゆる場面が、例外なく、何かが変化する瞬間に向かって組み立てられている。
    これらの変化は、行き当たりばったりの出来事や偶然や、劇のストーリーと関係ない人物によって引き起こされることは決してない。これらの変化は、次のいづれかによって引き起こされる。
    ・ 登場人物が、他の登場人物に言ったり、したりしたこと。
    ・ 芝居の舞台の設定となっている状況
    最初のシーンで起きる変化が、後の場面で起きる、より重大な変化の引き金となる
    最大の変化(クライマックス)の後、観客は、登場人物と彼らが生きている世界が、どのように変わったかを垣間見る。
    関係のない要素は、ストーリーから完全に取り除かれる。ストーリー展開に不可欠な登場人物、シーン、出来事のみが残される。
    登場人物は全員、複雑な感情、知性を備えた人物として描き込まれている。
    登場人物は全員、起承転結のあるストーリーを持っている。
    劇中のあらゆる要素が、幕の降りる前に解決される
    ・ 登場人物全員のストーリーが、結末に至る
    ・ あらゆるイメージが結びつく
    ・ あらゆる疑問が明らかになる
    ・ 宙ぶらりんのままのものは何もない
    敵対する人物たち 変化を引き起こそうとするお互いの企てを拒もうとしあった人物たちが、面と向かって対決する場面がなければならない。
    因果律、科学的、客観的

    叙事詩劇
    世界は複雑な広漠とした場所で、人間は決して出来事の原因を前もって知ることはできないが、その世界がある種の道徳的秩序に支配されていると信じることはできる。同時進行する。人生はあまりに複雑である。道徳が因果律に取って代わる。

    ブレヒト的叙事詩劇
    人々は変わらない。世界は変わらない。人生は変わらない。
    異化効果。舞台の出来事を奇妙で意外なものにして、観客が問いを発したくなるように刺激する。
    弁証法的。ヘーゲル。テーゼ、アンチテーゼ、ジンテーゼ両方の性格を持つ新たな統一体。
    まったく相反する2つの考え方を示し、観客がジンテーゼを出すことを望む。

    アクションストラクチャー
    1. 登場人物が何の変化を生み出さない行動を取る。観客の関心は、相容れない2つの考え方の衝突に向けられる
    2.変化が実際に起こる場合、それはたいてい、戦争や動乱な外部の力によるものか、人々の人生の偶然の交差によって引き起こされたもので、個人の行動によるものではない
    登場人物の言葉や言動が変化を起こす場合、それらの変化は一時的なものか幻想である。言いかえれば、容易に元通りになったり、実際には何も起こらなかったのだということが明らかになる
    3.「一時的なものか幻想である」という原則が守られるかぎり、ある場面で起きた変化が、あとの場面の変化を引き起こすこともある
    4.だが、戯曲のクライマックスでは、何の変化も起こっていない。観客は、変化を起こそうとあがきながら、できないという圧力に押えつけられたまま残される。


    自然主義  (エミール・ゾラ、チェーホフ、ゴーリキー)
    世界をごちゃごちゃした細部まで舞台上に再現した戯曲。遺伝と環境に支配
    人間は問題の原因を知っているが解決はできない
    アクションストラクチャー
    登場人物は、変化を求めるような状況に置かれている
    何人かの登場人物は、その状況に甘んじているが、それを変えようとする登場人物たちもいる
    この戯曲の根底にあるビジョンを明確に伝えるためには、少なくとも一人の登場人物が変化を求めていなければならない
    変化を求める登場人物たちは、さまざまな方法で変化をもたらそうとする
    いくつかの場面では、変化が起こっているように見えたり、今にも起こりそうに見える。もし変化が実際に起こるとしても、それは、登場人物たちの人生を悪くする結果しかもたらさない。自然主義のスタイルで戯曲を書くときの最大の問題は、登場人物がどんな変化も起こせない世界を描きながら、その戯曲が、動きのない退屈なものにならないようにすることだ。したがって、少なくとも一人の登場人物が、変化を引き起こそうと試み、実際変化を起こしたように見せ、芝居を面白く見せる必要がある。そして、もし実際に変化が起きたとしても、その変化は、
    登場人物の行動によって引き起こされる劇的な変化は、舞台の外で起き、何が起きたか観客に想像がついた頃に、それを目撃した別の人物によって伝えられる。
    登場人物の行動によって引き起こされた劇的な変化は、場面と場面の間に起きることもある。その場合、登場人物が、そのことを観客に伝えない方がいい。むしろ、観客に何が起きたか推理させる方がいい。
    許容できる変化の一つは、必ず変化をもたらすような実際的な行動を登場人物がした結果、起きる変化である。その行動とは、舞台上で何かを建てるとか、食事を作って、みんなに出すとか、部屋を掃除するというようなことである。
    何か些細なことが観客の関心を引きつけている時なら、重大な変化が舞台上で起きてもよい。簡易食堂の常連たちが、パイの一最後の一切れを誰が食べたか大声で言い争っている間に、ウェイトレスが給与袋を開けて、解雇通知を見つけるというようなこと。

    不条理主義 (ベケット、イヨネスコ、デビット・マメット)
    人間には変化を起こせないという認識。人間は常に同じところをぐるぐると旅しているだけ。
    私たちは意味のある関係を何一つ持てない世界に生きているという信念を表現する。何も変えることはできないし、何も伝えることができない。できる最善なことは、エントロピーと崩壊に向かう無情な力に押しつぶされるまで時間をやり過ごす方法を見つけること。変化は最終的に事態が悪くなるという形で訪れる。
    登場人物の根底にある恐怖と不安、宇宙やお互い同士に対して、どんどん意味をなくし、孤立していくという実存的恐怖
    ノンアクションストラクチャー
    登場人物が置かれた状況は、厳しく、望みがない。
    この状況に対して、彼らは、いつも出発点に戻ってしまうような堂々めぐりの行動を始める。
    これらの行動のいくつかは、なぜ自分たちが、このような状況にいるのか、どうすればいいのかを知りたいという欲求から引き起こされる。これらの行動には、たとえば、
    ・ お互いに質問をする
    ・ 自分たちが知っている情報を見直す
    ・ 存在しているかも知れないし、していないかも知れない他の登場人物に影響を与えようとしたり、彼らを呼びだしたりしようとする
    登場人物たちは、自分たちには変化を起こせないということを重々承知しながらも、時間つぶしのためだけに、これらの行動をする場合もある。そのような行動には、たとえば、次のようなものがある。
    ・ 無意味な哲学的議論
    ・ 言葉や行動の意味についての重箱の隅をつつくような議論
    ・ 冗談を言う
    ・ ゲームをする
    それとも、登場人物は、相手がこれらの行動を取るのを、止めるかもしれない。そのために、下手な冗談や、何度も繰り返される話や、無意味な哲学的議論を邪魔する。だが、こういう邪魔立ても、無駄に終わる場合が多い。
    繰り返される要素を意外で刺激的な方法で使うことによって、観客の注意を引く。
    ・ 一人または複数の登場人物が、2回、またはそれ以上の回数、現れたり去ったりする。
    ・ 舞台の外、または舞台上で、ある出来事が、芝居の最中、何度も繰り返し起こる。
    ・ ある文章や、聞き慣れない言葉、あるいは、あるやりとりが、芝居の間中、何度も繰り返される
    ・ だが、繰り返されるこれらの要素は、まったく同じように繰り返されることはない。それが起きるたびごとに、少しだけ違いがある。その違いによって、観客の注意が引きつけられる。
    ・ 再び現れた登場人物が、前とはどこか違っている
    ・ 繰り返される出来事が、まったく同じであることは決してない
    ・ 言葉使いや繰り返される言葉の置かれる場所が違っていたり、その言葉を別の登場人物が言ったりする
    時間が経つうちに、登場人物を取り巻く状況は、悪くなっていく
    時間が経つうちに、登場人物の感情的、心理的苦悩は深まっていく
    戯曲の中の出来事や筋の展開の背景には、疎外感と恐怖がなければならない。不条理主義の核心となるメッセージは、人間は無力であるがゆえに、滑稽で馬鹿げたことをするかも知れないが、その無力さこそ、存在の恐怖の核であり、それが最終的に、あらゆる希望を打ち壊すということだ

    ロマン主義
    到達することのできない理想に向かって闘おうとする我々の抑えようのない不合理な欲望を描写しようとする

    表現主義
    世界を突き動かしている力は、従来の論理では説明も理解もできない。強烈で衝撃的で非論理的な行動を劇化することによって、人間の魂の中に生じる偉大な思想を受け入れ、それを使おうとする。

    シュールレアリズム  (アンドレ・プルトン、ハロルド・ピンター)
    普通の論理に従わない神秘的な力によって引き起こされる舞台を再現する。論理的な言葉では説明できないが人間の行動の真の源となる衝動によって、世界は動いているという信念を表現する。
    アクションストラクチャー
    登場人物の行動ををめぐって展開
    それらは、脅威を増して来る状況を変えようとするものであったり、非常に重要な情報を得ようとするものであったりする
    登場人物が求めている変化は、まったく馬鹿げたものであったり、観客が真面目に受け取らないようなものであってもよい
    だが、劇作家と観客が、登場人物のしていることは愚かなことだと気付いても、登場人物自身は、とても真面目に変化を引き起こそうとしている
    登場人物の行動は、必ずといっていいほど的外れである。それらの行動は、劇作家が自分のイメージを舞台に並べて見せるという、より深い戦略を展開するためのおとりとして使われる。それらのイメージは不可解に影響しあって、出来事や登場人物について新たな考え方をするように観客を導く。
    シュールレアリスムの戯曲は、変化を引き起こそうとする登場人物の努力をめぐって組み立てられることが多いが、そのような変化は、シュールレアリストの人生のビジョンを抱いている人間には、少しも重要ではない。人間の体験や人生そのものに神秘の力を注ぎ込むことにこそ、シュールレアリストは関心を持っている。このビジョンを舞台に乗せようと励む劇作家は、さまざまなテクニックを発達させた。中でも重要なのは、
    平凡なイメージも、刺激的で意外な配列で並べることができる。そうすることで、いわく言いがたい深い意味や、それと知ることができない力の存在を引き出したり、暗示したりする。
    見覚えのある日常的な出来事、人物、場所は、ディティールを取り払うことによって、力強い形而上的位相を帯びることができる。そうなると、それらはもう、それと分かる普通の出来事、人物、場所ではなく、まったく想像上のもののように見える。
    見慣れたイメージ、物、状況の表面化に、不吉で脅威を感じさせる性質が潜んでいることがよくある。心をかき乱すこれらの隠れた性質を引き出して、場面を神秘的なものに変える。
    平凡な物やイメージを遊び心を持って操作する。平凡なものを楽しい奇抜なものに変える。そうすることによって、観客に、正常な論理や習慣的な予想に疑問を投げかけさせる。
    これらの目的はどれも、舞台上の実際の物や人を操作したり、登場人物が発する言葉によって達成することができる。

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