- Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
- / ISBN・EAN: 9784894342897
作品紹介・あらすじ
詩や絵画、気象・風土・地理・季節感、移動速度や旅行の流行様式など、あらゆる観点から「風景の中の人間」を検証。自然環境・景観保護運動のありかたに対する斬新な問題提起。
感想・レビュー・書評
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そこここに気になる(興味深い)記述が登場するものの、どれもあまりに断片的かつ抽象的。
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著者はフランスの歴史学者だが,彼の本はとにかく厚く高い。私が読んだところでは,『浜辺の誕生』752ページ8800円,『音の風景』460ページ7200円,『人喰いの村』261ページ2800円(これは比較的薄くて安い),『においの歴史』390ページ5000円。そして,まだ読んでいないが手元にあるのが『娼婦』626ページ7800円。もちろん,こんなのは定価で買えないので,古書店で見つけては,値段が安いとき,そして持ち帰るのに支障がない時にしか買えない。しかし,彼の歴史書はどのテーマでもどこを読んでも面白いので,刺激的な読書体験をしたい時にはもってこい。しかも,彼の歴史研究はそのほとんどが地理学者にも関心のある内容を含んでいるので,ただの興味関心で読むのではない。
しかも,最近は風景に関して真面目に考えるようになったので,先日古書店で本書を見かけた時には迷わず購入した。実はこの本,きちんとした研究書ではなく,ラジオ番組として放送されたジャーナリストによるインタビューの収録である。私は昔はこういうのは好きではなかった。学者同士での対談でも,やはりその場の雰囲気というか,話の流れで偶然的要素が大きい状態で発せられる言葉に学的根拠を求めるのはどうかと思っていたからだ。そもそも,日本では対談やインタビューなどを受ける学者というのは真面目な研究をしなくなった人だったり,あるいは単発でのインタビュー記事などはあまりにも大衆に迎合する形で研究内容を希薄化しているように思えたからだ。しかし,フランスではそうではない。有名なデリダの『ポジシオン』とか,ラカンの『テレビジオン』などは立派な研究書と位置づけることができると思うし,そういうものに少し抵抗がなくなったのはデリダの日本公演の原稿を読んでからかもしれない。
まあ,ともかく風景に関しては『浜辺の誕生』でも『音の風景』でも,そして私は持っていないが『レジャーの誕生』でも考察を深めているコルバンだから,本書を彼の風景論の概説として読むこともできるし,それぞれの歴史書は特定の事例の特定の時代に限定されたものなので,もう少し一般的な内容も含まれると期待される。訳書には詳しく書かれていないが,5章からなる本書は5回分の放送なのだろうか。
第1章 いかにして空間は風景になるか
第2章 さまざまな影響にさらされる風景
第3章 空間をめぐる行動様式
第4章 風景と大気現象
第5章 人間と風景の保存
歴史家であるコルバンは自らの研究ではおそらく第5章のような現在に直接つながるテーマは扱わないだろうから,この辺は一般のラジオ・リスナーを考慮した内容だと思うが,この辺りはインタビューでしか聞き得ない内容という意味で興味深い。
本書には42の注があるが,本文ではそれ以上の研究者の名前が登場し,自らが手がけた風景にまつわる研究以上に,魅力的な他の歴史家の仕事を援用して論を進めているというのが特徴である。しかし,訳者が自らの著書で風景について論じたことから,コルバンの風景論を是非訳したかったと書いている割には風景研究の基本文献として日本語があるいくつかの本の日本語訳情報が記載されていなかったのはちょっと残念。注7はジョナサン・クレーリーの『観察者の系譜』,注13はサイモン・シャーマの『風景と記憶』,注23はバーバラ・スタフォードの『実体への旅』といったところ。訳者あとがきで地理学者イーフー・トゥアンの『感覚の世界』が紹介されているが,地理学者ではなく文化人類学者となっていたりするのは残念。
しかし,コルバン自体は,ヴィダル・ド=ラ=ブラーシュやエリゼ・ルクリュといったフランス人地理学者はもちろんのこと,私の知らない地理学者の名前を挙げていたり,ともかく地理学に対する知識は半端ではない。まあ,もちろんそれは歴史的な地理学者であり,コスグローヴなどの風景研究をする地理学者には言及がないが。
結局,内容についてはほとんど説明しなかったが,本書は非常に読みやすいので,詳しい説明はいらないでしょう。かといって,風景に関して知っていることだけだったかというとそうではなかったし,やはり読んでよかったと思える本でした。 -
また再読したい