- Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
- / ISBN・EAN: 9784894346321
作品紹介・あらすじ
免疫学の世界的権威として、生命の本質に迫る仕事の最前線にいた最中、脳梗塞に倒れ、右半身麻痺と構音障害・嚥下障害を背負った多田富雄。水俣の地にとどまりつつ執筆を続け、この世の根源にある苦しみの彼方にほのかな明かりを見つめる石牟礼道子。生命、魂、芸術をめぐって、二人が初めて交わした往復書簡。
感想・レビュー・書評
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2021/12/20 ひさごのみ日記:『言魂 -詩・歌・舞-』観劇より
https://www.hyoutanza.com/2021/12/20/%E8%A8%80%E9%AD%82-%E8%A9%A9-%E6%AD%8C-%E8%88%9E-%E8%A6%B3%E5%8A%87/
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第一信 受苦ということ
第ニ信 なふ、われは生き人か、死に人か
第三信 老人が生き延びる覚悟
第四信 いまわのきわの祈り
第五信 ユタの目と第三の目
第六信 いのちのあかり
第七信 自分を見つめる力・能の歌と舞の表現
第八信 花はいずこ
第九信 また来ん春
第十信 豊かな沈黙
手紙を交わすごとに、お互いへの理解と尊敬が増し、内容もそれに従って深まっていく様子が伝わってくるようで感動的だった。素晴らしい往復書簡とは言霊の交換のことなのかもしれない。 -
74歳になる免疫学の権威である多田富雄と、片や81歳の数々の賞をもつ次期ノーベル賞ではとまで言われる石牟礼道子の書簡集である。
想像を絶するような病状から始まり、お二人共通の創作能の話、生い立ちから水俣闘争に至る話からリハビリ継続を国に訴えている現状まで多岐にわたって交わされています。
両者の文章は美しく、お互いを労わる深い思いやりがあり、「受苦」「抵抗」という重いテーマでありながら、お二人の広い教養もあって、一気に読んでしまう魅力があります。
エッセーや手紙というものには、人間性が正直に表れます。文章がどんなに優れていても、好感をもてない文章というものもあります。
日々を大切にまじめに生きてこられたお二人の人柄が感じられてつい引き込まれてしまいます。
高齢になって病を得ても、こんなにも挑戦し続けることができることに驚きます。
いつも日かまた自分を励ますためにこの本を紐解く時があるかもしれません。 -
肉体は苦痛に苛まれようとも、精神は屈することない強さを感じた
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それぞれに闘病の限界にありながら、リハビリ打ち切り制度や長きに亘る水俣裁判等々、人としての尊厳を踏みにじる権力の横暴や人間性の希薄さに、全身全霊で声を上げ続ける免疫学者多田富雄氏と作家石牟礼道子氏の往復書簡集。
石牟礼さんは、多田さんについて「現代の学聖のようなお方が、かほどまでの受苦に遭われますのには、よほどに深い意味があるのではないか。」と記しておられる。
度重なる病との、苦痛極まる凄絶な闘いを続けることさえ、どれほど強い精神力が必要か容易に慮れる。しかし、そのような極限の命の状態でなお、そこに新たな気づきや学びを求め、強い使命を持って、それらを世に伝え続け告発し続けてこられた多田さんは、確かによほどに深い意味を以て受苦の対象に選ばれたのだと、胸の痛みと共に深く肯いたのだった。
それにしても石牟礼さんが生み出す言葉は、何という静かな重みを携えているのだろう。月光のごとく清らかで静謐な美しさである。多田さんも記しておられるが、たとえば弱者を足蹴にする権力に対する告発を、強い憤りを顕わにしてではなく、この上なく深く温かな言葉で表現されている。揺るぎのない強い力を持つ言葉とは、こんなにも癒しと愛に溢れていることを改めて思う。
お二人が命を賭け、伝え告発されていることは、人類の文化や人間性の存続に関わる非常に重要な事柄である。
文学と哲学、そして人間性の末期ともいえる現代にあって、未来への希望を消してはならぬと命の声を上げ続けるお二人の書簡に、自分もそのただ中にいる当事者であり責任者だということを強く意識させられた。 -
多田富雄先生は、片麻痺、構音障害、嚥下障害など生きるに苦しい状態にもかかわらず、生と相対峙し逃げない。さらに前立腺癌、尿路結石、MRSA感染と続く。「死を待ち望む気持ちは今も同じです。でも自分から死ぬことは、もう考慮の外にあることをしっているのです。」と言う。精神の崇高さと石牟礼道子さんは評しているが、生きることが日常的に死との壮絶な戦いであることに耐えられる精神力は想像すらできない。
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11月3日読了。
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免疫学者で能作家、しかも身障者になり、言語障害と機能障害を持つ多田富雄先生と「苦界浄土」の作者、水俣の石牟礼道子先生(パーキンソン病患者)の往復書簡。
嚥下するのにも命がけ、前立腺癌で排尿も苦痛を伴い尻に焼け火箸を突っ込まれたような痛み、車椅子がほんの小さな段差にあたっただけでも激痛が走るなか、新作能を作りさらには160日に限定されてしまったリハビリに対して闘いを挑む。
命のぎりぎりまで生きていることでできる可能性を追求していくお二人のすさまじいパワー。病を持つ人同士の共感とねぎらいが痛いほど伝わる。互いの知性がぶつかり合い。響きあう。
石牟礼先生の最後の手紙「御あとを慕ってまいります。何とぞまだ死なないで下さいませ」の言葉はなんとも表現しえない心もちをあらわして言葉の癒しを知った。