変わるイスラーム 〔源流・進展・未来〕

  • 藤原書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894346765

感想・レビュー・書評

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  • イスラームとは何なのか。4人に1人がムスリムとされる現代社会にあって、これは避けては通れない問いである。本書は、イスラームの成立から近現代までの歴史的事象を、詳細に、時にドラマティックに綴っている。そして、イスラームが決して一枚岩ではないことを明確にしていく。

    最後にして最大の預言者とされるムハンマド、そして正統カリフの時代までは、歴史の教科書などで何となく知っていたが、そこから先、イスラームがどのようにして世界宗教になっていったのか、非常に勉強になった。イランのホメイニ、エジプトのナセル、イラクのフセイン等、ある程度の年齢の方なら、その顔をリアルタイムのニュースで見ていたであろう。彼らの宗教的背景が本書により浮かび上がる。

    9.11同時多発テロの日。深夜にも関わらず、大学に誰からともなく集まり、これからどうなるのだろうと答えの出ない会話をしたことを覚えている。あれから20年。今やあのテロがあったことすら知らない若者が増えてきたという。2009年刊行の本書は、あのテロにはイスラーム内部の対立という面があることを答えの一つとして提示した。
    しかし、その後、ISが登場し、タリバーン政権が復活する等、イスラームは新たな局面を迎えている。それはとてもイスラーム内部の対立だけで説明できるものではない。著者アスランはこの事態をどう見るか。彼の今の声を聞いてみたい。

  • 良い本はタイトルに集約されるとはまさしく。

  • 基本的にはイスラム教の歴史について書かれた本。
    各章の頭に小説風の読み物が配されていることもあり、
    とても読みやすいのだが、中身はしっかりとした本。

    最も響いた著者の考え方、「現在のイスラーム世界で
    起こっているのはムスリム間の内部抗争であり、宗教
    改革の真っ最中である。西側諸国は彼らの敵ではなく
    軽率に巻き込まれた被害者に過ぎない」という考え方
    については、この本では折に触れて登場はしてくるが
    本格的に論考しているわけではないので、改めて別の
    本でしっかりと語って欲しいところだ。

    結局、わかりきっていたことではあったが、イスラーム
    と一口に言っても、その中身は多様性に溢れ、簡単に
    捉えることは出来ない、というのがイスラーム読書週間
    の結論、ということになろうか。

  • イスラム教の歴史と現在について、冷静で中立的なものが読みたければこの著者のものを読むのが良い。著者はジャーナリストであり宗教学者、さらに小説の訓練を受けている。その筆致は鮮やかだし、ともあれ説得的。各章の冒頭に出てくる小説仕立ての記述もとても分かりやすい。

    現代まで視点に据えているとはいえ、基本的にはイスラムの歴史についての本。著者自体の現代のイスラムについての見方、すなわちイスラムは宗教改革の真っただ中にいる(p.28)という見解については、メインに展開されるものではない。著者によれば、昨今の原理主義を含むイスラムの動きは内部抗争であって、キリスト教とイスラム教の対立のような構図は間違っている。キリスト教の宗教改革でもいくども戦争が起こり、多くの人が死んだ。9/11のテロのようなものは、いわばこうした宗教改革運動に周りが巻き込まれたものであって、欧米は当事者ではなく、単なる傍観者なのだ(p.338)。

    イスラムが誕生する背景となる6世紀アラビア半島の多神教状態と、ハニーフの登場、そしてムハンマドへの影響についてよく書けている(p.47-53)。著者が歴史を語る眼目は、イスラムの教義がこうした時代背景のなかで成立してきたことを示すことにある。ムハンマドの唱える平等主義について、メッカのカーバ神殿を支配する特権階級クライシュ族と格差社会を参照している(p.69f)。イスラムは元来、寛容で多元的であるし、そもそもイスラムは一つではない(p.355f)。女性の権利についても、現在のイスラムには本来のクルアーンの平等主義と、後のハディースにおける伝統社会の考えが混入していると語る(p.114-122)。

    ムハンマドの死をきっかけにした後継者争いや、その過程にコミュニティの力関係が複雑に絡んでくる様子もよく書かれている。ハーシム家に宗教的権威と政治的権威が両方とも備わることへの警戒(p.174-177)、カルバラーでのフサインの死を原罪と考えるシーア派(p.253f)。原理主義者サウード家とサウジアラビアがイスラムのなかでは少なくとも典型例ではないこと(p.336)、その原理主義への反動としての国王のイギリス化、そして再反動としてのアル・カイーダの誕生はすっきり書かれていて面白い。

    重厚な一冊だが読みやすいしじっくり取り組むにはよい本だ。

  • [配架場所]2F展示 [請求記号]167.2/A92 [資料番号]2009103399

  • イスラムの内側でもイスラムのとらえ方は一通りではないんだという当たり前のことをしっかりと認識させてくれる本。女にとってのイスラムってどうよ、は今一つわからなかったけれど。

  •  9.11以来、世界情勢の中で非常に重要な位置を占めながら実はよく分からないイスラム教。。イラン人の若き学者がイスラム教の歴史をなぞりながら、現在のイスラム教を説明していく。

     アメリカなどのキリスト教圏とイスラム教圏の対立、そこから生じるテロや政情不安から考えると、現状と本来のイスラム教のギャップが激しいことに気づく。
     マホメッドの頃のキリスト教との関係や争いに対する意識は、今私達がイスラムから受けるイメージと正反対だ。そしてイスラム教を考える上で何より大事で分かりにくい点は政治と宗教の関連性だ。イスラム教では宗教的な指導者=政治的な指導者であるという考えが長くあり、これがイスラム教の歴史に重要な意味を持っていた。覇権争いや様々な思想の違いが多くの戦いを生み、イスラム教を複雑化させる。教祖マホメッドの一族が異教徒ではなく同じイスラム教徒によって滅ぼされてしまったという現実は衝撃的だ。
     筆者は言う。現在の対立はキリスト教とイスラム教の対立ではない。イスラム教の内部の宗派の対立なのだと。実際、オサマビンラディンの思想は他のほとんどのイスラム教徒から非難されている。
    今、イスラム教は宗教改革が起きているのだというのがこの本の主張である。

     自分が全くイスラム教について知らなかったばかりか、イメージしていたイスラム教のほとんどが誤解であったと気づかされる一冊。厚く分かりにくい点も多々あるが、イスラム教の歴史をなぞりながらイスラム教とは何かを説明してる為、比較的読みや進めやすいと思う。
     自分とあまり変わらない若い学者が書いた点も大きく評価したい。

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