鏡の影

著者 :
  • ビレッジセンター
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894361348

感想・レビュー・書評

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  • 16世紀ドイツの異端審問を題材にした物語。
    世界はどうやって出来ているのか、というような秘義を求めて主人公はあちこち転々とする。途中追われる身になっても危機感はなく、なんというか珍道中といった感じで、そもそも同行者があれなわけだし。
    出てくる伝説のモチーフはなんとなく知っている程度だし、宗教的な議論は何のことだか分からなかったり分かるような気がしたり。私には拾えていない面白さがいくつもありそう。
    でも全部は理解できなくてもやりとりが面白いし、この文体が好きなので満ち足りた気分だ。

  • とても面白かったし、すごい作家さんだと感嘆しました。他の作品も読んでみたいです。
    ウンベルト・エーコっぽくて、翻訳みたいで好きな文章です。
    似たような題材を書いた平野啓一郎さんが輪郭線のはっきりとした乳白色のフジタの絵だとしたら、佐藤亜紀さんは輪郭のない沈んだ色調のモナリザです。中世絵画の質感がそのまま文章になったような感じ。ヨーロッパの本物の空気感や匂いが文章に正しく在ります。
    フジタ系の印象の作家さんが多い中、佐藤亜紀さんはくすんで崩れかけたフレスコ画のような、古い記憶と時間をそのまま残すような文章に感じました。現代の作家さんが(しかも日本人が)書いたとは思えないです。
    神話や伝説や有名作品を含んでいながら、この物語自体が古くから伝わる説話や実話のように思えました。多和田葉子さんも空気や匂いを伝えるのが上手だから、女性ならではの長所なのかも知れません。

    私は色々と疎いので、どうして平野啓一郎さんの『日蝕』が芥川賞を獲ったら『鏡の影』が絶版になるのかさっぱり分かりません。まさか、時代とモチーフとテーマが似ているからということではないですよね。何でこんなに素晴しい作品が絶版になったのか不思議です。

  • 16世紀のヨーロッパ。主人公のヨハンは、世界の様態を表す究極の真理を求める話。
    様々な登場人物の思想や欲望を重厚な文体で語る力作。
    ひとつのの文章に詰まった情報量が非常に高いので、じっくり集中して読まないと、この作品が持つ立体的で重厚な世界観を捉られない。
    こんな風に西洋の中世を描ける方ってなかなかいないのではないでしょうか。

    特に、作品中に山賊が修道院を襲って集団レイプをするっていう件があるのですが、これが素晴らしい。
    山賊達は、夜中に修道院に押し入って女性を裸にして、家畜市場のように尼層を分け合っていく。レイプに対する罪悪感が全くないので、凄惨な場面にも関わらずある種、牧歌的雰囲気の中で事が進行していく。
    で、主人公のヨハンは、どうかというと欲望のまま理性を投げ出したい気持ちと、軽蔑している山賊とは違うというプライド又は僅かに残る倫理観の中で揺れ動きながら、どうしていいか分からず一人になる。ところが、誰もいないと思っていた部屋で、隠れていた一人の修道女に遭遇してしまう。
    二人だけの閉ざされた世界の中で、ヨハンの欲望が沸々と・・・・というシーンへつながる。
    レイプを道義的に裁くとか、虐げられた女性の哀しみにスポットをあてるいうことを敢えてしないために、欲望と理性の中で揺れ動く主人公の心理がダイレクトに伝わってくる。

    ネットで調べると平野啓一郎さんが「日蝕」という作品の盗作ネタとして使ったとかいてありました。
    どうもこの盗作疑惑を封じ込めるために、新潮社側がこの作品を絶版にしたとか。

    平野さんの作品は読んだことがないので、日蝕を読んで比べてみようかなと思いました。

    佐藤亜紀さん、作品の素晴らしさに比べて名前が地味だと思います!
    改名を検討してみてはどうでしょう?

  • ワタシは佐藤亜紀の熱心な読者か?というと必ずしもそうとはいえない。
    なぜなら、佐藤亜紀の存在を知った「バルタザールの遍歴」はすでに文庫になっており、その後「戦争の法」も文庫に。書籍として発売していた頃には全く手にすることはなかったからである。
    なので、この「鏡の影」がはじめて手にする書籍だった。
    …といってもビレッジセンターから復刊されたものだけどね。

    この書籍の帯がまたすごかった。「見えない力で絶版にされた文壇・出版界騒然の問題作を完全復刊」…なんだこりゃ??(笑)。

    2000年当時冒頭を読んで一度中断していたこの作品。
    去年の暮れから京極漬けのワタシが、京極夏彦の妖怪小説を一通り読了し(ホントは中公社から出てる「覗き小平次」を読もうと思ったんだけど、見当たらなかった(失笑))、次はナニをよもうかな…と本棚を見てみたら、、ふとこの「鏡の影」がワタシを呼んでいた…(笑)


    内容は16世紀のドイツを舞台にした異端を巡る物語なのですが、「バルタザール〜」と「戦争の法」などなどを読んだ事のある人は、佐藤さんの芳醇な(としかいいようがない)文章に悶絶する事うけあい。読書中アドレナリンでまくり、興奮しまくり、「本を読む」快感に思う様酔った一冊でした。

    そして読み終わった後、この作品が復刊してくれてほんとーーーーーーーに良かった!!
    絶版したまま、この作品を読む事ができなかったら……この快感を味わうことが出来なかったら…、もう多大なる損失だったなぁと思う。
    ありがとう!ビレッジセンター!!(涙)

    しかし、現在ビレッジセンター版の書籍も絶版となり、書店にて入手できるのはブッキングより出版されている書籍(新書?)版。「戦争の法」もブッキングから復刊しれており、「バルタザールの遍歴」は文春文庫から復刊されてる様子。興味のある人はぜひぜひぜひ!一読してほしいです。そして佐藤亜紀さんの描く世界に酔いしれてください。ぜひ。

    余談:ビレッジセンター版には、後に評論家小谷真理の解読「盗まれた知恵の果実」が収録されてたんだけど(これは一読の価値あり!)ブッキング版に収録されてるのかなぁ……。

  • 2010/8/16購入
    2015/2/15読了

  • 全ての人にとって読みやすい本ではないと思いますが、人物の行動にせよ、セリフ回しにせよ、想像するだけでウキウキしてきます。シュピーゲルグランツのくすくす笑いと身軽さがとくに。

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著者プロフィール

1962年、新潟に生まれる。1991年『バルタザールの遍歴』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。2002年『天使』で芸術選奨新人賞を、2007年刊行『ミノタウロス』は吉川英治文学新人賞を受賞した。著書に『鏡の影』『モンティニーの狼男爵』『雲雀』『激しく、速やかな死』『醜聞の作法』『金の仔牛』『吸血鬼』などがある。

「2022年 『吸血鬼』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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