- Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
- / ISBN・EAN: 9784896392098
作品紹介・あらすじ
転進の時は今。拡大、開発、画一、物質経済…。その戦略に日本と地球の明日はない。100年先の未来図が示す"再生の針路"をドクター月尾が語る。
感想・レビュー・書評
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100年先を読むというタイトルの本。なかなか未来のことを予見するというのは難しいものであるが、著者の月尾さんの幅広い知識による内容には舌を巻いた。
そもそも僕がこの本のことを知ったきっかけはMITの石井裕先生の講演を聞いた際に、先生がオススメしていたことがきっかけだった。
なるほど、識者によるレコメンドに耐えうる素晴らしい内容であった。
内容は直近の出来事や東日本大震災に関する話から、古くはカルタゴの歴史まで機知に富む内容の数々であり、バリエーションの豊富さが著者の叡智を物語るかのような内容であった。
ほとんどすべてが重要な個所だったと思うのだが、個人的に最も共感したのは日本の箱もの行政の継続性の欠如に関する指摘である。
折しも最近、トンネルの落盤事故によってその事実が浮き彫りになったわけであるが、昨年の段階ですでに指摘をされていることだ。
また、循環型社会の件にも触れられているのだが、ここでも思う点が多々あった。私は東京に住んでいるのだが、東京は人工物ばかりでなく、自然と共生しようと人工物と自然が混在している。
しかし、その維持管理コストについては、かなりの負担があると思う。
例えば、秋から冬にかけて紅葉が散っていく時期だが、通常の自然環境では落ち葉による堆積が土壌に対しての養分となるエコシステムがあるのだが、東京の場合、下はコンクリートであるため、放置すると景観が崩れてしまう。そこで、人が介在し、その落ち葉を除去するのだが、本来であればうまくサイクルが回っていたはずが、人工介在によって崩されてしまっているよい例なのではと感じている。
他にも枚挙にいとまがないのだが、キリがないので、この辺で。
本書は多くの人に読んでもらうべきだと思うし、日本の良さを今一度再考でき、認識することのできる内容であるため、僕も人にオススメしていきたいと思う。間違いなく星は5つ。
■目次
第1章 開発から回復へ
(「はなやか」で「はかない」人間地球の限界を突破した人類 ほか)
第2章 拡大から縮小へ
(有限の地球に必要な縮小への転換日本発の縮小文化を世界へ ほか)
第3章 画一から多様へ
(画一的な時間感覚からの脱却効率から多様への転換 ほか)
第4章 物質満足から精神満足へ
(反面教師カルタゴの遺訓精神文化の衰退が国家を滅ぼす ほか)
第5章 震災を越えて
(計画停電から計画節電への転換節電は日本の構造転換の契機 ほか)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「100年先を読む」
現代の人間は子孫の資源を食い尽くしている。そこで最近はバックキャスティングという言葉が登場してきた。現在から未来を予測することはフォアキャスティング、バックキャスティングは期待するべき未来から現代の行動を想定すること。
第1章:開発から回復へ
第2章:拡大から縮小へ
第3章:画一から多様へ
第4章:物質満足から精神満足へ
第5章:震災を越えて
物語は第1章の「はなやか」で「はかない」人間というテーマから始まります。地球には5000万種類以上の種が存在しており、人類もその1つであるはずですが、そんな人類は地球に多くを依存しながら驚異的に進化を続けてきました。現在人口は70億人で40年後には90億人を突破することさえ予想されています。一見すると地球の歴史上最も成功を成し遂げた種になりますが、同時に異常な成功とさえ思われます。そんな人類はいかにしてこれから地球と共に生き抜いていくべきなのか?期待する未来の為に現在はどうあるべきなのか?
私は第2章がとても良かったです。特に以下(要約)
有限である地球に生きている限り無限の増大は達成できないのは明白。そこで人類は縮小していかなければならない。この時有効なものは日本が育成してきた縮小文化である。この縮小は物質が縮小すればするほど、精神が拡大していく縮小である。現在日本は政治や経済がグローバリズムの潮流に翻弄され世界における地位を低下させ、国民も自信を失っている。しかし島国で育成されてきた縮小文化は地球で限界を感じ出した人類にとって、大きな力となり、今後重要度を増すだろう。これにより日本は世界に貢献でき、自信を回復することが出来る。
この意見は非常に印象的です。世界のグローバリズムの潮流に翻弄されているのは経済だけ(政治はそもそも日本のぶれぶれ&堕落政治家の問題が大きい。よってグローバリズムのせいだけに出来ないと思う)だと思うが、縮小文化、特に精神の拡大を狙う縮小という点が非常に惹かれます。この縮小文化はちょっとした伝統文化にも根付いていると感じました。
この第2章では「もったいない運動」も取り上げられています。有限な地球に居る限り、資源も有限であるという当たり前なことさえ無視してまたは優先順位を落として生きてきた人類だからこそ、ここまで異常な成長を実現出来たわけだけど、そろそろこの「もったいない運動」のように立ち返る意思が無いととんでもないことになると思います。既にスタートするべき時期は過ぎているかもしれないけど、だからこそ国々は動かないといけない(エネルギー問題も同様。原発にたいしてドイツ、フランスなどの行動の早さと日本の行動の遅さの違いは一体何なのか?原発稼動時期と休息時期でエネルギー問題を見ていく必要があるのではないかと思います)はずです。
そして一番驚いたものはイスラム金融の存在。全く知りませんでした・・・。イスラム金融とは、
①イスラムの教養を墨守して、豚肉、酒、色事などに関する商売に投資しないこと
②利子を禁止、デリバティブ商品も賭博の一種として禁止
③イスラム法律学者で諮問会議を設立して、資金運用、調達が教養に違反しないかの判断を委託する
以上3つを特徴に持つ金融制度のこと。これならサブプライムローンが参入する余地はない。なぜなら住宅を購入する顧客の融資の依頼があった際、金融機関が住宅を先行取得し、顧客は家賃として融資を返済しながら利用し、完済後住宅を所有することになるからです。これであれば、住宅という実体が通貨を裏打ちしているから、サブプライムローンが参入する余地はない。これはなかなか良さそうですよね?
他にも興味深いことが書かれています。一つの教科書のような存在として読んで欲しいです。 -
一般的な日本の社会問題に関して言及をしている。
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日本にある「足るを知る」ことを多様な表現でつたえたいのかな。
事例や引用しているデータが普段目にしないものがあり、興味深い点がある。