- Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
- / ISBN・EAN: 9784897847443
作品紹介・あらすじ
北の街。季節は十一月。「十一月荘」で暮らし始めた爽子の二か月間を、「十一月荘」を取り巻く人々とのふれあいと、淡い恋を通して丹念に描くビルドゥングスロマン。一冊の魅力的なノートを手に入れた爽子は、その日々のなかで、「十一月荘」の人々に想を得た、『ドードー森の物語』を書き上げる。物語のなかのもう一つの物語-。それらの響きあいのなかで展開する、豊かな日常の世界。高楼方子長編読み物第三弾。小学校高学年から大人まで。
感想・レビュー・書評
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「時計坂の家」以来の、久々の高楼方子さんの作品。
最初にこの本を読んでから10数年の月日が流れた。
当時は主人公の爽子に心を寄せて胸をときめかせて読んだのだが、今は母親に共感している。
10数年間は無駄ではなかったのかな、と思いたい。
写実的な表紙絵は、高楼さんのお姉さまである「千葉史子さん」が描かれたもの。
自転車を停めて、白い柵の向うにある洋館を見つめているのが主人公の爽子。
黄色く色づいたイチョウで、季節が秋の終わりだと知ることが出来る。
生い茂ったナナカマドも、北海道の代名詞(?)とも言える存在。
そしてこの時爽子は、この家の名前が「十一月荘」だとはまだ知らない。
まして、ひとめ観て好きになったこの家に、自分が下宿できることになるなんて。
裏表紙はと言うと、夜空を背景にトウヒの木がクリスマスツリー仕立てになっている。
このお話は、表紙がオープニングで裏表紙がエンディングというお洒落なつくり。
11月始めからクリスマスまで二か月間の、親元を離れて暮らす少女の成長物語だ。
登場するのは、大まかに言って大人の女性3人と、子どもが3人。対立する関係は一切ない。
それぞれの関係性の中でささやか出来事が起きては、会話が生まれ互いを理解しあい近づく。
その都度自分の心に芽生えた変化を見つめ、それを「お話仕立て」にして書き留め、爽子が成長していくという物語だ。
この「お話仕立て」というのが面白く、偶然手に入れた「ドードー鳥の表紙」をしたノートに、登場人物たちを他の生きものに模して綴られる。中学生にここまで書けるかな?という疑問も生まれるが、それでも寓話性が高くて可愛らしい。
三人の子どもでこのお話を共有するという秘密の関係が出来上がるのだが、そこまでの過程がなかなか胸がときめくものがある。
爽子を取り巻く大人の女性たちも、のびやかでおおらかでみんなとても素敵だ。
全編通して爽子の内面がそれはこまやかに描写され、「ああ、これはあの頃の自分だ・・」
と思う方も多いことだろう。やや現実離れした設定でも、このお話が多くのファンの心をつかむのはそこかもしれない。
期間限定の下宿住まいなので、いずれ旅立たなくてはならない爽子。
自分の寂しさばかりを見つめていたのが、最後には旅立たれる側の寂しさまで思いやるようになる。
いくら悩んで考えているつもりでも、自分のことで頭がいっぱいなのがこの年頃。
自分以外のひとまで思いやれるようになるなんて、中学生とは思えないほどの急激な成長ぶりだ。可愛い子には旅をさせよ、だわね。このお母さんは出来た方だわ。
北国の澄んだ空気感が漂う、清々しい読後感の一冊。この季節におすすめ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
尊敬するブクログ仲間さんの
「小川洋子さんの『ミーナの行進』に雰囲気が似ている本」とのレビューに
これはぜったい読まねば!と張り切って、巡り会えたこの本。
みずみずしいのになぜか懐かしさがこみあげて、とても素敵です♪
『ミーナの行進』が過ぎ去った日々を愛おしく思い起こすセピアカラーの秋のイメージなら
この『十一月の扉』は、十一月から十二月という季節の中で描かれてはいても
温かい紅茶や手編みのベレー帽や手袋にやわらかく後押しされて新しい世界へと踏み出す
主人公爽子の視線の先に春をイメージさせる、はじまりの物語、という感じでしょうか。
ふと見つけた、ドールハウスのように可愛らしい「十一月荘」での
たった2ヶ月の一人暮らしに胸をふくらませる爽子が
まるで理想の下宿屋さんを見つけた時の赤毛のアンのようで
章ごとに添えられる、作者 高楼方子さん自筆の可愛らしいイラストは
『あしながおじさん』のジュディが手紙に描くイラストを思わせ
ドードー鳥の細密画を型押しした宝物のノートに綴る「ドードー森の物語」は
まさに爽子版『くまのプーさん』という雰囲気で
美しい物語を紡ぐ高楼方子さんの心の栄養となったのが
きっと私も大好きな物語だったのだなぁ、と勝手にうれしくなったりして。
「十一月には扉を開け」をモットーに、
十一月に起こることはとにかく受け入れて前に進む!という
オーナーの閑さんのおおらかな強さに憧れながら
シューマンの『飛翔』の音色を心に刻んで未来へと羽ばたこうとする爽子が
名前そのままに爽やかで眩しい1冊です。-
まろんさんにぜひ、読んでほしいと思っていた一冊です。そうなんです、これははじまりの物語なんです!!
爽子とライオンくんのエピソードも素...まろんさんにぜひ、読んでほしいと思っていた一冊です。そうなんです、これははじまりの物語なんです!!
爽子とライオンくんのエピソードも素敵ですよね。こんな特別な2ヶ月を私も14歳のころ過ごしてみたかったです~。2012/09/04 -
hetarebooksさんのおかげで、またこんな素敵な本に出会えました!
レビューに『ミーナの行進』も関連づけて書いてくださって
ほんとうに...hetarebooksさんのおかげで、またこんな素敵な本に出会えました!
レビューに『ミーナの行進』も関連づけて書いてくださって
ほんとうにありがとうございました♪
シニカルな表情で登場したくせに
爽子のノートを発見してちゃっかり読んで
自分が登場させられてることに気付いた上で
勝手に1章書き加えようかと思った、と言ってのけるライオンくん、素敵でした♪
図書館にはハードカバーしかなかったのですが
文庫版には、巻末にライオンくんからの手紙がついているんですね?
う~ん、読みた~い!2012/09/05 -
2013/11/20
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『時計坂の家』(リブリオ出版)読了時に、ブクログ仲間さんにお勧めいただいて以来、ずっと読もうと思っていた作品。
こちらもなんとすてきな物語なのか…!
11月のはじめ、双眼鏡の先に見えた赤茶色の屋根の白い家。
素っ気ない白い木の門には"十一月荘"と書かれた小さな看板がかかっていました。
その家にどうしようもなく惹かれた中学生の爽子は、東京への転校を先に延ばし、2ヶ月だけ十一月荘に下宿することを決めたのです。
十一月荘の住人は、主人である優しそうなご婦人のほか、建築家のかっこいい女性に小学生の女の子とその母親の4人。
家族ではない人たちと同じ食卓を囲み、同じ屋根の下で寝起きする、爽子の非日常のような日常が始まります。
中学生という多感な時期に、こんな経験ができた爽子をうらやましく思います。
家族を離れ、違う生き方をしてきたさまざまな世代の人たちと共に暮らす中で、自分と向き合うことができたのですから。
でもこんなにも豊かな時間を過ごせたのは、爽子自身がとても賢い子だから、ということもあるでしょう。
この年頃で「心は本当に危なっかしい」ということを自覚できるくらい、自分を持っている子なのです。
爽子はこれからどんな女性になるのだろう。
どんな人と出会って、どんな風に年を重ねていくのだろう。
そんなことを想いながら、なんとも穏やかな気持ちで本を閉じたのでした。 -
しんどい長編ばかり読んできたので、ほっとできる作品を読みたくなりました。前から気になっていた、高楼さんの初期作品です。夢中になって読むというお話ではないけれど、静かに、でもしっかりと進んでいくお話です。私は大人になってから読みましたけど、中学生が読んだら、どう感じたのだろう?
中学生で、こんなに素敵な家に下宿し、女性たちに出会う爽子は、幸せな中学生なのです。爽子は、それぞれの人生を知り、家族以外の大人から、学ぶ経験をしていきます。
ちょっぴり恋の予感も。
感受性の豊かな爽子は、住人たちを登場人物のモデルに「ドードー森」という架空の森の物語を書きはじめます。爽子の書いたお話と、現実の物語が、かわりばんこに読めるようになっています。爽子が、現実をどう受け止め、物語にしていくのか、そのあたりも面白いところです。爽子は、高楼さんの少女時代を思わせます。 -
丁寧に入れた熱い紅茶を思わせる物語だった。
琥珀色の液体がパレードのように喉の奥を通りすぎ、胸いっぱいに灯りをともしていったら、飲みほしたカップの底に秘密をひとつ落としておくのです。
偶然、ではなくシンクロニシティは起こるべくして起こったこと。わたしがのぞいたレンズは物語の始まりにある扉のドアスコープだったのかもしれない。くるくる回ってダンスするみたいにあちらとこちらを行ったり来たり。扉を開けるたび、わたしをとりまく世界が広がっていく。
明るいほうへ、光あるほうへ飛んでいきたいと願ったら、十一月の扉を叩くよ。 -
小学生のころ読んで印象的だった本。
『時計坂の家』もかなり好きだった。 -
「北の街。季節は十一月。「十一月荘」で暮らし始めた爽子の二か月間を、「十一月荘」を取り巻く人々とのふれあいと、淡い恋を通して丹念に描くビルドゥングスロマン。一冊の魅力的なノートを手に入れた爽子は、その日々のなかで、「十一月荘」の人々に想を得た、『ドードー森の物語』を書き上げる。物語のなかのもう一つの物語-。それらの響きあいのなかで展開する、豊かな日常の世界。高楼方子長編読み物第三弾。小学校高学年から大人まで。」
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わくわくするし、面白いし、ほっこりする。
そしてそれだけじゃなくて、子供の頃や思春期の頃の不安定な気持ちが絶妙なバランスで描かれていて、自分にもこの気持ち身に覚えあるなぁと、どこか懐かしさも感じます。
主人公の女の子が作中で書く物語も面白い。
十一月荘での暮らし、物語を書くこと、新しい出会いとそして別れを経験することで成長していく主人公の姿がとても眩しくて、少し寂しくて、読後にはじんわりとした温かさを感じました。
主人公と同年代くらいの男の子も登場するんだけど、この子がまた魅力的なんですよね。
そして2人の関係性も甘酸っぱくてちょっとキュンとなりました。
こんな気持ちしばらく忘れてたわ。