往復書簡 初恋と不倫

著者 :
  • リトル・モア
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本棚登録 : 3014
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784898154618

感想・レビュー・書評

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  • 二人しかいない会話の中で、二人の関係性が少しずつ変わっていく過程が分かる。最初は違和感、警戒。小さな出来事を経て、急な加速で近づいていく。そして思いもよらないアクシデント。でも読者はそのアクシデントを過去形でしか、二人がメールの中で言及している手がかりでしか知ることができない。それが余計に、想像を駆り立てる。

    小説とも、舞台の台本とも違う、二人の人間のやりとりの中に宿る物語。途中からページをめくる手が止まらなくなる。

    「きっと絶望って、ありえたかもしれない希望のことを言うのだと思います。」
    そんな気分で朝起きることが何度もあった。まさに、こういうことなんだと思った台詞。
    すごく新しい読書体験をした。

  • 【不帰の初恋、海老名SA】
    自分の中のなんでだかわからない衝動的な好きとか、忘れられないものとか
    -----------
    こんな風に思うんです。大切な人がいて、その人を助けようと思う時、その人の手を引けば済むことではない。その人を取り巻くすべてを変えなければならない、と。
    三崎明希

    思い出したっていうことは、忘れていたっていうことです。
    玉埜広志

    君がそう認識はしていなくても迷惑は迷惑として存在してるんだと思います。悲しみを伝えることって、暴力のひとつだと思います。わざわざ人に話すことじゃなかった。
    三崎明希

    三崎さんの手を握ることは出来た。だけど大切なことは、握ることじゃなく、放さずにいることだった。
    玉埜広志

    言葉を尽くせば尽くすほど、本当のことから遠ざかるのはいつものことです。
    三崎明希

    人には思春期というものがあって、その時期に出会ったもの、好きになったものは、それ以降に出会ったものとまったく別な存在になるように思うのです。言い換えれば、思春期に好きになったものがその人のすべてになると思うのです。わたしにとってそれは、君でした。
    三崎明希

    どうしてなのかその頃からわかっていました。これから先ずっと、こんなに好きになる人はもう現れないと理解していたからです。これから先、どんな出会いがあっても、どんな別れがあっても、どんなに長生きしてもこんなことはもう一生ないってわかったからです。そのくらい玉埜くんのことが好きでした。その気持ちは今も減っていません。増えてもいません。変わらず同じだけどあります。これからのことも、これまでのことも全部その中に存在してる。そんなわたしの初恋です。
    三崎明希

    わたしの初恋は、わたしの日常になりました。支えのようにして。お守りのようにして。君がいてもいなくても、日常の中でいつも君が好きでした。
    三崎明希

    最近のわたしは、君は明日どんなかなと思いながら眠ります。君は今日どんなかなと思いながら目を覚まします。なんというか、出来れば君の力になりたいと思っています。
    三崎明希

    【カラシニコフ不倫海峡】
    ものすごく泣いてしまった、なんだか木穂子さんを思い出した。坂元さんの言葉に触れると、自分の人生を肯定できるし、もう少し生きていこうって思える。
    -----------
    出したくない元気は出さなくていいと思いますよ。人生は竹内まりやさんが思うよりは悪いものです。
    待田健一

    人間の心で最も制御できないのは、嫉妬とプライドだ。だけどその二つがない人間には何もできない。それは生きるための糧でもあるから。

    わたし、あのおばさんに恩返ししたいと思って、ずっと生きてきた感じなんです。ううん、全然臭くなかったよ。そう言って、二度と働かなくてもいいだけの大金をおばさんに渡して、恩返ししたいなって思って生きてきたんです。
    田中史子

    あなたはとっくの昔に色んなことを諦めた人だった。諦めても諦めても、諦めてもまだ諦めなきゃいけないことは出てくる。もう十分諦めたかなと思ってもまだ諦めなきゃいけない。
    そんな人生を送ってきて、それでも真面目に生きてて、朝になるとちゃんと目を覚まして、今日その一日を諦める。
    待田健一

  • 坂本裕二はままならない人生を書かせたら右に出るものは居ないな。
    本人は懸命に生きているのに、周囲の圧力や搾取が彼らの生活からまともさを奪っていく。
    ハズレだらけの選択肢からせめてものマシなハズレを選んで行くうちにどんどん窮地にはまり込んでいく。
    外から見たら「いや逃げれば良かったじゃん」と簡単に言ってしまいそうになるけど、ひとつひとつ歩みを辿っていくと、それ以外の道が無かったとわかる。

    心がグッと重くなるんだけどどこかに救いがある空気なのがすごい。サクッと読めた。

  • 君がいてもいなくても、日常の中でいつも君が好きでした。の言葉の表現が美しすぎて。このページを繰り返し何回も読んでしまうくらい好き。

  •  坂元裕二はこの2つの物語の中で言葉を変えながら同じことを繰り返している。川は繋がっていて誰かの身の上に起こったことは誰にでも起こり得るし、メキシコの出来事が日本の食卓に影響する。
     この悲痛とも言える叫びは「Mother」では児童虐待、「Woman」ではシングルマザーの貧困や冤罪、「問題のあるレストラン」ではパワハラ・セクハラ、「それでも、生きていく」では犯罪加害者と被害者、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「anone」では若者の貧困がこの世界に転がっていることを私に気づかせてくれた。どのドラマにも悲劇が描かれていて、本著でもその悲劇から逃げない。世界のはみ出した部分をなかったことにしない。その姿勢こそが、信頼できると私は思うのです。
     坂元裕二のドラマはどれも大好きやけど、真骨頂は噛み合っているのかわからない会話。それを文字だけで楽しめるって贅沢だったわ。もっと本書いて。

     ファンにはたまらない坂元ドラマのエッセンスがたくさん散りばめられていたのも嬉しかった、とりわけ“初恋が日常になる”くだりに「すずめちゃん…!」となったのは私だけじゃないはず。ああみぞみぞする。

  • これは...こんなに先の読めない、起承転結が何回あるんだろうみたいな、ジェットコースターみたいな話が2つも書けるなんて天才だと思う。初恋の方も素敵で、ロマンティックで良かったけど、不倫の方を読みきると初恋のこと忘れちゃうくらい、パンチ効いてた。関連があるようでなかった豆生田の設定も素敵。すとんとは落ちない展開もいくつかあったけども、そんな違和感も感じさせないくらいのスリル感じが最高だった。
    ●絶望って、ありえたかもしれない希望のことを言うのだと思う
    ●人間の心で制御出来ないのは、嫉妬とプライドだ。だけどその二つがない人間には何も出来ない。それは生きるための糧でもあるから
    ●大切な人を守りたいのなら、その人の手を引くだけでは足りない。その人の周りの環境もかえなくてはならない。
    抜き出してみると、初恋の方は名言ばっかりだ。響いた。

  • 往復書簡ってだけで胸アツなのに、中身がまた、これ。村上春樹を易しくした具合の。話が横道にそれる感じが好き。ズレてしまった愛情が好き。

  • ざわざわするような不思議なふたつのお話。
    直接ではなくメールや手紙で話しかけ合うふたり同士の物語。
    行間のある言葉たちは、静かなのに生々しく生きている気がして、一瞬で読み終わってしまった。

  • 坂本裕二さん好きです。
    ドラマも映画もほぼ観てる。
    一つ一つの言葉が刺さりまくる。
    どうやって表せばいいのかわからないような感情を、こんなにも素敵に具体的に言葉にしてくれる。

    はぁー好きです。笑

  • 坂元裕二信者には堪らない1冊でした。
    何気ない言葉1つ1つが生きる意味を物語っていて、
    キラキラした宝物みたいに思えます。
    坂元裕二さんは天才です。

  • ひたすら手紙、メールだけのやりとりで登場人物の2人の目線のみで語られるストーリーは他ではあまり読んだことがない作風だった。
    物語の中で2人は実際に会っているシーンもあるはずなのにそこは文字にせずカットしてまた手紙のやりとりからのスタートになったり…
    人物や状況の情報が少ないため、想像力を膨らませながら読み進めていくのがおもしろかった。

  • 坂元節炸裂の最高の往復書簡。初恋と不倫の二部作、何れもストレートには進まない恋模様を、メールや手紙だけで展開していく。絶妙な切り返しに思わず笑い、素直になりきれない心に共感し、まさかの結末にあっと言わされる。本当に面白かった。私もこんなセンス溢れた返信をくれる恋人が欲しい。「台詞の魔術師」の所以はその名の通りだと、改めて実感。

  • 人間味溢れる会話で、まるで自分が体験したようだだった。非現実的な出来事なのに、所々で吹き出してしまう面白さに虜になりました。

  • 私も坂元ドラマが好きですよ。
    好きなドラマ、印象に残っているドラマというと、「カルテット」とか「それでも、生きてゆく」とか坂元ドラマばかりが浮かんでくる。
    映画を見に行くことができなかった罪滅ぼしのような気持ちもあり、本を買いました。

    やっぱり、よかったです。とってもおいしい料理を味わった気分です。

    思春期に好きになったものがその人のすべてになる(73ページ)

    そうかもね、そうかもね。あの時手のひらを合わせたことが、人生のドライバーになる。
    一方で13歳の娘を持つ身としては、とてもドキドキします。

  • 2組の男女の往復書簡。
    全く接点のない2組と思いきや、読み進めていくと1つの共通点で繋がるという面白さ。
    クスッと笑いながらも切ないストーリー。
    坂本裕二さん、やはり大好きです。

  • 流石の出来です。坂元さんのある種外れ物感のある登場人物と会話回しはまさにこの人にしかないものです。ドラマなどで好きになられた方には是非気楽な気持ちで手に取って欲しい。

  • 大切なことは手を繋ぐことではなく、繋いだ手を離さないこと。

  • 豆生田 笑笑

  • めちゃめちゃ好きでした。
    日常の中でいつも君が好きでした。ってところのセリフがずっと心に残ってます
    素敵だけど切ない

  • 会話、ストーリー、どれをとってもいい。

    坂元裕二のドラマや映画は実はそんなに刺さらなくて、なんかそれが悔しくて読んでみたんだけど、すんごく良かった。

    性行為の回数をラブホのポイントカードで数えること、渋谷は馬鹿が作った駅です、そういった細々とした描き方が素晴らしかった

  • やっぱり坂元裕二が好きだーーー、文字を追う度、ページをめくる度に湧き出るこの感情は坂元裕二にしか引き出せないと私は思っている。そして思わずふふっと笑ってしまうような小さなネタが大好きで、それが突飛なものではなくどこにでもあるようなものだからこそ親近感が湧く、のに、ストーリーがちょっと一捻りしたような構造になるから油断していると置いていかれる。
    カラシニコフ不倫海峡の方が好きなんです。特に2のところが良かったです。互いの心を探りあっているはずなのに互いの妻、夫の好きなもの、嫌いなものを聞いているシーン、謎すぎないですか?でもそれが愛おしく思えるのが坂元裕二なのだと思った。

  • 20221121

  • 豆生田が本当に、良い役割をしている。激しくどうでもいいようで、謎に心に残る存在。
    この物語の登場人物は、全員が少しずつ狂っているのに正常な顔をしている。(いやそんな狂ってもいないのかもしれない)会話のディティールはやはり秀悦!!!

  • 思春期のところが良かった

  • こんなに見事な会話劇を堪能したのに、読み終えた最初の感想が「やばい」でした。自分の語彙力。そしてそのまま2周目に突入。期待通りの坂元裕二ワールド。きっとまた読み返す。おすすめです。

  • 脚本家でも有名な坂元裕二の短編物語。

    メールや手紙、二人の男女が綴るやりとりのみで構成されたストーリー。
    背景描写や心理描写は全くない。会話のみ。

    坂元裕二の世界観が会話の中に現れていて、人の会話を聞いてるとクスッと笑っちゃう感じが素敵。

    <不帰の初恋、海老名SA>
    <カラシニコフ不倫海峡>
    両方に通ずるんだけど、「自分が直接的には知らない、あの子」に想いを馳せるシーンが印象的。
    話で聞いただけのあの子、読んだだけで知っているあの子(この場合ルア)を考える時って自分もあるなぁ。
     
    カラシニコフに関しては最後の一文。
    返事をしたということは、違う世界に行ったからこそ返事ができたのか…
    でも朗読劇では、あの、一文なかったようだし、含みを持たせたのかな。

    ☆ 世界のどこかで起こることはそのまま日本でも起こりえる

  • 両話とも頭の中で高橋一生を召喚したけどどうやらほんとに公演してたよう。
    会話というか手紙、メールだけでもかなり読み進めてしまう展開があった。
    どんどん読める一文の短さではあるけど、そのたび立ち止まってゆっーーくり読みたくなる。

  • 素晴らしい会話のリズムと言葉。面白くて切ない。好きだと直接言うこと以外でもこんな風に気持ちが伝わるなんて…!そして、とても覚えがある感じでもあった。
    もう一回読もう。書き写したいくらい。

  • ああやっぱり好きだ


  • こころを癒し、時に抉るけど、
    いつまでも大切にして、読み返したい一冊。

著者プロフィール

脚本家。ドラマ「東京ラブストーリー」「それでも、生きてゆく」「最高の離婚」「わたしたちの教科書」「Mother」「Woman」「カルテット」等、向田賞ほか受賞多数。映画、舞台でも活躍。海外でも高い評価を得ている。

「2022年 『初恋の悪魔 2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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