琉日戦争一六〇九: 島津氏の琉球侵攻

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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784899821700

作品紹介・あらすじ

最新の歴史研究の成果で「島津軍の琉球侵攻」を、琉球王国、日本、そして海域アジアを巡るダイナミックなスケールで描き出す。
独立王国・琉球を狙う「九州の覇者」、薩摩島津氏。そしてアジア征服の野望を抱く豊臣秀吉、対明講和をもくろむ徳川家康。ヤマトの強大な力が琉球に迫る。これに立ち向かう尚寧王と反骨の士・謝名親方。海域アジア空前の「交易ブーム」の中、うごめく海商・禅僧・華人たちが情報戦(インテリジェンス)に絡み合う。『目からのウロコの琉球・沖縄史』『誰も見たことのない琉球』で大注目の若き琉球歴史研究家、満を持しての書き下ろし!

感想・レビュー・書評

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  • 歴史好きのウチナーンチュとしてはかなり読み応えのある一冊。著者の上里さんのブログは昔好きでずっと見ていたけれど、今回この一冊を読んだことによって夏休みの余暇が一つ決まった。沖縄のグスクめぐりをしよう。

  • 日本の琉球侵略の歴史が理解できる好著。

  •  沖縄県の歴史を紐解く時、その中にいくつかの重要なポイントがある事に気づく。2000年のサミット開催、1972年の日本復帰、1879年の琉球処分…。琉球王国時代から激動の歴史にさらされてきた沖縄だが、その中でも非常に重要な位置を占める事件がある。そう、薩摩藩による侵攻である。

     本書は、若き歴史学者である著者が満を持して放つ歴史ノンフィクション。1609年の薩摩・島津氏の琉球侵攻において、弱小国であった琉球がどのように応戦したかを克明に描き出す。
     本書の冒頭で著者が述べている通り、琉球の歴史について研究する際は日本の一地方の歴史として扱うのではなく、1つの独立した王国の歴史として扱う必要があり、またそれを海域アジア世界という巨視的な視野の中で捉える必要がある。

     そして本書のメインテーマである島津氏による琉球侵攻事件。実はこれに関する歴史認識は沖縄県の人でも十分とはいえない。
    <平和な琉球王国に対して突如、薩摩藩が侵攻を開始。これに対して武器を持たない島であった琉球は抵抗らしい抵抗もせず降伏。王は首里城を明け渡し、以後、琉球は薩摩藩に服属する事になった>
     というのが、沖縄の人たちが薩摩の琉球侵攻に対して一般的に抱いているイメージだと思う。自分も子供のころ親や大人からそう教えられた覚えがある。
     ところが、現在の歴史研究では琉球が武器を持たない島であったという「イメージ」は否定されている。武士にあたる人たちもいたし、軍隊組織もあったのだ。
     我々沖縄の人間の認識でさえそうなのだから、鹿児島の人たちだって薩摩藩の琉球侵攻に対して正確には認識されていないのかも知れない。
     この歴史的一大事でありながらあまり正確なところが伝わっていない出来事について、著者は琉球王国成立までさかのぼりバックグラウンドを丁寧に解き明かしていく。

     素人の認識としては薩摩藩が琉球に侵攻をしかけたというのが一般的だが、実際は薩摩の背後には豊臣秀吉のアジア侵略構想や徳川家康の貿易利権が見え隠れしていた。
     著者は当時の幕藩体制下における中央政権の意図の存在を明らかにしつつ、これが単に琉球と薩摩二者間の問題だったのではなく、日本対琉球の武力衝突/侵略戦争であった事を強調している。つまりこれを琉球史上初めての本格的な対外戦争、すなわち「琉日戦争」であったと捉え、琉球史を再構築しているのだ。

     迎え撃つ琉球王国は無抵抗で侵略されたわけではなく、軍を動員し戦略的な抵抗を試みていた。海に囲まれた琉球の場合、拠点を封鎖することで敵の動きを封じる事が出来る。そのような戦術を駆使しつつ、一方では超大国・中国を巻き込んだ情報戦を巧みに仕掛けていた。
     そこには武器を持たない純朴な民というイメージはない。本格的な対外戦争を経験した事はなかったが、黙ってされるがままになっていた訳ではなく、独立国家としての威信を持って薩摩軍に対峙していたのだ。

     ところが琉球内部も一枚岩ではない。当時の尚寧王は出自の血統に関するわだかまりを抱えておりそれが微妙な影を孕んでいた。そこらへんの融通のきかなさと不器用さはなんか今の沖縄の人にも通じる気もする。これ以外にも、外交において自分に不利な出来事に直面すると若干事実を歪めつつものらりくらりとかわしていく戦法もなんか沖縄っぽいなーと思う。
     ただ、薩摩軍の内部も実はあまり統制がとれていなかった。寄せ集めの軍勢は規律を無視し時に暴走した。侵攻する側も迎え撃つ側も実は身内に不安を抱えつつ戦をしていたのである。

     結局、戦国時代を生き抜いた百戦錬磨・島津氏の圧倒的な戦力の前に、経験の差は歴然、琉球はあっけなく敗れてしまう。いくら必死に防戦したとはいえ実戦経験のない琉球を征伐することは赤子の手をひねるようなものだったのだろう。
     しかしその後も琉球は日本と中国に両属する形をとりながら対外的には独立国として存在し続け、日中の狭間でしたたかに立ち回り約270年も生き残るのである。そこに現在の沖縄をめぐる米軍基地問題など様々な事柄のルーツを見出すことも可能ではあるが、著者はそうしてはいない。安易に歴史を語ることの危うさを知っているからだろうか。読み終える頃には琉球という国のイメージが変わっているはず。

     このように歴史的資料を多数引用しつつ、専門書ではなく一般書として刊行された本書は読み物としても面白い。こういう本って今までありそうでなかったのでは。
     この本の内容について評論するほどの知識は自分には無いが、多角的に、ダイナミックな視点で自分が暮らす土地の歴史を捉え直す面白さを知った。

     秀吉の朝鮮出兵に関する辛辣なコメントなど、著者の語り口も気持良い。多くの人が手に取りやすい文庫版の刊行を期待。角川ソフィア文庫あたりで文庫化してくれないかな。

  • 目次

    第1章 独立国家、琉球王国―プロローグ・琉球の章
    第2章 九州の覇者・島津氏と琉球―プロローグ・島津の章
    第3章 豊臣秀吉のアジア征服戦争
    第4章 徳川政権の成立と対明交渉
    第5章 島津軍、琉球へ侵攻
    第6章 国敗れて
    第7章 「黄金の箍」を次代へ―エピローグ

  • 歴史資料を丹念に読み説いていった著作。

    いわゆる読み物でもあるが、どちらかというと、
    研究論文の延長線上にあるようなテイスト。

    どのようにして、島津家に琉球が屈することになったのか。
    琉球のみならず、島津家の内情も追っていて、
    両面からわかるようになっている。

  • (欲しい!)

  • 琉球の尚氏政権が如何に日本と外交を行ってきたか?
    しかも、日本国内で島津氏の権力増大、豊臣秀吉政権の成立、
    朝鮮出兵、そして徳川政権の成立という激動の時代。
    如何に日本と明とバランスを図りながら政治を行うかに苦心するも、結果的には島津軍の侵攻を招いてしまう。
    そのあたりの歴史が詳細に説明してあり、読み応えが十分な本でした。

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著者プロフィール

琉球歴史研究家。浦添市立図書館長を経て、内閣府地域活性化伝道師。NHKドラマ「テンペスト」時代考証や、NHK「ブラタモリ」案内人などメディアでも活躍。著書に『知れば知るほどおもしろい琉球王朝』等。

「2022年 『マンガ 沖縄・琉球の歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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