- Amazon.co.jp ・本 (155ページ)
- / ISBN・EAN: 9784903619149
作品紹介・あらすじ
ドストエフスキイとならぶロシアの文豪として知られるトルストイは、有名な大長編だけでなく、自分で猟に出かけたり蜜蜂を飼ったり農作業をしたりして、その体験や村の人々の話をもとに子供向けの短い作品をたくさん書いていました。ロシアの農村のくらしや動植物の不思議な力を驚きの目をもって見つめた短編と、いまだに続くチェチェン戦争の戦地カフカース(コーカサス)での従軍体験をもとに書かれた中編を新訳でお届けします。
感想・レビュー・書評
-
短編23編と中編(表題作)1編を収める。これらの中短編はトルストイ編纂の『新初等読本』と『ロシア語読本』から選ばれた作品だという。その『読本』は学校に通う子供たちのための教科書のようなものらしい。
短編はトルストイ自身の農村での経験に材を取ったらしい、蚕を飼い育てたときの話や蜂飼いのところで女王蜂を見せてもらった話。村の人たちに加勢してもらい雪深い厳冬の森で熊狩りをした時の話などがある。農村に暮らしていた時の実体験に根ざした素朴で牧歌的な内容のものが多い。
そして中編「カフカースのとりこ」。“とりこ”は虜囚のことである。18世紀頃ロシアはカフカース地方でダタール人ら反乱勢力に対する討伐作戦を続けていたそうで、その頃の話。トルストイ自身もセヴァストポリ要塞に赴任する前に実際にカフカース地方に軍人(下士官)として勤務していた経験があるという。本作はトルストイの実体験ではないという。ただロシア軍人がカフカース地方の敵対的な民族に殺されたり捕虜となるケースは実際にあったらしい。
で「カフカースのとりこ」である。同地で軍務に就いていた若い士官ジーリンは、カフカースのタタール人勢力言わばゲリラ勢力に囚われてしまう。同僚の士官と2人、ゲリラ勢力の村で、足枷をかせられ小屋に軟禁される。ゲリラ側は身代金が目的である。ジーリンは素朴な泥人形をこさえたり機械を修理したり、そういう器用さと人柄で村人の一部から信頼を寄せられるようになる。そして村の娘ジーナとも心を通わせるようになる。
終盤ジーリンは村を脱出。その際、村の娘ジーナは夜半にこっそりジーリンの逃亡を助けるのだった。
というお話である。
解説によればこの中編は『コーカサスの虜』という映画になったそうだ(96年セルゲイ・ボドロフ監督)。映画はチェチェン紛争を舞台に置き換えたという。チェチェン紛争では凄惨な局面も多かったと聞いている。またかつてのソビエト映画でも中世のタタール人による残酷な拷問の場面があった。
そうしたことが頭の隅にありつつ読み進めたので、虜囚と通じた村娘ジーナがどんな悲劇に見舞われるやしれない、と気が気でなかった。そのためジーリンが辛くも脱出に成功する言わばハッピーエンドな終幕に、楽観的すぎる印象を抱いた。
ちなみに 私が想像していたバッドエンドな展開とは
…ある日ゲリラの村はロシア軍救出部隊の急襲を受け虜囚のジーリンらは解放される。だがその際の戦闘で村娘ジーナは殺されてしまうのであった…。
なんていう悲惨な終幕も思い描いた。でもまあ小学生くらいを対象にした副読本のために書かれた作品ではそんなバッドエンドは無いでしょうね。
その点も含めて映画化作品を観たくなった。詳細をみるコメント0件をすべて表示